あけましておめでとうございます、坂津です。
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私が生まれて初めてケータイを手にしたのは大学1年生の夏でした。
当時、デジタルツーカーという名の携帯電話事業者が存在しておりました。
初めて手にしたケータイは、たった数センチのモノクロ液晶画面と、伸びるアンテナというクラシックスタイル。
いや、当時は最新でしたよもちろん。
「スカイワープ」とかいうメール機能があって、今では信じられないことですが、1通のメールを送信すると5円かかるという鬼の様な料金設定でした。確か。
ただ手にした直後は嬉しくて楽しくて、用も無いのに長電話とかして、初めての請求金額が5万円を超えてて親に死ぬほど怒られました。
そうこうしていると、デジタルツーカーだったはずの社名がJ-PHONEとかに変わりました。
んでまたちょっと経ったらボーダフォンなんて名前に変わりました。
で、次がソフトなんとか?
なんだか社名をコロコロ変えるという行為に、得体の知れない不安を抱いた私は、思い切って乗り換えを検討しました。
その乗り換え先候補がauでした。
当然ながらまだ検討中でしたし、情報収集がてらにフラッと入った店舗で、私は運命的な出会いを果たします。
なんてカッコイイんだ!
本体が透けて中身の電子部品が見えているというこのサイバーなデザインは、健全な中2病患者には間違いなく刺さる仕様です。
赤と黒と青がありましたが、私にはもう赤の1択しかありません。
だってシャアの色だからね!
というわけで情報収集のつもりが、気付いたら購入してしまっていました。
衝撃的なヒトメボレ。電撃入籍です。
私はこの超絶スタイリッシュなケータイを持っているだけで、自分自身もスタイリッシュになったような錯覚に陥りました。
私はスタイリッシュ、スタイリッシュな私。
特に用も無いのにスッと取り出してはパカッと開けていました。
そんなスタイリッシュスッパカな生活を送っていたとある休日。
私は秋葉原で大量に薄いエロい本を購入し、背中のリュックとは別に両手に2袋ずつ合計4袋の紙袋を提げていました。
紙袋からはポスターの筒が3本飛び出しています。
そんな状況でも、X-RAYさえあれば私はスタイリッシュ。
秋葉原駅の山手線のホームで電車を待ちつつ、私はスタイリッシュにX-RAYを操作します。
電車が来ました。
右手に持っていたX-RAYをエロい本満載の紙袋の中に投下し、持手紐をむんずと掴んで扉が開くのを待ちました。
なんて重たい紙袋でしょう。
私は外回りの山手線に乗り込み、隣の神田駅を目指します。
思ったよりも乗客が多く、いくらスタイリッシュな私と言えど、背中のリュックや紙袋が邪魔になりそうです。
一駅の間ではありますが、ここは手荷物を網棚の上に置いて公共のスペースを広くするのが真のスタイリッシュでしょう。
神田駅で乗り換え、中央線快速で自宅のある中野駅を目指します。
四谷駅あたりで、私は覚醒します。
数字で「428」って書いてあったら渋谷とも四谷とも読めますね!
いや違う。
荷物が軽いのです。
秋葉原駅では重いと感じていたはずの右手が、すこぶる軽い・・・。
私は新宿駅で降りました。
山手線のホームへ走ります。
今から内回りに乗れば、五反田あたりでさっきの外回りと出会うだろうか?
分かりやすく図解するとこうなります。
かなり分かりやすいですね。
もうすっかりスタイリッシュではなくなってしまった私は、とりあえず目黒まで行きました。
外回りのホームで、満載のエロい本とスタイリッシュなX-RAYを同梱している紙袋を網棚に乗せたまま快走する車輛を待ち受けます。
幸いにもどの車両に乗っていたかは覚えています。
扉が開けばすぐに紙袋が見えるであろう位置を陣取りました。
ともすれば白線から身を乗り出してしまいそうな自分を諌め、駅員さんの言葉に従い白線の内側で良い子にしています。
ホームに滑り込んできたのは、山手線という名の奇跡でした。
私の紙袋はそのスタイリッシュな姿をそのままに、網棚の上に鎮座していました。
このときほど電車のドアが開くのをゆっくりに感じたことはありません。
ゆっくりと時間を掛けて私を焦らしながら開いたドアから、これまたゆっくりと牛歩作戦のように乗客が降りてきます。
永い永い時を経てようやく私は電車に乗り込みました。
そしてすかさず紙袋に手を掛けました。
持手紐に力を入れ、私は荷物を自分に引き寄せます。
寂しい思いをさせたね。
ごめんよ。
もう君を離さない。放さない。
ブチン。
ビリビリ。
ドサドサドサ・・・。
阿鼻叫喚です。
猥褻物陳列罪です。
見事に陳列してしまいました。
主に東方系で固めた私の趣味丸出しの卑猥な表紙たち。
周囲の乗客の顔が見られません。
恥ずかしくて死にそうです。
羞恥心にも致死量があるとすれば、間違いなく即死レベルの恥ずかしさです。
私は可能な限りの速度で淫猥極まりない表紙の薄い本を回収します。
しかし回収はしたものの、それを収納する袋はもう無いのです。
さっきまで紙袋だった異形の紙片で薄い本の束を包み、腹部で抱え込むように持つ以外の方法がありません。
とにかく早くこの車輛から降りたい。
降りてこの状況をリセットしたい。
この日この時だけ、目黒⇔恵比寿間は赤道の総延長距離と比肩したようでした。
地獄列車はようやく恵比寿駅に着きました。
ようやくこの恥辱に塗れた乗客人生に終止符を打てる、そう思った矢先でした。
「あの、すみません」
私の背後から女性の声が聞こえます。
待ってくれ何がどうしたって言うんだ私は一刻も早くこの場を離れたいというのに誰だこんな最悪のタイミングで声を掛けてくるザ空気読めないさんは。
と思いながら振り返ると、リクルートスーツと思しき真新しい装束に身を固めたうら若き女子が立っていました。
その手にはスーパースタイリッシュなX-RAYと、エロい本が1冊。
「これ、お兄さんのですよね?」
私は葛藤しました。
X-RAYは取り戻さねばならない。
しかし彼女が同時に確保しているとびきりエロい本まで一緒に私のですと言うことに抵抗があったのです。
すでに派手なバラ撒きをやらかした後とは思えない葛藤でした。
私の中で天使と悪魔が交互にささやきます。
天使「この娘、可愛くね?」
悪魔「10人中8人は美少女って認めるね」
天使「いやそれは言い過ぎ。6人じゃね?」
悪魔「いいや、8人。これは譲れんな」
坂津「うるせえ」
私はスタイリッシュにキョドりながら、スタイリッシュにX-RAYとエロい本を受け取りました。
それだけでした。
特にこの女性と何か物語がスタートするとか、そんなことはありませんでした。
単に私への辱めが乗算されただけのことでした。
恐らく常人なら意識不明、良くて失神レベルの恥ずかしさだったと思います。
私がこれに耐えることができたのは、きっとスタイリッシュなX-RAYのお陰だと思っています。