『かなり』

干支に入れてよ猫

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にそくのわらじ

どうも、坂津です。

中学生時代の私は二足の草鞋わらじを履いている時期がありました。

『勉強とスポーツ』みたいなありふれたヤツじゃなく、もっとレアなワラジです。

一方は言わずと知れたオタク道。

私の周囲でもセーラームーンを毎週欠かさず視聴し、毎月欠かさずアニメディアを購読する男子はなかなか居ませんでした。

そしてもう一方。

もう時効だと思うので白状しますが、ちょっとだけヤンチャなコトもしてたのです。

それは二次元オタクとは正反対、対岸も対岸、決して交わることのないパラレル世界。

いわゆる『不良』と呼ばれる連中とも仲良くしていたのでした。

 

とは言えやってるコトは可愛いモンでしたけどね。

一部の過激派が他校との抗争なんてのを繰り広げていましたが、私が付き合いのあった連中はそこまで派手ではありませんでした。

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私が通っていた中学校は新設校ということもあり、周囲の古参校の不良連中からは『あいつら早めにシメとこう』みたいな視線を一身に浴びていました。

それに対抗すべく編成された『他校制圧派』は、ほとんど授業にも出ずに喧嘩ばっかりやってて、とにかく『ウチの学校名かんばんがナメられないように』という強い信念を胸に生きていました。

そいつらと協力関係にある別グループは、基本的には『校内をシメる』という目的を持った共同体で、主な仕事は一般生徒の管理監督という『校内制圧派』です。

他校制圧派によるハンティングで狩り漏らした残党が、たまに平日の授業中にバイクでカチ込んで来たりしましたが、そーゆーのを教師より先に発見、捕獲、フルボッコにするのも校内制圧派の役割でした。

あと、言わずもがなですが、オタクはキモがられるのが役割でした。

 

さて、周囲から冷やかな視線を受けつつも日々のアニメを生き甲斐にひっとりと慎ましく不健全に生きていた私ですが、ある日どういうワケか校内制圧派の連中に目をつけられてしまいました。

心当たりは、セーラームーン最終回を観て精神的にちょっと病んでて言動がおかしかったことくらいしか思い当たりませんが、ともかく呼び出されてしまいました。

トンチはあざやか一級品でも喧嘩はカラッキシで三級品な私。

一対一タイマンでの戦闘力でも敵いっこないハイレベルヤンキーを複数人相手に丁々発止など夢のまた夢でございます。

流れ出る脂汗で曇る視界の中、とりあえずリーダー格の同級生に震え声で問い掛けました。

 

私「あんたらの勇気に敬意を評し 45%で戦ってやろう

不「うるせぇ(ボコッ)」

私「かつてないこの緊迫感!!これこそがオレの望む戦い!!

不「黙れ(バキッ)」

私「100パーセント中の100パーセント!!!

不「(ドカッ)」

 

ちなみにセリフだけは勇ましいのですが、私は無抵抗でしたからね。

ただこっちは手を出していないのに殴られ続けてると、だんだん無抵抗で居るのがアホらしくなってきました。

そして私はガンジー作戦を終了し、ハンムラビ作戦へと戦略を切り替えたのです。

やられた分だけやり返す、というシンプルなやつ。

私は「右ストレートでぶっとばす 真っ直ぐいってぶっとばす・・・」と口の中でモゴモゴ言いながら腕を振り回していました。

 

すると無我夢中で抵抗した私の態度がなぜか彼らに気に入られるという奇跡が舞い降り、いきなり仲間入りという展開になったのでした。

口々に「なんだ根性あんじゃねぇか」「見直したぜ」などと言う彼らの心境変化の乱高下はまるで女心と秋の天気そら

そんな不良の機微には全くついていけませんでしたが、とりあえず降りかかる暴力から逃れられたので良しとしておきました。

こうして校内制圧派にグルーピングされてしまった私でしたが、それで趣味趣向が変わることはありません。

今まで通りオタクとして通常通りにキモがられるという日常を過ごしていました。

変わったことと言えば、これまでは大人しい単独オタクだったのですが、校内制圧派の不良たちにアニメを布教し、少数ではありますが同志を増やすことに成功したくらいです。

 

さて、こうして『オタク』と『不良』という二つの全く異なる世界に身を置くこととなった私は、周囲から益々変な目で見られるようになります。

『キモオタのくせに不良連中と仲が良い』とか『俺らのツレなのにワルくない』とか。

 

不良グループからは校舎裏でタバコとか校内備品の器物破損とか、そーゆー『ありきたりな不良像』への勧誘もありましたが、私はきっぱりとお断りをしていました。

 

不「次の授業サボって屋上でヤニ吸おうぜヤニ」

私「酒はダメなんでオレンジジュースください

不「また始まったよ坂津の意味不明なセリフ集」

私「戸愚呂弟のセリフだぞ。覚えておくと良い」

不「お前ホント好きだよなアニメとか漫画とか」

私「当然だな。俺は品性まで売った覚えはない

不「それが品性なのかどうか疑問しか無いがな」

私「本文中の太字はすべて戸愚呂弟のセリフだ」

不「本文?太字?」

私「気にするな」

 

そんな私は当然のように周囲から浮いていました。

一般生徒からも、不良グループからも。

いや、いま考えればそう思っていたのは私だけだったのかも知れません。

一般連中は私の趣味をキモがりながらも和気あいあいと話し掛けてくれましたし、休日にカラオケに行くだとか、映画に行くだとか、ごく普通の青春活動にも誘ってくれました。

不良連中も、いつも断る私を何度も誘ってくれましたし。

 

私が自分自身に感じていた『なんか人と違う』という漠然とした不安。

自分が何者なのか知りたいけど、何者でもないという答えには辿り着きたくない。

そんな中2病のせいで、自分から周囲に馴染まないようにしていたのかもしれません。

なにせ『オタク』で『不良』ですから。

当時はそんな珍生物、居ませんでしたし。

 

しかしこんな私のウジウジした生活も、校内制圧派に所属していた不良女子のお陰で一変することになるのです。

私は彼女のご支援により、フッ切れたオタクになれたのでした。

 

そのエピソードはまた明日。