冴えないオタク男子が、電車内で出会った素敵な女性と恋に落ちる話。
インターネットの掲示板に書き込まれた恋愛相談が、やがて書籍化、映画化、漫画やテレビドラマにもメディアミックスされた恋愛ストーリー。
昔の作品だけど、僕の永遠のバイブルだ。
あの掲示板にはリアルタイムで参加していた。
あのときの興奮は今でも忘れない。
あれから僕は、これといって用もないのに、日課の様に秋葉原と自宅を往復する。
もちろん電車で。
僕はアレを期待しているから、必ず夜まで秋葉原をうろついて帰る。
アレとは、言わずもがなのシチュエーション。
「酔っ払いに絡まれる女性を助けるやつ」だ。
もう12年も、僕は絡まれている女性を探しているのに、全く出会いが無い。
だけど僕は今日、気付いてしまった。
この電車、特に帰りの電車には、ほぼ毎日同じ奴らが乗っている。
いかにもオタクなファッションに身を固めた冴えない男が7~8人。
僕と同じ狙いなんだろうと確信した。
そして同じ様に、この電車の常連になっている女性も、5~6人居るのに気付いた。
まさか・・・いや、考えられる。
彼女たちも待っているのだ。
絡まれた自分を助けてくれる男を。
結果的に、この電車には出会いを求める男女が乗り合わせているのに、お互い『あるキッカケ』を待っていて何の進展も無い状態になってしまっている。
僕もその『あるキッカケ』を待っていたから、分かる。
こんなに哀しいシンクロニシティがあるなんて。
僕は決心した。
僕らに決定的に欠けていたのは『女性に絡む酔っ払い』なんだ。
だから今夜、僕がその役を買って出よう!
そうして幸せなカップルを誕生させよう!
僕は、この電車内の異常な状態に気付いてしまった・・・。
知ってしまった者の役目か。
そして、12年の年月は残酷だ。
僕は立派におっさんになってしまった。
僕さえ犠牲になれば・・・。
その日、僕はかなり酔った。
元々強くもないのにたくさん飲んだので、足元はフラつくし顔は真っ赤で、ろれつも回らない。
理想的な『酔っ払いのおっさん』になることができた。
ホームで電車が来るのを待ちながら僕は、どうやって女性に絡もうか考えたが、酔った頭ではロクな考えができない。
こうなったら出たとこ勝負だ!
思ったことを怒鳴りまくってやる!
そして仲裁に入る若者にやっつけられよう!
意気込んだところに電車が来た。
開いた扉から車内に乗り込み、さぁ作戦開始だ!
「おいおいてめぇらフザケんじゃねぇぞゴルァ!
人がどんな思いでこうしてっと思ってんら?!
馬鹿じゃねぇかお前ら!
何で全員酔っ払いになってんらよ!」