あけましておめでとうございます、坂津です。
発達障害って聞いたことありますか?
近頃はメディアでも散々取り上げられているのでご存知の方も多いと思います。
対象となる症状、現象が多過ぎて、ひとまとめにするには大きすぎる言葉です。
例えると、カテゴリー「動物」みたいな。
植物や無機物とは違うんだろうけど、包括する種類が多過ぎるって感じです。
この発達障害の一種で、ADHD(注意欠陥・多動性障害)というものがあります。
例えると、カテゴリー「哺乳類」みたいな。
さっきの「動物」よりは狭くなったけど、それでもまだまだ広いですよね。
私が働く職場には、ADHDと診断された従業員が3名居ます。
3名ともに共通しているのは、就職後にADHDであると診断されたことです。
そしてもう一つの共通点、それは決して「辞めたい」と言わないことです。
■三津田くんの場合
数年前に新卒入社した三津田くんは、入社試験の結果IQが非常に高く、期待されて入社しました。
最初は「慣れない社会人生活に緊張している」というフィルタを通して見てもらえていましたが、だんだんと「あれ?この子できない子?」という印象に。
・言われた通りの手順で仕事を進められない
・重要なポイントを忘れる
・思い込みで間違った判断を独断してしまう
・仕事が出来ないという自覚がある
・仕事中に注意されると悔しくて泣く
1年が経過したときに、三津田くん自らが相談を持ちかけてきました。
「インターネットでたまたま見付けた情報が気になって病院に行きました。もしかしたら僕はADHDかもしれません」
私は継続的な通院を勧め、確かな診断を待ちました。
結果的に、三津田くんはADHDであると診断されました。
「今まで、なぜ自分が言われたとおりに出来ないのか分からず落ち込んでいましたが、障害が原因であると分かって少しホッとしました」
会社としても三津田くんの特性を活かした部署へ配置転換をし、しっかり活躍してもらっています。
イレギュラーな判断があまり必要無いルーチンワークが合っていたようです。
■男鹿さんの場合
男鹿さんはMacオペレーターとして入社しました。
専門学校を出ており、知識や技術には何ら問題無いはずでした。
しかしとにかく仕事が遅いということが判明しました。
その部署内で他の人が男鹿さんの仕事量をフォローしてくれていたために発覚が遅くなりましたが、私が知った時には深刻な問題になってしまっていました。
とにかく現状を把握するために、男鹿さんの仕事を一日中観察しました。
・1つ1つの処理をするたびにマニュアルを見返す
・複雑な処理が必要な時間のかかる仕事の合間に、他の作業を挟む
・うっかりミスが多い
・新しい決まりごと、ルールを忘れる
私は意を決して男鹿さんと面談をすることにしました。
「仕事は楽しい?」
「仕事自体は楽しいです。でもみんなに迷惑を掛けてしまっていて・・・」
男鹿さんも三津田くんと同じく、自覚があったようです。
自分が忘れっぽいことや、飽きっぽいことを把握しているからこそ、その対策としてマニュアルを見返すことや、同じ作業を長時間しないような工夫をしていたのだそうです。
そのせいで効率が悪くなり、時間が掛かっていたようです。
「男鹿さんは、発達障害って知ってる?」
「はい。もしかして、と思ったことはあります」
もし良ければ、と言って私は男鹿さんに受診を勧めました。
正式な診断があれば会社はそれなりに動くことが出来ます。
結果、男鹿さんもADHDであると診断されました。
今は納期に余裕がある仕事を優先的にやってもらうようにしています。
また、男鹿さんの机の周囲に大きめのホワイトボードを置き、よく見る作業マニュアルを書いておきました。
毎回ノートを広げる手間が無くなり、少しだけ作業が早くなったようです。
■杵田くんの場合
杵田くんはおしゃべりが大好きです。
営業職として入社しました。
とても性格が良く、頼まれごとにNOと返すことはまずありません。
初対面のお客様と打ち解けるのが早く、商談がとんとん拍子で進むことも珍しくありませんでした。
しかし、だんだんとボロが出るようになりました。
・会話が噛み合わない
・引き受けた仕事を放置する
・重要な案件を忘れる
・言い訳が言い訳になっていない
・黙っていられない
・声が大きい
最初が好印象だっただけに、お客様からお叱りを受けることが多くなりました。
元気よく「はい!喜んでやらせていただきます!」と答えた仕事が何ひとつ進んでいないのですから、お客様は怒って当然です。
杵田くんのフォローをしなければならない従業員たちから不満の声が上がるようになり、事態の深刻さを知りました。
「杵田くん、気を悪くしないで欲しいんだけどね」
「はい、何でしょう!?」
私は彼にADHDという障害の存在と、彼自身がそうであるかも知れないという話をしました。
ADHD症状チェックリスト:成人(18歳以上)用|大人のためのADHD情報サイト
チェックリストを使って、自分の感覚でどれだけ該当するかやってみてもらいました。
「あれ、もしかして俺、ADHDってやつかも知んないッスね!」
「これは提案なんだけど・・・」
私は杵田くんに受診を勧めました。
結果的に、彼もやはりADHDと診断されました。
これらの経験で私は、非常に胃が痛い思いをしました。
正直なところ発達障害に対する知識があるわけでもないし、本人にその話題を振るなんて気が滅入って仕方ありませんでした。
しかし彼らは一様に「原因がはっきりして良かった」と言います。
私はその言葉に救われます。
そして、腫れ物に触るような感覚で接していたことを反省しました。
特に杵田くんのケースは、彼自身がADHDの知識も自覚も全く無い状態でしたので、私としては「君は障害者かもしれない」という宣告をしなければならないことが嫌で嫌で仕方ありませんでした。
しかし、彼の極度に楽観的な性格のおかげで、私もかなり気が楽になりました。
例えるなら彼にとって私の話は
「朝から鼻声だけど、風邪かな?」
「早めに病院行った方がいいよ」
くらいの受け取り方だったのです。
こういう経験を通して、私が培った考え方があります。
できれば、多くの方に共有したいと思っています。
例えば
私たち人間は1度だけ歯が生え換わります。
2度目に生えた歯は永久歯と呼ばれ、それが抜けるともう次の歯は生えません。
とても重要な機能であるというのに、もう生えないのはとても困ります。
本来であれば何度でも生えてしかるべきじゃないでしょうか?
でも、永久歯は1度しか生えません。
それを障害と呼ぶでしょうか?
私達は、該当する人数が多い特徴を「正常」「普通」と呼び、そこから少し外れている特徴を「障害」と呼んでいます。
そう、呼んでいるだけなのです。
発達障害という分類、ADHDという分類、これらは、とある共通の特徴を持ったひとたちを便宜上区別するための定義に過ぎません。
この定義付けには、改善目的の意味しかありません。
例えば忘れっぽいという特徴を改善したいと思ったとき、なんらかの薬品や施術が対策となることが判明した場合、同様の分類に定義されている人たちには一様にその恩恵が受けられる可能性があるわけです。
画期的な発毛剤が開発されたら、それは「ハゲ」という定義に分類されている人たちにとっての朗報という感じです。
私がこの定義に分類される前に朗報が欲しいものです。
しかしこの「障害」という文字からしても、明らかにマイナスなイメージが付きまといます。
最近では「個性」と表現する場合もよく見かけますね。
間違っていないと思います。
で、この個性というのが非常に厄介なシロモノなのです。
以前に、人間は社会を形成して生きている、という記事を書いたことがあります。
私たちは個としての存在と、自分自身が所属する社会としての存在という多面性を持っています。
強すぎる個性は社会への帰属を阻害し、コミュニティへの迎合が進めば個性は死ぬ。
私たちはここのバランスをうまく取りながら生きています。
で、たまに、このバランスを取るのが苦手な方がいらっしゃいます。
私が出会ったADHDの子たちがまさにそうでした。
しかし、冒頭でも述べたように、彼らは自分から「辞めたい」とは言わないのです。
どうにかしてコミュニティに所属して頑張ろうと思っているのです。
ウチのような零細企業にとって、社員のやる気は最重要資産です。
知識やスキルがどれだけ高くても、やる気の無い社員は重要ではありません。
便利に使わせてもらうだけです。
やる気があって仕事が好きで、でも上手くできない人。
こっちの方が財産です。
会社側が、どうやって活躍の場を作り出せるかが課題です。
そもそも従業員に活躍の場を提供できない企業など、存在意義が希薄だと思っています。
上記、すべてに於いて私が幸運だったというのはもちろん理解しています。
綺麗事ばかり言っているのも承知の上です。
発達障害という分類の中には、どうしても就労が困難な方がいらっしゃることも知っています。
ADHDと診断された全ての方が、我社の三名のようにはいかないことも分かります。
それでも私は、敢えて下の考え方を曲げないつもりです。
【どんな個性を持った人であっても、活躍の場は存在する。それを作り出す為に、人間は分業という仕組みで社会を形成している】
そして、いつの日か言いたいセリフがあるのです。
今は軽はずみに言えない言葉ですが、いつか。
「仕事を探してるの?本気で頑張る気があるなら、ウチにおいでよ」
これを誰に対してでもサラッと言えるような環境をつくることが、私の密かな目標なのです。