『かなり』

干支に入れてよ猫

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床屋にて

どうも、坂津です。

生まれて初めて『鼻毛ワックス』ってやつを体験しました。

ブラジリアンワックスとか言うんですよね?

鼻腔の視認範囲に自生する毛という毛を根こそぎ一網打尽にする驚異のアレです。

一昔前に流行ったと思うのですが、なかなかチャレンジする機会に恵まれず今まで生きてきました。

しかし、新居に引っ越してから2ヶ月が経過し、頭髪が伸び放題になってしまったため近所の床屋さんを訪ねたところ、メニューの中に『鼻毛ワックス』を発見したのです。

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この出会いを大切にしたいと考えた私は、多少の恐怖心に勝る好奇心だけを頼りに発注です。

 

床屋「お客さん初めてですね?」

坂津「最近引っ越してきました」

床屋「今日はどうされますか?」

最近「カットと鼻毛ワックスを」

 

理髪店というところはお互いの信頼関係が必須となります。

客側としては、切れ味抜群の刃物を持つ見ず知らずの初対面の相手に対し、無抵抗で顔面を晒すことになります。

またお店側も、完全無防備状態で身も心も解放している客の信頼を裏切るわけにはいきません。

そこには目に見えない確かな絆が生まれるのです。

カット、シャンプー、顔剃りまでが終了し、私は理容師さんの技術にとても満足していました。

 

そしていよいよ待望の鼻毛討伐タイムです。

 

床屋「ご自分でやられますか?」

坂津「そういうものなんです?」

床屋「大抵の方はそうですねぇ」

 

理容師さんが言う「でもたまに怖がるお客さんも居て、そういうときは『人思いにやってくれ』と言われるんでやりますけど」というセリフに、なぜか対抗心を燃やしてしまう私。

 

坂津「こ、怖いわけないですよ」

床屋「では自身でお願いします」

坂津「こ、こんなの朝飯前です」

 

すると理容師さんは慣れた手つきで私の鼻腔周囲に綿棒でオイルを塗布し、その後なにやらプラスティックに棒の先にピーナツジャムが乗ったような物を持ってきました。

 

床屋「じゃあ入れますからね~」

坂津「セイ!オナシャーッス!」

 

油断していると「熱ッ!」と声が出てしまいそうな、でも落ち着いてみればそこまで熱くないピーナツジャム。

鏡に映るのは、片方の鼻から白いプラスティック棒を生やした奇妙な自画像。

1分も経ってないと思うんですが、理容師さんから「どうぞ、抜いてください」と言われました。

意を決した私はプラスティックに手を掛け、そして息を吸い込みます。

 

坂津「キエエェェェェーッッ!」

坂津「ッッシャオラァァー!!」

 

気合の掛け声と共に引き抜いた棒の先のピーナツジャムには、驚くほど大量の鼻毛たちが突き刺さっていました。

さすがの私もここに写真を掲載することを躊躇ってしまうほどのグロテスクさ。

 

坂津「これはバックベアード…」

床屋「え?何ですって?ベア?」

坂津「いえなんでもありません」

床屋「では反対側もいきましょ」

 

冷静になってみると、痛みはまるでありませんでした。

爽快感しかありません。

もう怖い物などなにもありません。

しかし私はこのとき、重大なことを失念していたのです。

 

手際良く反対側の鼻毛抜去を用意した理容師さんの合図で、私は思い切り引き抜きました。

そこには先程と変わらない光景が。

禍々まがまがしい触手を全方位に展開するバックベアードを眺めつつ二度目の爽快感に浸っていた私は、次の瞬間絶望の淵に立つのです。

 

坂津「隊長ぉぉぉぉぉーッ!!」

床屋「え?何?どうしました?」

 

私の右鼻腔には、私だけが勝手に『隊長』と呼称する、太く逞しい鼻毛が存在するのです。

実は、およそ5か月ほど前に殉職した隊長。

上記でもご報告させて頂いた件です。

あの隊長が、先月あたりからまたひょっこり顔をのぞかせてくれるようになっていたのです。

 

その隊長が、明らかにその隊長だと判別できる一際立派な剛鼻毛が、眼前の触手の中に紛れていたのです。

 

鼻毛ワックスはその仕様上、鼻腔の奥までは入らないようになっています。

あくまでも『見える範囲』の無駄毛を除去するためのツールです。

私は隊長に対し、山奥から街に降りてくる熊のような印象を持っていました。

鼻の奥底から外界にその先端を進出させる超ロング鼻毛なのだと。

それが、まさかこんなご近所に在住だったなんて・・・。

私はよく分からない悲しみに包まれました。

心の中ではなぜか「ゴン、お前だったのか・・・」というセリフがリフレインします。

 

床屋「あの、痛かったですか?」

坂津「鼻は全然痛くありません」

床屋「別の場所が痛いですか?」

坂津「すこし・・・心が・・・」

 

鼻毛に名前など付けるものではありませんね。