あけましておめでとうございます、坂津です。
こちらの企画に参加させて頂いております。
このエントリの続きです。
▽登場人物▽
・タオナン
人間の女性。キスビットの王都、エイ マヨーカで料理人をしている。巨乳。
・テイチョス
男性型のアルファ(ロボット)。タオナンの助手。実は万能。
・ルビネル(友情出演)
アルビダ(妖怪の一種)の女性。ペンを自在に操れる。好き。
・勇者パラ(友情出演)
精霊(エルフ)の少年。王様から貰った支度金でエロ本を買う勇者。
そしてそしてッ!!
なんと!
前回の終盤、今回の書き出し部分の挿絵を描いて頂きましたッ!!
りと先生にィィィィーッ!!!!
全世界71億人のパラくんファンよ!刮目せよッ!!!
~・~・~・~・~・~・~・~
■彼の名はパラ
タオナンは激しく後悔していた。
今まで料理一筋で生きてきた上に、男性社会である料理界で戦ってきた経験から、男性に敵対心を抱いてきた。
心から信頼できるのは、調理アシスタントであり、また幼い頃から面倒を見てくれているテイチョスだけだった。
それなのに、精霊の男に裸を見られてしまった。
見られただけなら、羞恥の心を抑えることもできたのだが、自分の咄嗟の行動に腹が立つのだ。
胸を抑えながらしゃがみ込み、あまつさえ短い悲鳴すら上げてしまった。
屈辱すぎる。
「タダ見とは良い度胸じゃねぇかボウズ」くらい言ってやれば良かった。
ルビネルは機を見計らっていた。
川岸の石の上に置いてある化粧ポーチ。
あの中にあるアトマイザーさえ手にすることができれば、どうとでも対応できる。
そのためにも、まずは相手に隙を見出さねばならない。
「あなたは誰?何をしているの?」
ルビネルは少年に問うた。
口の中に流れ込む鼻血をまるで気にしない様子で、少年は答える。
「ぼくはエルフの勇者パラ。今は芸術鑑賞をしています」
“ぼ”や“パ”の破裂音を発声するたびに鼻血が赤い霧となって口から噴霧される。
口以外は微動だにしないところが不気味だ。
「正直、年上は圏外かと思っていたのですが、どうしてなかなか」
悟りの境地に達しているかのような澄んだ瞳はそのまま、タオナンとルビネルを見詰めている。
パラの視線から半身になるようにジリジリを体勢を変えながら、ルビネルはなおも質問を続ける。
「私達ライフルの卵が欲しいのだけど、貴方はライフルをご存知かしら?」
ルビネルの問いに、パラはスッと左手を横に広げた。
「彼らのことですか?」
パラが示す左手側に目をやると、奇妙な形状の鶏(?)が数十羽、並んでこちらを見ている。
だが、聞いた話によればライフルは走り続ける鶏だ。
止まれば死んでしまうはずである。
目の前の鶏(?)たちはすべて、下弦の月のようないやらしい目でルビネルとタオナンを凝視している。
「え?あれがライフルなの!?卵を産むの!?」
ザバッと音を立ててタオナンが立ち上がった。
もし目の前の鶏(?)がライフルなのであれば、卵を入手できる可能性もあるかもしれない。
「アタシ、どうしてもライフル卵が欲しいの!」
置かれた状況をすっかり忘却してしまったタオナンの行動は、パラにトドメを刺す結果となった。
何ひとつ隠し立てなどしない正々堂々とした姿でパラに立ち向かっている。
命に関わる量の鼻血によってパラはその場に崩れ落ちた。
その時、遠くから銃声のような音が数十発、連続して鳴り響いた。
タァン!タンタンタンタンタァーン!タタタァーン!
タオナンとルビネルは驚いて音のする方向を振り向くが、何も見えない。
ドサドサと何かが倒れる音がする。
さっきの鶏(?)たちがバタバタと倒れていた。
状況が飲み込めない二人。
テイチョスがライフル卵を2つ手にして帰ってきたのは、二人が服を着てパラを近場の木に括りつけている時だった。
「ほう・・・そんなことが」
テイチョスが何か気になるという風に、死屍累々状態で倒れている鶏(?)の群れを調べている。
おもむろにナイフを取り出し、鶏(?)を解体し始めた。
「タオナン、すごいぞ。ライフル卵の新しい採取方法が確立できたかもしれん」
今、目の前で倒れているのはライフルの雄鶏であり、卵は産まない。
しかし全ての個体に銃創があり、その中にライフル卵が埋まっていたという。
つまり、ライフルの雌鶏が何らかの理由で雄鶏を狙撃したということになる。
テイチョスの仮説はこうだ。
雄鶏が、雌鶏以外の何者かに対して興奮状態になると、ある種のホルモンが分泌され、それを感知した雌鶏は嫉妬に怒り狂い雄鶏を卵で射殺する。
着弾までが1秒以内であれば卵は孵化しないまま、雄鶏の体内に収まる。
雄鶏の屍骸が体温を保っている間なら、そこから卵を採取することが可能となる。
「つまり、雄鶏に裸を見られたのが怪我の功名ってわけ?」
ルビネルが呆れた口調で言う。
さすがに今までこんな方法を試した者は居なかっただろう。
なぜ鳥類(?)であるライフルが二人に反応したのかも謎だ。
偶然にも程がある。
「これからはこの方法で簡単にライフル卵が採取できるだろう。市場にも比較的安価に出回るようになるだろうな」
超高速で孵化し、超高速で成鶏になるライフルは、その卵の黄身が回復効果をもたらすことでも知られている。
細胞が一時的に超活性するのである。
これが市場に出回れば、食材としてよりもむしろ薬としての重宝されそうだ。
もちろん、鮮度が命ではあるのだが。
「で、彼は?」
テイチョスはルビネルとタオナンに尋ねた。
げっそりと頬がこけ、アルビダにも負けないほど真っ白い顔をしているエルフの少年。
完全に出血多量であり、命の灯はもう消えそうである。
「覗き魔よ」
冷たく言い放つルビネル。
が、見殺しはさすがに気分がよろしくない。
それはタオナンも同じだった。
二人は目を合わせ、同時にテイチョスを見た。
「分かった」
テイチョスはライフル卵を器用に割った。
それをパラの口元に持っていくが、しかし既に虫の息である。
自力で摂取できる様には見えなかった。
「ええい、もう!」
タオナンはテイチョスの手からライフル卵を奪い取り、バッと口に含んだ。
そしてパラの唇に自らの唇を重ねると、人工呼吸よろしく、ライフル卵を飲み込ませたのだ。
呆れた顔のルビネルと、完全に機能を停止してしまったテイチョス。
こくん。
卵を飲み込んだパラの顔色がみるみる良くなっていく。
「さ、これで大丈夫でしょ。テイチョス、行こう!」
タオナンはテイチョスに声をかけ、グランピレパを出発するよう促す。
彼女にとって、この行動は「恩を売った」という精神的優位を確立するためのものであった。
命の恩人という立場が、さっきの屈辱を少しだけ緩和すると考えたのだ。
しかし、テイチョスはそれどころでは無かった。
今、テイチョスは視覚情報として入って来たタオナンのキスシーンをどのように処理するかに追われていた。
残念ながらテイチョスの唯一の欠陥は、データの削除が任意で行えないことだった。
こんなことは製造(うま)れて初めてのことだ。
情報を処理する方法が分からない。
「テイチョス?テイチョス!ちょっと!大丈夫!?」
心配そうに顔を覗き込むタオナンは、何かを発見して驚いた。
テイチョスの首筋に傷を見付けたのだ。
こんなものを見たのは初めてだった。
物ごころついた時からずっと一緒に居るテイチョスだが、怪我も病気も疲れも知らないスーパーマンなのだ。
さっきライフル卵を入手するために数発喰らってしまい、僅かばかり負った傷だった。
しかしほんのかすり傷だ。
アルファであるテイチョスにとって、人間の皮膚を模した外装が少しくらい破損したところで、オートリペア機能によって数時間で元通りになる。
実は、タオナンはテイチョスを人間だと思っている。
タオナンからしてみれば、この程度の傷でいつも丈夫なテイチョスが調子を悪くするなど考えられない。
もし可能性があるとすれば、何かの毒かも知れない。
そう考えたタオナンの行動は早かった。
テイチョスの上着のシャツの最上部にあるボタンを外し、首筋の傷に吸いついたのだ。
「まぁ・・・」
ルビネルはこの光景を見て初めて、テイチョスがアルファであることをタオナンが知らないのかもしれないと思った。
「・・・はっ!タ、タオナン、やめるんだ」
タオナンの大胆な行動に我を取り戻したテイチョス。
ペッと唾を吐いたタオナンが心配そうに見つめる。
「だ、大丈夫?」
「問題無い。あ、ありがとう・・・」
たった今体験したこの首筋吸引も、さっきのパラに対する口づけ記録も、テイチョスはまとめて“後で処理するフォルダ”に格納した。
そうでもしなければ行動に支障をきたしてしまいそうだ。
「よし、チュリグに向かおう。レイオクトを捕獲しなければ。あ、それから彼も連れて行こう。助けは多いほど良い」
テイチョスは収集した17個のライフル卵を丁寧に保卵ケースに入れ、タオナンに渡した。
そして木に括りつけられて気絶したままのパラを担ぎ上げた。
(レイオクト捕獲の際の囮として使おう)
声には出さなかったテイチョス。
しかし、今まで感じたことの無いもやもやした感覚が胸部に渦巻いている。
このエルフの少年に対する感覚は何だ。
邪魔だとは思うが殺意では無い。
知識として保管してある言葉のどれが該当するのか分からない。
恨み、憎しみ、怒り、どれもしっくりこない。
羨望・・・やや近付いた気がする。
嫉妬・・・なんだかこれが、一番近い気がした。
■チュリグへ
「まず、レイオクトについてだが・・・」
クルーザーを操舵しながらテイチョスは船室の二人に話しかける。
マイクロウィートとライフル卵が想定よりもかなり短時間で入手できたことにより、材料コンプリートの希望が見えてきていること。
ただし、最後の食材であるレイオクトは、まず遭遇すること自体が奇跡的に困難であること。
そして、運良く遭遇できたとしても、その捕獲には相当な危険が伴うこと。
「レイオクトは、こちらが捕獲の意思を見せた瞬間、悪魔に豹変する」
鑑賞する分には特に何の害も無いレイオクトだが、モンスターとして対峙することを考えると相当な強敵である。
全身が筋肉のようなものであり、人の胴体ほどもある足に巻き取られたが最後、抜け出すことは叶わない。
その力は鬼の筋力すら軽く凌駕するほどで、年に数人はレイオクトとの不慮の遭遇によって命を落としている。
こちらに敵意が無くとも、船がぶつかったり不用意に騒いだりすると、もう戻れない。
相手が沈黙するまで、レイオクトは暴れ続けるのだ。
敵意が無ければこちらにも無害だが、ひとたび友好関係が崩れると激烈な力を行使するあたり、さすがにチュリグの生物と言える。
「しかし、レイオクトには弱点がある」
テイチョスは言う。
8本の足それぞれの先端付近にある吸盤で、黒いものが1つずつあるのだそうだ。
体表が極彩色というすこぶる非常識な巨蛸であるレイオクトに、その体に於いて黒い部分は瞳と嘴と、八か所の吸盤にしか無いのだ。
「その黒い吸盤全てに同時に打撃を与えると、レイオクトは気絶する」
そう言いながら、テイチョスはルビネルに目をやった。
そういうことかと、ルビネルは納得した。
自分の呪詛であれば、八か所同時に攻撃を加えることも可能である。
しかし。
「いくら私でも、八本の足がそれぞれバラバラに動いていたら難しいわよ?」
やってやれないことは無い、という余地を残した物言いはさすがと言える。
しかしテイチョスにまだ策があるのではないかと期待している部分も、半分あった。
「私とその少年が囮になろう」
まず八本全ての足が海面から出るように仕向けるため、岩場までおびき寄せなければならない。
その岩場でも、恐らくレイオクトが攻撃に使用するのは5本程度で、残りは本体を岩場に固定するために使われるはずである。
ならば岩場の3本はその場から動かないので、そこを狙うのは容易であろう。
あとは攻撃用の5本の足が一方向、もしくは2本と3本で二方向程度に真っ直ぐ向かえば、狙いも付けやすいはずである。
「君ならそれで、充分ではないかな?」
ルビネルは薄く笑って頷いた。
実は彼女には、とあるハンディキャップが課せられていた。
カルマポリスに住まう者にとって呪詛の力とは、カルマポリスを離れては使用できないものなのだ。
当然ながら、これから向かうチュリグ近海でもそれは同様であり、通常であればルビネルは呪詛の力を行使することはできない。
だがそれは、呪詛の力の源である緑黄色の霧を閉じ込めたアトマイザーで一時的に解消することができるのだ。
香水のように噴霧すれば、数分の間だけ呪詛が有効となる。
その数分で、カタを付ける自信がルビネルにはあるのだ。
「ついでと言っては何だが、こんな用意もある」
しかしテイチョスの準備は入念だった。
彼は持参したカバンを開けるように言う。
ルビネルが開くと、そこには内容を緑黄色で満たした試験管がズラっと並んでいた。
「それを全て一度に開放すれば、恐らくその空間では半日程度、呪詛が使えるようになるはずだ」
この言葉にルビネルは舌を巻いた。
一体、どのくらいの大金をつぎ込んだと言うのか。
カルマポリス外で呪詛の力を使うためのこの仕組みは、技術的には可能であり、ルビネルもその恩恵に預かっている。
しかし、それを製造するための技術にかかる費用のコストダウンについて見通しは立っていない。
ルビネルがついこのあいだ、お財布事情によって購入を断念したお気に入りの洋服が何十着も買えてしまう金額なはずだ。
「良いアシスタントね」
操舵に専念するため、操縦室の窓を閉めたテイチョスの背中を見ながら、ルビネルがタオナンに言った。
「はい!テイチョスは、本当に頼れるお兄ちゃんみたいな人なんです!男の人で信用できるのはテイチョスだけです!」
弾ける笑顔でそう返すタオナン。
それを受けて、ルビネルに悪戯心が芽生えた。
「ねぇ、そんなに男性が嫌い?」
「大っきらいです!」
「じゃあ、女の子は?」
ふいに、ルビネルが距離を詰めた。
自分より少しだけ視線が低いタオナンの首に腕を回すルビネル。
左頬同士が触れそうな状態で、ワザと耳に吐息をかけながらルビネルが言う。
「美味しいチョコレートがあるのだけれど、食べてみる?」
「ふあッ・・・は、はい・・・」
突然ですがこの続きはコチラへ!
タオナンがチョコを食べ終わったら、こちらが続きです!
ほんの悪戯だったのだ。
ルビネルにとっては。
しかしタオナンがルビネルに向ける視線には、明らかに熱がこもっている。
さらにパラが二人に向ける視線にも、熱がこもっていた。
「・・・良い・・・」
いつの間にか目覚めていたパラ。
そしてすぐにまた、気を失うのであった。
その体にめり込むルビネルの肘とタオナンの膝によって。
「で、パラくん。君が勇者だって言うのは本当なの?」
「はい!間違いなく勇者です!魔王を倒して姫を救うんです!」
元気よくハッキリと回答したパラに対するタオナンの視線は、まだ冷たかった。
ようやく二度目の覚醒を果たしたパラは尋問されていた。
「それにしちゃ、ちょっと弱すぎない?」
タオナンの真っ直ぐな言葉の暴力に対してパラは、以外にも不敵な笑みで返した。
「おねいさん、何にも知らないんですね。ふっふっふ・・・」
パラは、自分が勇者であると再度名乗った。
そして勇者とは、現レベルに相応なモンスターを適度に倒していくことにより経験値を獲得し、それによってレベルを向上せしめ、より強いモンスターを討伐し続けることによって無限に強くなる存在である旨を語った。
「というわけで、ぼくは伸びシロの塊、可能性の原石、才能の間欠泉なのさ!」
と良い張るパラのため、チュリグに到着した一行は無人島と思しき岩場付近に見付けた洞穴に潜入したのだった。
ここらで出没する下級モンスターをパラが倒し、本当に強くなるのか見てやろうという算段だ。
タオナンは、パラの言うことを信じていなかった。
ルビネルは、もし本当なら強くなってくれた分、レイオクトの捕獲に役立つと考えた。
テイチョスは三人を降ろし、近海をクルーザーで周回していた。
レイオクトに遭遇する確率を上げるためだ。
「でやあぁぁぁぁーッ!!!」
パラの無駄に大きな雄叫びが洞穴内に響き渡る。
両刃の直刀を豪快に振り降ろし、目の前の敵を斬滅した。
その身を真っ二つに両断され、息絶えたカニ。約3cm。
てれれれっ てってってー♪
「な、何!?」
「今の音は何なの!?」
タオナンとルビネルは周囲をキョロキョロと見回す。
しかし今の音が何なのか、どこから聞こえてきたのかも分からない。
「今のが、レベルアップですよ。おねいさん達・・・」
完全なるキメ顔で、パラは二人に振り返った。
そう言われてみれば確かになんだか少しだけ頼もしくなったように見えなくもない感じがそこはかとなく漂っているような雰囲気を若干だが覚える気がする。
「さぁ!ぼくはどんどん強くなりますよ!」
そう言いながら洞穴の奥へ一歩踏み出したパラは、その足に違和感を覚えた。
ぐにょん。
自分が踏みしめたのは固い岩であるはずなのに、なぜが弾力のあるゴムを踏んだような感覚がある。
「ん?」
なんという不幸か。
いや、僥倖と言っても良いかもしれないが。
パラが踏んだのは、レイオクトの触腕であった。
~・~・~・~・~・~・~・~
OBBのレシピをテイチョスに紹介するタオナンを描いてみました。
線は汚いけどやっぱ鉛筆が描きやすいよー!!