あけましておめでとうございます、坂津です。
この記事をお読み頂いている皆様の中で、夏目温子という女性をご存知の方はいらっしゃいますでしょうか。
私が一方的に恋い焦がれ、そして夢中で散財していた女性です。
そう、彼女は、テレビの向こう側の存在でした。
簡単に彼女の情報をお伝えしますね。
彼女の名前である「夏目温子(なつめ あつこ)」は実はニックネームです。
本名は「ヌクヌク」といいます。
抱いた感触が「温々してあったかい」ことから、飼い主である夏目龍之介(なつめ りゅうのすけ)によって名付けられました。
ヌクヌクは龍之介に拾われ、名付けられ、そして瀕死の重傷を負います。
実は龍之介は、父親である夏目久作(なつめ きゅうさく)と共に逃亡の身でした。
ヌクヌクの怪我は、久作たちが追手に襲撃された際の流れ弾に当たってしまったためだったのです。
傷ついたヌクヌクを抱きしめ、泣く龍之介。
責任を感じる久作。
そして、久作はヌクヌクを助けるべく、大胆な方法を取ります。
ヌクヌクの、もはや回復が望めない重傷の肉体から脳だけを取り出し、開発途中であったアンドロイド素体「NK-1124」に組み込もうと考えたのです。
こうして新たなボディを得たヌクヌクは、万能猫脳アンドロイドとして活動することになるのです。
作品名は『万能文化猫娘』
さて、冒頭でも書きましたが私はヌクヌクに恋をしていました。
それはもう朝から晩までヌクヌクのことしか考えられないほどに。
病気ですね。
実は当時の私は、ヌクヌクに出逢う直前まで別の女性に夢中でした。
黒髪でロングでストレートは、当時の私の心を鷲掴みにするのに必要の条件でした。
「坂津殺すにゃ刃物はいらぬ 黒髪ロングが居れば良い」と言われたほどです。
しかも巫女さんであるというオマケが付いてきています。
セーラームーンは髪型が奇抜すぎてダメでした。
セーラーマーキュリーは髪色が青なんて不良でした。
私が黒髪ロングストレート巫女である彼女に恋をしたのは当然のことでした。
彼女の誕生日(4月17日)には友人と「レイちゃん生誕祭」を開催していたほどです。
病気ですね。
そんな私の前に彗星のごとく現れたのが、件のヌクヌクなのです。
私は衝撃を受けました。
この私が、ピンク髪などというふざけた存在にトキメクだと?
後頭部から頭頂部にかけての大げさな癖毛を許せるだと?
そして何より私にはセーラーマーズという、恋することが必然なほど完璧にドストライクな登場人物、略して恋人が居るというのに?
ヌクヌクは、従来の私であれば恋の対象に成り得ない容姿をしています。
対するセーラーマーズは完全にストライクです。
なのにヌクヌクは私の心からセーラーマーズ分の容量を奪い取り、見事にシェアNo.1を獲得したのです。
私はセーラーマーズに対する申し訳ない気持ちと、それでもどうにもならないほどに焦がれるヌクヌクへの気持ちを整理するため、自分の心を分析してみました。
もう20年以上過去の話なので詳細は覚えていませんが、確かこんな感じで「ヌクヌクに出逢う前後」の心のシェアを計測したように記憶しています。
中学生だった私は驚愕します。
こんなことってあるか?
我ながらヒドイ分析結果でしたが、事実無根ではありませんでした。
この結果を受け、私は冷静さを取り戻すためにも、更なる分析が必要だと考えました。
明らかに異常事態だからです。
そこでまず、セーラーマーズとヌクヌクの違いについて考えました。
■顔
ヌクヌクがOVAであり、セーラーマーズが毎週のテレビ放送である分、セーラーマーズの方が作画にブレがあるため不利と思われましたが、特に顔における差はありませんでした。
■おっぱい
完全にセーラーマーズの勝利です。
もちろん数値的なものは両者ともに非公開ですが、ヌクヌクがかなりボリューミーな脂肪を胸部に蓄えているのに対し、セーラーマーズはそこそこにシャープなボディをしています。
貧乳とまでは言えませんが、充分に許容範囲です。
■設定
巫女というだけでセーラーマーズがかなり有利です。
ヌクヌクはアンドロイド?なにそれ美味しいのって感じです。
ただヌクヌクは猫脳というアドバンテージがありますので、これによってだいぶ詰め寄りますが、しかし軍配はセーラーマーズに上がるのです。
■髪
マーズ圧勝。
先にも述べましたが、私は黒髪ロングにめっぽう弱いのです。
ピンク色で非現実的な癖毛など、そもそも選択肢にすらならないはずです。
■声
あれ・・・?
ヌクヌクの圧勝だ。
でもどうしたって林原めぐみさんが最強なんです。
自分でも意外でした。
つまり、勝ち星の数で言えばマーズの勝利であるところ、ただ項目の配点がひどく偏っていたということなのでしょうか。
よくある「最終問題だけ1万点とかのクイズコーナー」みたいな。
確かに私にとって、恋愛対象の声は重要な要素です。
しかしヌクヌクに出逢った1992年以前も、林原めぐみさん演じるキャラクターには出逢ってきているのです。
魔法のプリンセス ミンキーモモ 夢を抱きしめてのミンキーモモ
機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争のクリスチーナ・マッケンジー
ピンク髪ばっかだな。
とにかく、私がなぜこんなにもヌクヌクに惹かれるのか、いくら考えてもまるで分かりませんでした。
しかし間も無く私は、この「分からない」ということが重要であるという結論に至るのです。
例えばセーラーマーズは私にとって黒髪ロングなことが重要でした。
では仮にマーズがショートヘアで、しかも色が青かったとしたら!
それなんてマーキュリー!?
想像しただけで私の恋心はクリボーに当たったマリオのように小さくなりました。
しかしヌクヌクの場合はそもそもストライク要素が乏しいにも関わらずなぜか恋をしてしまっているのです。
黒髪じゃないのに。
人間じゃないのに。
貧乳じゃないのに。
要素不明の方が激しく燃える萌えるのが恋というもののようです。
ここまで考えて、当時の私は思考を止めました。
「そもそも恋愛をロジックで語るなど愚の骨頂」という真理に辿り着いたつもりになったからです。
病気ですね。
そしてそこから私の全お小遣いはヌクヌクに捧げられていくのでした。
お金は減るけれども、自分の身に周りにはヌクヌクが増えていく。
この充実感、充足感、満足感、高揚感、多幸感。
私の部屋に足を踏み入れた妹は2秒で脱出しました。
「キモ」という捨て台詞を吐いて。
今の若い方はご存知ないかと思いますが、VHSという規格のビデオテープと呼ばれる記憶媒体が存在していた時代がありました。
1本30分のアニメを、5,800円出して買う。
中学生が。
これがどれほどの清水の舞台かは容易く想像していただけると思います。
しかも「応募券」とやらを集めて送ると漏れなくヌクヌクのUFOキャッチャー人形などが貰えるという特典があったんですよ。
VHSは全6巻
5,800×6=31,800円。
ああ、応募券はビデオだけでなくCDにも付いてましたね。
CDも全6枚でした。
3,000×6=18,000円。
VHSとCDで合計49,800円なり。
金額が貨幣価値を超える瞬間が訪れます。
私にとっての49,800円はすでに「金額」ではなく、私とヌクヌクとの間に立ちはだかる「障害」なのです。
万難を排して手にせねばならないという義務感と責任感と使命感、そして必ず成し遂げるという覚悟、私ならできるという謎の自信。
病気ですね。
もう正直な話、発症中の記憶は曖昧なのです。
高熱で正常な判断もできず、ただただ脳ミソを求めるバタリアンのようにうごめくことしかできないのです。
「恋は盲目」なんて言葉がありますが、そんな生ぬるいものではありません。
見えないのではなく、見えちゃイケナイものが見える状態、それが恋なのです。
ただし、この病気は治る病気です。
つまり、恋から醒める、そして冷めるときが来るのです。
あらゆる手段を講じてVHSのフルコンプリートを達成した当時の私。
自宅に宅配便が来るたびに正座で待機していたあの頃。
非売品のUFOキャッチャー人形とはどのようなものなのか。
応募券を送ってから荷物が届くまでの日々はもう、完全に舞い上がっていました。
逢いたいのに逢えなくて、逢いたくて震えていました。
毎日ビデオを観てCDを聴いて待ちました。
そしてついに、待望のご対面が叶うのです。
外箱の梱包用粘着テープですら愛おしく感じられ、慎重に丁寧に剥がします。
傷つかないように、破れないように、慎重に、ゆっくりと。
私は泣きました。
私の恋心は、偽物だったのかと。
所詮は外見によるものなのかと。
なぜ、この人形に恋できないのかと。
なぜ、どんどん冷めていくのかと。
人の恋心とはこんなにも脆いのかと。
長々と書き綴りましたが、自分で記事を読み返し、たった一言でまとめることができました。
しかしこの答えに辿り着いたことで救われた気もします。
この記事を書いて良かったと思えるのです。
まとめ
「私は、恋なんかしてなかった。」