どうも、坂津です。
ついに来ましたね、この季節このお題。
今週のお題「ちょっとコワい話」
※それほど怖くないですが、念のため怪談が苦手な方はバックしてくださいね。
大学生のときの話です。
入学したばかりの頃。
私が通った大学は地元と言うわけでもなく、知り合いが誰もいない状態でした。
しかしすぐに声をかけて来た奴が居ました。
「え?君もミレーヌが好きなの?」
どこからどう見ても完全にオタク武装の男がニヤニヤしながらこちらを見ていました。
こちらから話し掛けたわけではないのに、「え?」から始まる意味が分かりません。
(は?何コイツいきなり話し掛けてきて超キモイんですけど)
と思いつつ、しかしそんなことを言えるはずもなく。
私は無難に会釈しながら、「いや、そんなに・・・」と答えました。
「いやいやいや。さすがに好きじゃなきゃそれは着れないでしょ(笑)」
そう、このとき私はこんなTシャツを着ていたのです。
マクロス
しかし誤解を恐れずに言うのならば、私は当時このマクロス7を観ていなかったし、ミレーヌに対しても特別な好意を寄せてはいませんでした。
現在は改名、統合など様々な経緯を経て『C3 TOKYO』という名称になっているガレージ・キットやおもちゃの展示会が、まだ『
イベント会場内は非常に人が多く、まさに芋洗い状態。
特に人気のブース前などは買い物をするのも一苦労でした。
そんな中、私はこのTシャツを購入したのです。
なぜ購入したのかと問われれば、たったひとつのシンプルな答えしかありません。
「間違えた」
折り畳まれたシャツのプリントの、ごく一部しか見ずに購入したのです。
ご覧いただければすぐお分かりになると思いますが、ミレーヌはピンク髪です。
私が本当に欲しかったのは、こっちのピンク髪でした。
万能文化猫娘という作品のヒロイン、NK-1124 夏目温子こと、ヌクヌクです。
※私がいかにヌクヌクが好きかを書いているのはこの記事です。
一日中会場を歩き回り、ヘトヘトの状態で帰路につきました。
帰りは新幹線です。
家に帰るまで待てない私は、新幹線の中で戦利品を開封していきます。
そして、本来ヌクヌクであるはずのTシャツを広げたとき、目の前に立ちはだかったのが
「うおっ誰だキサマ!」
しかしこれは100%私の落ち度。不手際。ミス。間違い。
きちんと確かめなかった自分の不注意と軽率を戒めるため、私は敢えてこのミレーヌTシャツを着用することにしていたのでした。
つまり私が「自らに課した刑罰」として着用していたTシャツに、まんまと
こんな経緯から仲良くなり、友人になった彼ですが、この出会いから数週間後、亡くなりました。
交通事故です。
その事故の、前日のことです。
私たちはいつもの時間いつもの場所でオタクトークに花を咲かせていました。
「だから、今は自分で簡単にTシャツが作れるんだって」
「マジで!?」
「そう。アイロンプリントの用紙も売ってるし」
「そうだったのかぁ・・・」
「だから坂津は画像だけ用意しろよ」
「い、良いのか・・・?」
「もちろんさ。明日、ウチに来いよ」
当時、まだ携帯すら一人に一台ということも無かった時代です。
そんな中、彼はパソコン、プリンタ、スキャナを完備しているハイレベルオタクでした。
私が本当はヌクヌクのTシャツが欲しかったということを知った彼は、クオリティを問わないなら自作できると教えてくれた上に、一緒に作ってやると言ってくれたのです。
Tシャツにしたい画像さえ用意すれば、それで作れるのだと。
まだインターネット経由で画像を用意できるような環境ではありませんでしたので、雑誌の切り抜きや下敷き、本の表紙などをスキャニングします。
必要な部分だけを切り抜いたりする作業は非常に面倒ですが、それもこの友人がやってくれると言うのでとても助かりました。
これに乗った他の友人たちも、それぞれが思い思いのアイテムを用意して翌日を迎えました。
ちなみに私はヌクヌクの下敷きを持参しました。
しかし。
彼は学校に来ませんでした。
登校中に、事故に遭っていたからです。
ですがその時には私たちはその事実を知りません。
体調不良だろ、くらいに思っていました。
でも翌日も来ませんでした。
そこで私たちは彼の家に行くことにしました。
風邪で寝込んでいたりしたら可哀相なので、栄養ドリンクなどを買い込んで行きました。
が。
「君たち、泰樹の友達かい?」
見知らぬスーツ姿の男性が、彼の部屋から出てくるところでした。
男性は友人のお兄さんでした。
そして私たちはここで、友人が亡くなったことを聞かされました。
あまりに突然のことで、全員ただ狼狽することしかできずにいました。
そしてお兄さんから、葬儀は遠方にある実家で行うので参列は難しいと思うが、この部屋を引き払うときに是非来て欲しいと言われました。
私たちはそれを承諾し、モヤモヤした気持ちでその日までを過ごします。
そして1週間くらい。
友人の部屋を引き払うため、ご家族が来られていました。
私たちが訪ねるともうすでに家具などの大物は運び出されており、部屋の中では洋服をビニール袋に詰めたり小物を段ボール箱に入れたりする作業が行われていました。
大学進学を機に実家を離れ、一人暮らしを始めて数ヶ月のタイミング。
ご家族が把握していない荷物はほとんど無かったようです。
しかし明らかに「こちらに来てから部屋に追加されたもの」だけを入れた箱がひとつ、玄関に置かれていました。
「この中のものは、私たちがよく分からないものです。泰樹の思い出に、皆さんで持っててやって頂けませんか?」
こんな経緯で、私たちはそれぞれ、自分が欲しかったTシャツを手に入れました。
あの日、皆が手に手に持ち寄った画像がアイロンプリントされたTシャツを。
「なんだ、あいつ作ってくれてたのか」
「これ背景を切り抜くの大変だっただろうな」
「俺、大事にするよ」
「・・・おいちょっと待て・・・」
「・・・これ、いつ作ったんだ?」
そもそもあの日、私たちはアイロンプリント用紙に印刷までを行い、シャツの用意とアイロン圧着は各自が行おうと言っていました。
この場に完成品があること自体、オカシイのです。
更に、みんなが用意してきた画像を、彼が知るはずもありません。
みんなが素材を持ち寄ったあの日あの時間、彼はすでに亡くなっていたはずなのですから。
色々と協議した結果、全てのシャツを私が持って帰ることになりました。
もちろん、ご家族には「一人ずつ戴いて大事にします」と言いました。
ですが「やばい」「怖い」「泣きそう」「捨てるに捨てれない」という友人たちの精神的緊張を緩和するためです。
怖いというよりも、少し不思議な体験でした。
ちなみにそのTシャツはいつの間にか紛失してしまいました。
引っ越しの最中に間違って捨ててしまった説が有力なのですが、私は絶対に捨てませんし、作業を手伝ってくれた家族も捨てていないと言い張ります。
たたんで引き出しに、ではなくハンガーで吊るしてクローゼットに入れていたので、無くしてしまう可能性はすごく低いと思うんですけどねぇ。
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