『かなり』

干支に入れてよ猫

【スポンサーリンク】

『なおや君と僕』

「1たす1ワニ」

 

そう言いながらなおや君は、左右の腕をワニの口の様にカパカパ動かした。

なおや君のボケは意味が分からなくてつまらない。

 

「ワニはそんなカパカパせんやろ。そんなん酸欠の金魚やんけ」

 

僕のツッコミで教室は大爆笑。

自分で言うのもなんだけど、僕のツッコミはテンポもタイミングも最高だ。

なおや君は僕のおかげで、面白い人というスタンスを維持できている。

なおや君は本当はまったく面白くもないのに、とにかくボケ続ける。

そのパワーだけは、ちょっとだけ感心するけど、ツッコむ僕の身にもなって欲しい。

ベストでジャストなツッコミは気力も体力も使うのだから。

 

「ええか、ボケを生かすも殺すもツッコミ次第や。どんなおもろいボケでもツッコミがあかんかったら誰も笑わへん。逆にボケかどうかわからんような中途半端なボケも、ツッコミ次第で何万人でも笑わせられるんや」

 

お父さんの口癖だ。

僕は小さい頃からツッコミを教えてられて、中学生になった今ではヘタな芸人よりも上手くツッコめる様になっていた。

 

「わかりませんねん灸」

 

授業中に先生が出した問題に、なおや君が答えた。

なおや君は本当につまらない。

 

「せんねん灸とか中学生の使う単語とちゃうで自分。どんだけ肩こりやねん、若いのに」

 

僕のツッコミで先生まで大笑いだ。

なおや君も嬉しそう。

 

「自分なに嬉しそうな顔しとんねん、答えられへんかった癖に!てゆーか先生!怒らな!この子ダメな子ですよ?算数できん子ですよ?」

 

こうなると教室は何を言っても笑ってしまう雰囲気だ。

なおや君は勘違いしてつまらないボケを連発する。

僕は芸術的なツッコミでそれをフォローする。

 

なおや君には僕が必要なんだ。

 

なおや君は僕無しではいられない。

 

ちょっと大げさだけど、なおや君は僕が居ないと生きていけないんじゃないかと思う。

 

ある日、なおや君がマスクをつけて登校してきた。

風邪でもひいたのかな。

でもなおや君のことだから熱が出ようがつまらないボケを言うに違いない。

僕はいつなおや君がくだらないボケをしても確実にツッコめる様に、なるべくなおや君の近くにいるようにした。

ところが昼休みになっても掃除の時間になってもなおや君は一言もしゃべらない。

そのうち僕はなおや君に風邪を伝染されたみたいで、気分が悪くなってきた。

頭痛もする。

あまりにも調子が悪くなってきたので僕は早退することになった。

 

それから3日、僕は家で寝ていた。

 

きっと学校では風邪が治ったなおや君がつまらないボケを連発しているだろう。

でも僕のツッコミ無しじゃ誰も笑わない。

もしかするとなおや君はあまりのつまらなさにいじめに遭っているかもしれない。

ごめんよ、なおや君。

早く治してすぐツッコんであげるからね。


それから1週間が過ぎた。

僕は一向に治らないまま、入院することになった。

お医者さんがバタバタと忙しく駆け回って僕を検査した。

でも原因はわからないみたいだ。

 

ずっとなおや君の心配をしてたけど、僕はようやく僕の心配もし始めた。

 

頭痛と発熱、食欲不振と倦怠感・・・まるで風邪のような症状だけど何をしても治らないし、ウィルスも見つからないんだって。

 

それからまた1週間が過ぎたとき、僕は8キロも痩せてしまった。

 

僕はなおや君のつまらないボケが懐かしくて、ベッドの上でしくしく泣いた。

 

その日の昼くらいに、お医者さんが僕の病室に入ってきた。

難しい顔をしている。

もしかして僕の病気は現代医学では治らない奇病なんだろうか・・・。

 

「君の体を隅々まで検査したんだが・・・」

 

お医者さんが話し始めた。

 

「まだ可能性の話しなんだがね、君のご家族や学校の先生方とも話してみた結果ね・・・どうやら君は、ツッコミ不足によるストレス性の『ツッコまずにはいられない病』なんだ。」

 

「やっぱりそうですか・・・ってなんでやねん」

 

僕は弱々しくも、ベストなタイミングでツッコミを入れた。

そしてお医者さんの次の言葉を待つことなくまくしたてる。

 

「病名ながっ!てゆーかそのまんまやんか!んな病気聞いたことないわー!もぉお医者さん、あんたとはやっとれんわぁーッ!!」

 

僕の手の甲がお医者さんの胸にビシッと当たったとき、今までの頭痛が嘘みたいに無くなった。

熱も下がった。

ダルかった体が軽くなった。


お医者さんが静かに言う。

 

「どうやら、本当だった様だね。これからは適度にツッコまないと、命にかかわるから、気をつけてね」

 

ああ・・・なんということだろう。

 

僕はなおや君が居ないと生きていけない。