あけましておめでとうございます、坂津です。
この記事は『Parallel Factor Cultivate Server パラレルファクター・カルティベイトサーバー』略して【PFCS】関連の記事です。
皆様のキャラクターをお借りして、我が国『キスビット』のピンチを救っていただくお話です。
これらの続きとなっております。
キャラクターをお貸し頂いた皆様、本当にありがとうございます。
所属国 | 種族 | 性別 | 名前 | 職業 | 創造主 |
---|---|---|---|---|---|
ドレスタニア(近海) | 鬼 | 女性 | 紫電 | 海賊 | 長田克樹 (id:nagatakatsuki) |
ドレスタニア | 人間 | 女性 | メリッサ | 国王付きの使用人 | 長田克樹 (id:nagatakatsuki) |
チュリグ | アルビダ | 無性 | ハサマ | 国王 | ハヅキ@クトゥルフ初心者 |
奏山県(ワコク) | 人間 | 男性 | 町田 | 会社員 | ねずじょうじ(id:nezuzyouzi) |
奏山県(ワコク) | 人間 | 女性 | アスミ | ピアニスト | ねずじょうじ(id:nezuzyouzi) |
コードティラル神聖王国 | 人間 | 男性 | クォル・ラ・ディマ | 自警団団長 | らん (id:yourin_chi) |
コードティラル神聖王国 | 人間 | 女性 | ラミリア・パ・ドゥ | 格闘家 | らん (id:yourin_chi) |
ライスランド | 精霊 | 男性 | カウンチュド | 射手 | お米ヤロー (id:yaki295han) |
メユネッズ | 精霊 | 男性 | ダン | 夢追い人 | たなかあきら (id:t-akr125) |
カルマポリス | アルビダ | 女性 | ルビネル | 学生 | フール (id:TheFool199485) |
今回はルビネルさん、町田くん、アスミちゃん、カウンチュドさん、メリッサさんの5名が登場となります。
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■救出
この世界には様々な大陸があり、国があり、人々が存在する。
普段の生活の中で、別の大陸、別の国の民と交流を持つことは少ない。
しかし、それでも国交は大切である。
より規模の大きな経済を回す為、貿易は不可欠な要素となっている。
もちろん国によって価値観は違えど、外貨獲得の為の観光誘致も大切である。
そんな海を越えての交流に欠かせないのが「船」という存在だ。
この航路図はとある海運組織の、複数ある定期就航便の航路のひとつである。
世界各国の港を繋ぎ、人を乗せ、下ろし、荷を積み、降ろす。
航路や季節によって帆船と蒸気船を使い分けることもしばしばだ。
追い風を帆に受けることで燃料の消費を抑え、向かい風のときには帆をたたみ蒸気機関の推力で航行できるので、よほどの天候不良でないかぎり就航予定が狂うこともない。
先にも述べたが、これは数ある航路図のひとつだ。
国同士を直接つなぐ直行便や、観光の需要が多い国だけを結ぶ遊覧便など、様々な航路が存在している。
その船を運営する組織もまた、数多存在している。
「なんで逆回りなのよ」
出港して幾数日も経過し、ワコクのとある港からキスビットへの直行便に乗り換えたルビネルは、その美しい黒髪を潮風になびかせながら一人毒づいた。
彼女の国、カルマポリスは、今回の旅の目的地であるキスビットとは隣の大陸にある。
乗船して航路を確認するまで、直行便であるとタカを括っていた。
しかし、教授が渡してくれた船のチケットは、世界を半周以上してキスビットへ行くという、壮大な遠回り航路であった。
しかも反対回りならまだしも、ご丁寧に遠い方。
時計の文字盤で言えば「7」から「10」を目指すのに、わざわざ「6」「5」「4」・・・と進むようなものだった。
ワコクはだいたい「12」あたりか。
船旅自体は悪くなかった。
各国の料理を楽しめるし、船員さんたちは親切だった。
他の乗客とも仲良くなった。
しかし、レジャーが目的でない以上、これは無駄な時間である。
このまま乗り続けるよりも、少し早くキスビットに着くという船の情報を聞き付けたのは、ワコクという国の港だった。
運営が同じ組織であるということで、直行便にはチケットの半券を見せるだけでそのまま乗り込むことが出来た。
ワコクの港では数人の乗客と、それからコンテナも数基積み込んだようだ。
「あれ、あの人もキスビットに行くんだ」
たまたまルビネルと同じように直行便への乗り換えをした人物を見付けた。
確か食堂で、ご飯が無いと声を荒げていたエルフの男の人だ。
ご飯が無ければパンを食べればいいのに、と思いながら見た記憶がある。
米粉のパンが提供されてようやく落ち着いたということがあった。
そんなことを考えつつ、手すりに肘を置いて海を眺めていたルビネルの耳が微かな声を捉えた。
「・・・て・・・さい・・・た・・・て・・・」
確かに人の声だ。
しかしどこから聞こえてくるのか分からない。
目を閉じて、音に集中するルビネル。
帆が風をはらむ音、船底が波を切る音、余計なものを意識から排除する。
ガンガン・・・「・・・す・・・て・・・」
声と一緒に金属音もしている。
ルビネルは背後の貨物置場へ目をやった。
何段にも積み上げられた金属製のコンテナが並んでいる。
「まさか、中に・・・?」
海上輸送用のコンテナには大別して2種類、通風型と気密型がある。
通風型のコンテナであれば声はもっと通るはずだ。
もし気密型であれば、中に人が居れば当然ながら酸素が不足する。
嫌な予感に襲われたルビネルは片っ端からコンテナを叩いて回った。
「中に誰か居るの!?居るなら返事をしなさい!」
外側から金属製の壁をガンガンと叩きながら移動すること数本目、外から叩くルビネルのノックに反応するコンテナがあった。
2度コンコンと叩くと、中からも2度返ってくる。
間違いない。
扉側に回り込むと、そこは太い鎖と頑丈そうな錠前でご丁寧に封印されていた。
「さて・・・コレでいける?」
自分に問いかけるように呟き、スカートの裾を少しだけ捲り、ペンを2本取り出した。
ただのペンである。
自国のカルマポリスであれば、このペンを自在に操ることが出来るルビネルであったが、今は洋上だ。
能力を発動するためのエネルギーが供給されていない。
と、ルビネルは上着のポケットからコロンのようなものを取り出した。
「これ、けっこう貴重なんだけど、ね」
ポンプを押すと、噴出孔からシュッと緑色の霧が出た。
色が緑だということ以外は、普通の香水となんら変わらない光景だ。
が、その途端にルビネルの様子が変わる。
表情を引き締めると、まるでダーツの矢を投擲するような動きで手を振った。
すると、なんと2本のペンが錠前に向かって一直線に飛んだではないか。
物凄い勢いで錠前に激突したペンだったが、しかしその丈夫さは歴然であった。
脆くも大破したプラスティック片を見て、がっかりするルビネル。
「そりゃそうよね・・・」
大人しく船員を呼びに行くか、しかし素直に開けてくれるかどうかは怪しい。
輸送のみが彼らの任務であり、道中の面倒事には関わりたくないと考える公算が高い。
依頼主の積み荷を勝手に開けるということ自体が契約違反だからである。
と、思案するルビネルの視界に、あのエルフが入った。
ご丁寧に腰には弓、背中に矢が入った矢筒と剣を担いでいる。
あの人なら、交渉次第で何とかしてくれるかもしれない。
「あの、ちょっと良いですか?」
カウンチュドは焦った。
完全にバレたと思った。
こんなに風の強い船上で、そんなに短いスカートを履いている方が悪いと思った。
不可抗力だ、無実だと自分に言い聞かせた。
「お願いがあるんです」
カウンチュドは安堵した。
これはバレてないと思った。
「俺に出来ることならば、協力しよう」
パンツの礼だ、とは言わなかった。
言わなくて良かった。
「私はルビネル。ねぇエルフさん、このコンテナ、開けられる?」
「俺はカウンチュド。一体どういうことだ?」
ルビネルと名乗った少女(に見える)が言うには、このコンテナの中に人が居るらしいとのことだ。
もしそれが本当なら、気密型のこのコンテナでは空気が保つまい。
分かった、と短く答えたカウンチュドはおもむろに弓矢を構えた。
ギリギリと弦を引き絞る音から、よほどの強弓であることが分かる。
「け、剣じゃなくて・・・?」
ルビネルの言葉は、勢い良く放たれた矢の風切音で掻き消される。
・・・。
生唾を飲み込むルビネル。
目の前で起こったこれを、一体どのように解釈すれば良いのか。
矢は見当違いの方向へすごい勢いで飛び去り、遠くでガンッと破壊的な音が聞こえた。
「やはりダメか・・・」
カウンチュドは寂しそうにそう言うと、弓を腰に戻し、背中の剣をスラリと抜いた。
そして落胆したままの状態で、剣を片手で適当に振った。
キンッという鋭く短い金属音とともに太い鎖が切れた。
ルビネルは目を丸くした。
(この人の剣術、すごい・・・)
勢いをつけて振り下ろすわけでもなく、金属製の鎖を断ち切る。
剣には刃こぼれひとつ無さそうだ。
並の腕ではない。
「よっ・・・と」
感心しているルビネルの横で、カウンチュドはコンテナの扉を開けた。
中には男女1名ずつが、居た。
「僕は町田、町田ヤスオといいます」
町田と名乗る男性は側頭部に傷を負っているようだ。
既に血は乾いているが、正式な処置をしたようには見えない。
転倒などの事故によるものでは無く、何らかの戦闘によって負った傷のように思われるが、しかしこの男が戦えるようには見えない。
「私はアスミです。開けてくださって、本当にありがとうございます」
アスミという女性は、丁寧なお辞儀でカウンチュドに礼を述べた。
その手に血がついた布地を持っているところを見ると、町田の傷をこれで押さえていたというところか。
この女性も、どう見ても一般人だ。
どういう経緯でこのコンテナに入っていたのか見当もつかない。
カウンチュドは瞬時に町田とアスミを観察し、謎は残るものの危険性は無いと判断した。
「俺は鎖を切っただけだ。開けようと言いだしたのはこっちのパ・・・女性だ」
パンツと言わなくて良かった。
「私はルビネル。無事で良かったわ」
■邂逅
町田の傷の治療と状況の説明も兼ねて、四人はカウンチュドの客室へ移動した。
そのあまりの豪華さに、ルビネルが驚いた。
「カ、カウンチュドさんって、何者なの・・・?」
「お米の伝道師と、人は呼ぶ」
誰一人呼んではいない呼び名を告げつつ、カウンチュドは手早く町田の傷に薬を塗って応急処置を施す。
傷自体は浅く、特に感染症なども見られなかった。
「良かったね、町田くん」
安心して力が抜けたのか、ぽふっとソファに座ったアスミ。
「では、続きは飯でも食いながらにしよう」
カウンチュドの提案によって食堂に向かう四人。
途中で船員同士がいがみ合っているのが聞こえる。
「蒸気機関の外装甲鈑に穴があいてンだっての!」
「なんで出航前に整備しとかなかったんだ!」
「出航前にこんな穴は無かったんだよ!」
「バカヤロウ!勝手にこんな穴が開くわけないだろうが!」
どうやら蒸気を圧縮して動力に変換する装置に損傷があるらしかった。
本来は蒸気機関で作りだした動力で推進する船も、その装置が動かなければただの帆船である。
通常通りの船足は期待できない。
「あ、さっきの矢・・・?」
ルビネルだけが気付いたが、言わぬが花ということを知っている。
しかし、もし装置に矢が刺さって残っていれば、この風貌から真っ先にカウンチュドが疑われて然るべきだが、そうなっていない現状を考えると、恐らく矢は外装甲鈑を突き抜けて海の藻屑になったと考えるのが妥当か。
一体どんな威力なのだろうと、ルビネルは空恐ろしく思った。
「・・・というわけで、予定していた2箇所の寄港を取りやめます。それでどうにか予定通りの到着ができる計算です」
船員が食堂で食事中の乗客に告げた。
普通なら帆をたたみ蒸気機関の推力で進むべき海域も、今は風頼みということだ。
「つまり、その謎の袋ノッポに襲われて、コンテナに逃げ込んだってわけね」
町田とアスミの話を整理したルビネル。
二人がごく普通の一般人であることが分かった。
お互いの素性を理解してしまえば、旅は道連れである。
数日が経過し、四人は意気投合して食事を一緒にするようになった。
カウンチュドの客室にはメイン以外に3部屋あり、町田とアスミが厄介になってもまだ余裕があるほどだった。
しかし。
これから向かうキスビットでは、ワコクへの帰還便が来るまで数日かかるだろう。
偶然の事故で乗り込んでしまった彼らには頼る先も無い。
もちろん先立つもの、つまり金も無い。
宿に泊まることも、帰国のチケットを購入することもできないはずだ。
「これくらいあれば、二人で国に帰れるか?」
カウンチュドはそう言うと、腰に提げていた袋から金貨を数枚取り出した。
ルビネルが驚く。
「カウンチュドさんって、すごいお金持ちなんですね」
「いや、そうでもない。これは盗賊たちがくれたんだ」
謎過ぎる言葉に、深く聞いてはいけないという予感がしたルビネルは話題を変えることにした。
「良かったね町田くん、アスミちゃん。これで帰れるわよ」
しかし二人の顔は晴れやか、とはいかなかった。
見ず知らずの他人から、こんなに何から何まで世話になっても、二人には返せるものがないからだ。
かと言って自力ではどうすることもできない。
そんなジレンマがあった。
それを察してか、そうでないのか、カウンチュドが言う。
「キスビットに着いたら、二人には少々手伝って欲しいことがあるんだが、頼まれてくれるか?」
「僕にできることなら、何でもお手伝いします!」
「私も、是非お手伝いをさせてください!」
もし二人の引け目を無くそうという気遣いからの提案だったなら、カウンチュドは素晴らしく気が利く男ということになる。
ルビネルはカウンチュドという人物を図りかねていた。
しかし結果は結果だ。
カウンチュドの言葉によって町田とアスミは自分たちのすべきこと、目指す道筋が見えたことによって気力を取り戻している。
「で、僕たちは何をお手伝いすれば良いんですか?」
「稲作だ!」
カウンチュドから稲田、稲作について説明を受ける町田とアスミ。
二人はかなり真剣に聞いている。
アスミはしっかりと手帖にメモを取りながら聞いていた。
その横でルビネルはうんざりしている。
まったく興味が湧かない。
(アスミちゃんのボールペン、可愛いなぁ)
窓の外を見ると徐々に陽が傾き、夜が来ることが分かる。
と、食堂の外から、大声で泣きわめく女性の声が聞こえてきた。
「うわ~ん!帰りたいですぅ~!お~ろ~し~て~!!」
四人は全員、顔を上げた。
先ほどの船員の説明によれば、この船はこのままキスビットまで一度の寄港も無く走り続けるはずだ。
今更船を降りたいと言ったところで無理な相談である。
ホームシックだろうか?
しばらく聞いていると、どうやら船長らしき人が現れ、話を始めた。
「そのアイデア、頂きですッ☆」
さっきまで泣いていたとは思えないほど元気な声が聞こえてきた。
そしてガチャリと食堂の扉が開き、入って来たのは可愛らしいメイドさんだった。
「安心したらお腹がすきました!」
「お嬢ちゃん、その・・・金は、あるのかい?」
食堂の船員は聞きにくそうに尋ねた。
本来、普通に乗船している客であれば食堂は使い放題、食べ放題である。
しかし・・・。
「え?お金・・・お金・・・あ!お花畑に置いてきてしまいました!ああああッ!どうしましょう!ガーナ様に怒られる・・・すごい怒られる・・・絶対に・・・あぁ!私はきっと怒られに怒られてもう怒られつくしてきっと怒られ死んでしまうんだわッ!!」
ダバァーと滝のような涙を流して床に水たまりを作るメイドさん。
関わってはいけない、と思ったルビネル。
自分ではどうしてあげることもできないと思った町田。
カウンチュドを見詰めるアスミ。
席を立ち歩き出すカウンチュド。
「その衣装、もし違っていたらすまない。君はドレスタニア人か?」
カウンチュドが放った言葉にピタッと泣きやむメイドさん。
「はい!私はメリッサと申します!ドレスタニアの前王様のガーナ様の代理の王様のショコラ様にお仕えしております!」
理解するのに時間が掛かる言い回しだったが、カウンチュドにはそれで充分だった。
メリッサの手をガシッと握り、床に膝をついた。
「俺はライスランドのカウンチュド!俺がこの世で最も愛する、“神の甘味~オムスビーボンボン~”は、貴国からの輸入品だったな!」
オムスビーボンボンは、元々ドレスタニア出身でライスランド在住の者が考案したものらしい。
しかも最初は麦製だった。
しかし品が伝播していくうちに、素材が米に変わり、ドレスタニアからの輸入品という箔が付いたようだ。
米製の酒をゼリー状に固めたものをご飯で包み板チョコを刺した、オムスビーボンボン。
概要を聞き、味を想像して顔をしかめるルビネル。
町田とアスミは苦笑いしている。
「あの素晴らしい品を産み出した国の、それも王様の関係者!?これは恩返しの好機!」
「まぁ☆どういうことかは分かりませんが、果報は寝て待てと言いますものね!存分に恩返ししてくださいませ!」
誰にも追従を許さないハイレベルな会話の末、メリッサが仲間に加わった。
らしい。
「えーっと、じゃあ改めて。私はカルマポリスから、呪詛の使用について調査をするためにキスビットに向かっているわ。ルビネルよ、よろしく」
「僕は町田です。ワコクの奏山県から来ました。突然怪物に襲われて、偶然この船に乗ることになってしまったのですが、とりあえずキスビットでは稲作を伝えるために頑張ります」
「私はアスミ。経緯は町田くんと同じです。メリッサさん、仲良くしてくださいね」
「俺はライスランドのカウンチュド。お米と弓矢が好きだ!」
全員が自己紹介をすると、メリッサは腰に手を当てて胸を張り、自信満々に言う。
「メリッサと申します!愛するショコラ様の、きゃあ~愛するだなんてもう私ったら☆コホン、ショコラ様のためにキスビットでお買いものをすることに、さっき決まりました!仲良くしてくださいね!カルネルさん、まちでやまさん、アスミン、中華丼さん!」
誰だそれ。
ルビネルと町田は出身と名前が混ざった、のだろう。
アスミはもう既に仲良しのあだ名のようだ。
カウンチュドに至ってはなぜ並べ替えたのか。
逆にすごい。
「すみません、一度に言われると覚えきれなくて・・・エヘヘヘ」
食事をしながらゆっくり時間を掛けて会話を交わし、ようやくメリッサが全員の名前を覚えたのはもうすっかり夜中だった。
■夜会
「毒を食らわば皿まで、ですね!☆」
どうせならみんな同じ部屋で、というカウンチュドの提案に、メリッサは謎の回答で応えた。
大、中、小、小という四つの部屋があるカウンチュドの客室の、大部屋を女性三人で、中部屋を男性二人で使用することにした。
その夜、大部屋ではパジャマパーティが行われた。
とは言え事前に旅の準備をしているのはルビネルだけで、不慮の成り行きで乗船となったメリッサとアスミはパジャマどころか着替えも無いはずだった。
しかしこれも、カウンチュドが手配してくれた。
「これだけ大きな船だ。船員用の替えの服があるかもしれん。俺が交渉してこよう」
「すまない、君たちの分はこれしか・・・」
そう言って差し出されたのは、この船の乗組員が着用している、水兵服を模した上着だった。
確かに全て新品である。
が、上着だけだった。
どれもサイズは大きめで、そのまま着用すればワンピースくらいの丈にはなるだろう。
どうせ就寝時にしか使わないということで、彼女らはこれを良しとした。
なぜか、自前のパジャマを持っているルビネルの分も渡された。
ルビネルはまた、カウンチュドの真意を図りかねた。
確かに三人の中で自分だけが違う服を着ているというのは、気まずいかもしれない。
そこまで考えてこの手配であれば、相当に気遣いができる男だ。
三人は順番に入浴を済ませ、カウンチュドが用意してくれた水兵服を身につけた。
「これ、なんだか恥ずかしいですね・・・」
モジモジした様子でソファに腰掛けるアスミ。
足を組んで椅子に座っていたルビネルがこれに応える。
「アスミは本当に可愛いわね。羨ましいわ」
ストレートにはっきりと言うルビネルに対し、そんなことありません、と慌てて返すアスミの顔はほんのり赤くなった。
そのやり取りを見ていたメリッサがルビネルに言う。
「確かにアスミさんは可愛らしいですねぇ。でもルビネルさんも、同じようにすごく可愛いと思います」
こちらも飾らない言葉でハッキリ直球だった。
今度はルビネルが赤面する番だ。
「そ、そんなこと・・・いや、まぁ、でも、アリガト。メリッサだってすごく可愛・・・」
「それにしてもアスミさん!」
ルビネルの言葉を遮ってメリッサが身を乗り出した。
「町田さんとは、どういうゴカンケイで?」
さっきにも増して更に顔が赤くなったアスミは、クッションをギュッと抱き締めた。
ルビネルも少し気になっていたことだが、さすがに聞きづらかったことだ。
しかしメリッサが代わりに尋ねてくれたのでここは相乗りと決めた。
「その様子だと、好きなのは間違いなさそうね。どうなの?」
完全にターゲットにされてしまったアスミは、ぽつりぽつりと話し始めた。
子供の頃ピアノ教室で出逢い、それぞれ別の道を歩む大人になった今でも、文通をしていること。
たまに会うのがとても嬉しいこと。
「僕の分は、ちゃんと上下あるんですね。なんだか申し訳ないです」
こちらは中部屋。
男子会、というわけでもなさそうだ。
カウンチュドが用意してくれた就寝用の服を着用した町田が言う。
大きな襟の部分は着脱可能で、外してしまえば確かにパジャマと言えそうだ。
「町田、君も男なら、このロマンを理解できるようになれよ」
どこか知らない遠くを見ながら、カウンチュドは諭すように言う。
そしておもむろに身を屈め、大部屋へと繋がる扉の鍵穴に目を近付けた。
「カウンチュドさん?何してるんですか?」
カウンチュドのおかしな言動に驚く町田。
ロマンとは何か?何を見ようとしているのか?
そして少しだけ間を置いて、ようやく察した。
「ちょとカウンチュドさん!ダメですよそんなの!」
町田に肩を掴まれ、やおら立ち上がるカウンチュド。
大きい。
身長差があると迫力もすごい。
じっと自分を見詰めるカウンチュドに、町田は一歩退いてしまった。
「好き、なんですけど・・・町田くんには迷惑かもしれません」
外から見ればもう明らかな相思相愛であるにも関わらず、それをまだ、もしかしたら相手の気持ちは友情かもしれない、などと言うアスミに対し歯噛みするルビネル。
いや、振り返れば自分も、昔はそういうこともあったかも知れない。
しかし今はそんなことは関係ない。
どう言えば自覚させられるのか思案するルビネルの横で、メリッサは一人別世界に突入していた。
「お互いに好き同士だと信じている・・・でももし違ったら?嗚呼ッ!なんて甘酸っぱい気持ちなんでしょう!まるで新鮮なベリーソースのよう!その気持ちという名のソースがかかっているのは芳醇な香りと濃厚な甘さとホロ苦さが複雑に絡み合った、本心という名のショコラプティング!さぁ町田さん、早くアスミさんのプティングを食べちゃってください!」
「なぜ止める町田よ!俺が何のためにあの服をあの大きさで寝巻用に用意したと思っているのだ!覗くためだ!それ以外に何の他意も無い!ただ純粋にだ!お前だって男だろう!?アスミがその服を上着だけ着ている姿を想像してみろ!どうだ!?どうなんだ!?想像出来たのか?おい!どんな姿だ!?」
偶然にも、メリッサの叫びとカウンチュドの雄叫びは同時であり、お互いの部屋にその内容が伝わることは無かった。
ただ、何か大声がした、という状況だ。
「どうした!?何があった!?」
勢い良く扉を開けてしまったカウンチュド。
アスミの黄色い悲鳴がこだまする。
ルビネルはサッと上着の裾を押さえてジト目だ。
メリッサは町田を見付けて「さぁどうぞ!」と言う。
町田はくるりと背を向け立ちつくす。
カウンチュドは目的を達成して感無量であった。
翌朝、朝食の場で気まずい思いをしているのは町田だけだった。
女性陣の顔をまともに見ることができない。
すぐに目をそむけたとは言え、本当はバッチリ目撃してしまっていた。
大きめの上着から生えたうら若い女性の露わな脚が、脳裏に焼き付いて離れない。
そんな町田を見て、アスミはさりげなく隣に座り、こっそり囁いた。
「ねぇ町田くん」
「な、何?」
「昨日の夜の、あのとき・・・見た?」
「みみみ、み、み、見てないよ!」
「なーんだ。残念」
「え?」
アスミはさっとテーブルの反対側、ルビネルの横に座り直した。
自分では最大級に頑張ったつもりだ。
鏡を見なくても赤いのが分かるほど、アスミの顔は熱かった。
町田も同様だ。
この様子じゃあ二人はまだ当分このままかな、とルビネルは苦笑した。
メリッサとカウンチュドは脇目も振らず朝食に集中していた。
数日が経過し、ついに船はキスビットの領海へ入った。
もうしばらく進めば島影も見えてくるだろう。