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『かなり』

私が感じる「かなり」なことを徒然に。

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靴というテーマで短編の文章を書いてみる

ショート駄文

どうも、坂津です。

まさかこんな企画があったとは。

今まで色々な駄文を垂れ流してきましたが、こういう企画へ参加するのは初めてです。

とある方から「自己満足で終わるよりも、ちゃんとしたその道の人からアドバイスなり賛否両論を貰ってみろ」とご指摘をいただきました。

そして出逢ったこの企画の締切が、今日の深夜(笑)

なんとも余裕の無い出会いよ。

 

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

 

彼が彼女を失ってから、一体どれほどの時間が流れただろう。

 

二人はいつも一緒だったのに。

 

どこに出掛けるのも必ず一緒だった。

 

雨の日も、風の日も、時には彼が先を行き、時には彼女についていく。

 

家に帰れば仲良く隣り合って、寄り添って。

 

それなのに、彼女はもう、居ない。

 

彼はただ一人、どこに出掛けることも無く、動き出そうともしなかった。

 

ただただ、自責の念を募らせるばかり。

 

なぜ自分だけが助かった?

 

なぜ彼女を守れなかった?

 

彼女が汚されてしまったとき、自分は後ろから彼女を見ていただけ・・・。

 

 

 

そのあと彼女は身を引きずるようにして、彼の後を追った。

 

しかし彼女が彼に追いつくことも、二人並んで寄り添うことも、無かった。

 

彼女はしかし、ほんのちょっぴり幸せだった。

 

自分の身に降りかかった不幸は、決して喜ばしいものではない。

 

でも、少なくとも彼がそうなったシーンを目の当たりにするよりも、ずっと良い。

 

彼女は自分が汚されてしまったことを自覚していた。

 

きっと捨てられてしまうことを覚悟していた。

 

彼に合わせる顔が無い。

 

 

 

無情に苛まれ、気力を失った彼の右側には、空虚が存在していた。

 

自らの半身とも呼ぶべきパートナーを失って初めて気付く、不在という存在。

 

それは透明すぎて見えず、濃厚な未練が集積しただけの実質的無、かも知れない。

 

真っ暗な部屋の中で彼は、自分の右側を見つめ続けた。

 

 

 

彼女は困惑していた。

 

なぜ自分はまだ生きているのだろうか、と。

 

いっそ誰かが八つ裂きにでもしてくれないかしら、と。

 

汚れてしまった我が身を嘆くことはもう止めた。

 

彼には別のお似合いの彼女を見つけて幸せになって欲しい、と願った。

 

そんな彼女の覚悟をあざ笑うかのように、無情の雨が彼女を襲った。

 

今まで経験したことの無いような、激しい雨。

 

このまま溺れてしまうのも良いと思うほどの雨。

 

全身がふやけて、やがて水になってしまえば良いと思うほどの雨。

 

やがて彼女は、ざぶんと全身が水に浸かる感覚に襲われ、意識を失った。

 

 

 

彼は久しぶりに太陽の下に出た。

 

まだ彼の右側には無が有り、彼の作る影がより一層孤独の色を深めていた。

 

彼はなぜ自分がここに居るのか、分からなかった。

 

 

 

彼女は目覚めた。

 

強い乾きと全身のこわばりを感じながら。

 

容赦なく照りつける強い日差しにうんざりしながら、もうしばらく眠ろうと思った。

 

その閉じかけた彼女の視界に、ぼんやりと、彼が映る。

 

夢では無い。

 

彼は、そこに居た。

 

 

 

彼の隣にあった無は、トッという音と共に消えた。

 

彼女が、居た。

 

 

 

彼と彼女は再び寄り添い、隣り合った。

 

彼女はもう汚れていない。

 

彼の右側には元通りの綺麗な彼女が居る。

 

二度と離れることはない。

 

そう誓い合う二人は、これからも二人揃って出掛けるのだ。

 

 

彼女が先を行き、また彼の後を追い、代わる代わる交差しながら。

 

 

そして仲良く家に帰り、二人寄り添って眠るのだ。

 

 

他のカップルたちがひしめくように同居する、靴箱の中で。