どうも、坂津です。
年末が近付くといつも思い出すことがあります。
それは大学時代、コンビニでアルバイトをしていたときのこと。
基本的に自給が高い深夜のシフトに入っていた私は、クリスマスだろうが大晦日だろうが構わずじゃんじゃん働いていました。
あれは2000年の12月31日から2001年の1月1日にかけて、年越しバイトをしたときのこと。
タイミング的に20世紀から21世紀へ移り変わる瞬間ということで、世間も少しだけ盛りあがっていたように思います。
しかし私にしてみればいつも通り弁当やおにぎりの賞味期限をチェックして、期限の超過分と中華まんの売れ残りを廃棄し、蒸し器の洗浄とおでんダシの補充、フライヤーの油抜きと清掃&充填などなど、これ以上ないほどの通常運転です。
私にとっては単純に『日を跨ぐお仕事』です。
ですがそれは『年を跨ぐ瞬間』であり、更に『世紀を跨ぐ瞬間』でもあったのです。
確か23時30分頃だったでしょうか。
あと30分ほどで21世紀を迎えるというそのとき、店内は閑古鳥が騒々しく啼いておりました。
立地の関係で客層の大半が大学生と自衛隊員という店でしたので、年末年始は帰省してる人がほとんどです。
元々そんなに客数が多い店では無いのですが、更に輪を掛けて暇オブ暇という状況の中、とあるお客様がご来店されました。
その女性は寒風吹きすさぶ深夜、店員である私以外に誰も居ないコンビニに、まるで似つかわしくない満面の笑みを浮かべながらやってきました。
寒さのせいか頬を赤く染めており、それが彼女に少しだけ幼い印象を与えていたように思います。
恐らくは私と同じ大学の学生だろうと思いましたが、知り合いではありませんでした。
彼女は入店するや否や買い物カゴを手に取り、店内をぐるぐると回遊し始めました。
特に何か目当ての物を探しているという感じではありません。
時計を気にしながら1点、また1点と商品をカゴに入れていきます。
そして15分ほど経過したとき、彼女はレジにやってきました。
そして。
「これ、お会計せずに合計金額だけ見たいんですけど・・・」
レジの機能的には全く問題のない操作ですが、しかし彼女の真意が分かりません。
咄嗟に言葉が出てこず、短く「えっ」と発してしまった私。
するとすぐに彼女は自分の目的を説明してくれました。
「あの、2001年になった瞬間に、2001円分の買い物をしたレシートが欲しくて・・・」
なるほど。
そういうことなら喜んで。
しかしよくそんな面白いコト思いついたな。
感心しながら商品のバーコードをスキャンすると、合計金額はぴったり2000円でした。
「あ、計算間違えちゃった。確認しといて良かった」
当時は消費税が5%で、20円につき1円の端数が発生する環境でした。
その辺のことも踏まえ、ちょうど良い金額の商品を再度店内から探します。
もうそんなに時間はありません。
店内に2台あるレジのうち、もう片方を解放しました。
さっきの2000円分の買い物は会計キーを押さずに待機状態にしてあります。
あと5分ほどでその瞬間を迎えるというとき、やっと2001円分の買い物が用意できました。
金額を合わせるために必要ない物ばかり入ったカゴ。
レジのパネルが表示する時計を見守りながら、その瞬間が来るのを待ちます。
そして『23:59』。
20世紀最後の1分。
私は待機していた2000円分の買い物のレシートを発行しました。
不思議そうな表情の彼女。
そしてすぐさま隣のレジに移動して迎えた21世紀。
会計キーを押すと、彼女が望んだ『2001年1月1日0:00』に『税込2001円』というレシートが発行されました。
「ありがとうございます!めっちゃ嬉しい!」
破顔して喜ぶ彼女に、私はもう1枚のレシートを渡します。
それは『2000年12月31日23:59』の『税込2000円』のレシート。
つまり2000年最後の瞬間の2000円レシートと、2001年最初の瞬間の2001円レシートが揃ったことになるのです。
それを説明すると、彼女の感動は
さらにレシートは感熱紙なので時間経過で印字が消えるため、コピーを取るなり写真に撮るなりしておいた方が良いことも知らせておきました。
彼女は何度も何度も私にお礼を言い、2枚のレシートを大事そうに鞄にしまいながら帰っていきました。
何でも無いごく普通のバイトだったはずの夜が、彼女のお陰で特別なものになった気がします。
寒い寒い夜の道に小さくなる背中を見送ったあと、ほっこりした気持ちで仕事を再開しようとした私は、ふと気がつきました。
お金もらってない。
よく考えたら商品も渡してない。
彼女は純粋にレシートだけをゲットしていたのでした。
特別感に浮かれていた私のミスですが、彼女も気付かなかったのでしょうか。
幸い商品が手元にあるので返品処理をすればレジの金額が合わないという事態を避けることはできます。
私の21世紀最初の作業は、2000円分と2001円分の返品作業でした。