あけましておめでとうございます、坂津です。
やってしまった・・・。
ホワイトデーって昨日じゃないかぁー!!
つまり締め切りをぶっちぎったってことですよ。
大変申し訳ございませんですm(_ _)m
これからの続きです。
PFCS公式イベントであるコチラに乗っからせて頂いております。
お話の主人公はウチのアウレイスで、旅の目的はなんちゅさんのキャラクター、ソラさんに逢いに行くこと。
↑ソラさんってこんなお方ですよ~↑
※BL注意です。
~・~・~・~・~・~・~・~
ソラは、どうして良いのか分からず、ただその場に立ち尽くしていた。
いつも冷静なソラにしては珍しい光景だ。
頭が真っ白で動けない、というのが傍から見ても分かる状態だった。
「ソラ様、お久しぶりです・・・」
船から降りてくる人影には見覚えがある。
あの日、任務で出掛けた先の国で、謎の生命体による襲撃を受けた。
そのとき、自分を庇って死んだ女性、アウレイスその人であった。
「ア、アウレイス・・・さん・・・?」
埋葬までは立ち会わなかったものの、遺体を教会へ運んだのは、他ならぬ自分なのだ。
どうやったって生きているハズが無い致命傷を負っていたのを確認している。
驚くソラに対し、アウレイスは少しだけ服の襟を広げ、左肩を見せた。
「ソラ様、覚えてます?サターニアの子、アワキアを」
アウレイスは説明した。
アワキアの特殊な能力によって蘇生して貰ったこと。
肌の色が違う再生された部分は透明化ができないこと。
そして何よりもまず、自分が生きていることを伝えたかったこと。
「そうか。良かったです。本当に」
ソラはようやくそれだけ言った。
状況の整理や理解は必要なく、率直に今思うことを述べるのが正解だと思った。
胸のつかえが、すっきりと無くなった気がする。
「なぁ、ソラ。そろそろ紹介してくれねーか?」
「ねぇアウリィ、あたしの出番ってまだなの?」
シュンがぶっきらぼうに、エスヒナは頬を膨らませて言った。
我に返ったソラは、シュンにアウレイスを紹介した。
アウレイスは丁寧にお辞儀をし、自己紹介をする。
そしてエスヒナの紹介をした。
「まぁ、生きてて良かっためでたしめでたしってトコだな」
シュンがソラに言う。
少しトゲがあるようにも感じる。
「じゃあ要件の書簡を渡してくれるかな?オレたち、この後も任務なんだ」
せっかくここまで来たのに、このままではソラが去ってしまう。
きっとアウレイスは何も言わないし、追うこともない。
そう考えたエスヒナはシュンに言った。
「シュンくん、だっけ?ちょっとコッチ、来てくれる?」
「ああ、良いぜ」
手近な建物の物陰に向かって歩くエスヒナに、あっさりと付き従うシュン。
路地裏に入りしばらく歩くと、エスヒナはシュンに振り返る。
「アウリィにもうちょっとだけ時間をあげたいんだけど」
「おいお前!俺に何をした!?」
会話が噛み合っていない。
シュンはなぜ自分がエスヒナの言うことに対して何の疑問も持たず快諾し、ノコノコと後ろをついて歩いて来たのか分からない。
もちろんエスヒナも「素直な奴」くらいにしか思っていない。
「何って、別に何もしてないよ?」
「ふざけるな!」
100%の警戒と120%の敵意を全開にして、シュンは身構えた。
「ちょっと待って。落ち着いてよ」
「ああ、分かった!」
先ほどまでの焦燥と緊張、不信と怒気はどこへ行ってしまったのか。
シュンは呆れるほど軽く、笑顔さえ見せながらエスヒナに返事をした。
あまりの豹変ぶりにエスヒナも少々驚いている。
そして、落ち着き終わったシュンはまた我に返った。
「お前・・・一体どんな能力なんだ・・・」
冷や汗を流して後ずさるシュン。
状況が飲み込めない。
自分が何をされているのか分からない。
なぜか勝手に深刻ムードに陥ってゆくシュンに不思議そうな顔をしながら、エスヒナは考える。
「どんな能力って、言われてもねぇ」
首をかしげながら右手の人差し指を頬に当て、目を瞑った。
この隙を見逃すシュンでは無かった。
エスヒナが目を閉じたのと同時に一息で間合いを詰めたシュンの拳が、エスヒナの顔面を捉えた。
ように見えた。
「っっぶな!」
間一髪、大げさに背を反らして上体を後方に倒し、そのまま地面に手をついたエスヒナ。
バク転の要領で立ち上がり、シュンを睨みつける。
こめかみが少し、切れたようだ。
若干の血がにじむ。
そのとき、足元で「カラン」と音がした。
エスヒナの額当てが、転がっていた。
アウレイスは困っていた。
目の前には想い人であるソラが居る。
しかし生存報告をした以上、目的は達せられた。
他に何を話して良いのか分からない。
しかしそれはソラも同じだった。
沈黙が続き、どちらも気まずさを感じている。
そこへ。
「ぐっ・・・うああああぁぁぁぁッッ!!!」
突然叫び声が聞こえた。
その直後にガラスが割れる音。
先ほどエスヒナとシュンが向かった路地からのようだ。
「シュン!?」
ソラはいち早く反応し、駆け出した。
アウレイスも一歩遅れて続く。
そこには、両手で額を押さえ、泣いているエスヒナが居た。
すぐ横の窓ガラスが割れている。
「ふぐぅッ・・・ぐ・・・ぐああああっ!!!」
割れた窓の向こう、つまり部屋の中から、うめき声が聞こえた。
ソラは反射的に、その部屋へ飛び込んだ。
アウレイスはエスヒナに駆け寄る。
「エ、エスヒナ?どうしたの?大丈夫?」
足元に転がる額当てと、額を押さえる両手を見止め、怪我をしたのではないかと覗きこむ。
「ダメ!見ちゃだめ!」
どちらかと言えばいつも軽口を叩くお調子者タイプのエスヒナが、こんなに真剣に、泣きながら声を上げるのを、アウレイスは初めて目の当たりにした。
とにかく落ち着かせて事情を聞かなくては。
額当てを拾い、手渡すアウレイス。
「一度、船に戻ろう?」
自分に背を向けながら額当てを装着するエスヒナに声を掛ける。
振り返った彼女は少し冷静さを取り戻しており、スンと鼻をすすってアウレイスの後に従った。
船室でエスヒナの話を聞いたアウレイスは驚愕した。
「サ、サムサール・・・第三の瞳・・・」
相手に影響を及ぼしている“劣情”という感情について、エスヒナ自身はそれを有していない。
自身から欠落している感情が宿った額の瞳、それと目が合うことで対象がその感情に支配されてしまうという恐るべき能力。
しかし術者であるサムサール自身にその感情が欠如しているため、結局のところ相手がどのような状態なのかを理解することができない。
エスヒナは、淡々と自分の過去について語った。
今までエウス村長と自分だけの秘密だった、自分の瞳と忌まわしい経験を。
突如として自分に襲いかかる理不尽な暴力。
しかしその理由については全く理解できない。
ついさっきまで一緒に笑い合っていた相手の豹変と、それに伴って訪れる「我慢の時間」。
アウレイスは震えた。
こんなに深い心の傷を、エスヒナは抱えていたのか。
今までずっと、心のどこかで「自分が一番不幸」だと思っていた。
自分にとって尊敬に値する人、好感が持てる人というのは、きっと自分のような不幸を経験していないから、素晴らしい魂を持っているのだと思っていた。
言い換えれば、自分に自信を持てないことについて、その全てを運命のせいにしていた。
しかしエスヒナは違う。
話を聞くだけで身を裂かれるような気持ちになる残酷な経験を経てもなお、全くそれを感じさせない明るさと快活さを持った存在。
事実、今この話を聞くまでアウレイスは、エスヒナの過去について全く知らなかったし、想像すらしていなかった。
どちらかと言えば「苦労を知らない能天気な」人物像と捉えていた。
「エスヒナ・・・ッ」
アウレイスはエスヒナを抱きしめた。
今まで大切な親友だった彼女に、改めて尊敬の気持ちが芽生えた。
その抱擁は強く、優しく、エスヒナに気持ちを伝えるのに充分なものだった。
「ありがとう、アウリィ」
エスヒナにとっても、ようやく秘密を打ち明けることができ、いつも心の隅で感じていた後ろめたさがすっかり無くなった。
アウレイスは、自分も変わらなくてはと、強く思った。
親友との絆を、より強い結びつきへと変えた二人。
「あッ!!」
急にエスヒナが声を上げた。
その声でアウレイスも気付いた。
いや、思い出した。
シュンと、ソラのことを。
「自分の力では、解けないんだよね?」
「うん・・・ごめん・・・」
例の建物へと走りながら、アウレイスの問いに答えるエスヒナ。
駆け付けて何が出来るかも分からなかったが、しかし放っておくこともできない。
そして二人が見たものは・・・。
絡み合う雄と雄。
ぶつかり合う欲と濁。
混ざり合う淫と猥。
アウレイスは目を背けることを忘れて見入ってしまった。
野性的に荒々しく貪るサターニアと、その全てを受け入れる人間。
常識的に考えれば、このような異種同性の秘事は理解し難いものであるはずだった。
しかし、アウレイスはこの光景を「美しい」と思ってしまった。
そこには確実に、ソラの愛が在ったからだ。
エスヒナの第三の瞳によって劣情に支配されてしまったシュンを、どうにか癒そうとするソラの姿。
垣間見えるのは友情や責任感ではなく、紛うことなき愛であった。
「エスヒナ、どのくらいの時間、シュン様と目が合ったか分かる?」
「う、うん。感覚だけど、ホントに一瞬だと思う・・・」
つまり、エウス村長と同じくらいと考えられるか?
ならば一晩程度で我に帰る公算もある。
しかしあれは数年前の出来事で、エスヒナの成長と共に能力も強力になっている可能性はある。
彼女の話によれば「我慢の時間」はおよそ丸一日か二日。
その終わりは相手が動かなくなること、つまりは「死」だ。
最悪の場合、体力を使い果たして死ぬまで、シュンとソラの情事は続くことになる。
そんなことはさせられない。
何とかしなくては。
とにかく二人を助けたい。
いや、三人か。
もし最悪の事態が起こった場合、きっとエスヒナも深く傷つくことになる。
アウレイスは強く、強く思った。
この世の全ての人なんて、そんな大それたことは願わない。
せめて、この手が届く範囲の人たちを助けたい。
「う、うわッ!」
突然目の前で眩い光がはじけ、エスヒナは驚きの声をあげた。
その光はドーム状に広がり、周囲を包み込んだ。
まるで羽毛の海に飛び込んだかのような心地良い感覚があり、先ほどまで感じていた焦りの感情が落ち着くのを感じる。
やがて光は徐々に収縮し、その中心にアウレイスが居たことが分かった。
「シュン!大丈夫ですか?シュン!?」
ソラの声で我に返ったエスヒナ。
部屋を覗き込むと、ベッドに倒れ込んで動かないシュンの肩をゆするソラの姿が見えた。
静かに寝息を立てて眠るシュンに綿布をかけ、部屋を出たソラ。
廊下にはアウレイスとエスヒナが居た。
「本当に、ごめんなさい・・・」
エスヒナが深々と頭を下げ、詫びる。
アウレイスも同様だ。
「やめてくださいエスヒナさん。アウレイスさんも」
ソラは二人に顔を上げるように言った。
あのあと、簡単に事情を聞いておよその事態を把握したのだ。
誰が悪いということもない。
強いて言えば運が悪かった、というところか。
結果オーライだと言う。
最終的にはアウレイスが発した光の効果によって、シュンは精神の落ち着きを取り戻し、眠りについた。
ソラの方は疲労感や倦怠感は無く、あれほど激しい行為の後であるにも関わらず体力の消耗が感じられない。
エスヒナはシュンの拳によって切れたこめかみの傷が治癒されている。
「すごいですね、アウレイスさん。回復系の能力ですか?」
ソラの問いに対して、アウレイスは答えられない。
自分でも何が起きたのか分からないのだ。
「そう・・・そうだと良いと思います」
本心だった。
まだ未知のものではあるが、もし自分に癒しの能力が備わったのであれば、こんなに嬉しいことは無い。
「残念だったねぇ、アウリィ」
キスビットへと帰る船上で、エスヒナはアウレイスに言った。
しかしそう言われた当のアウレイスには、残念そうな表情は見られない。
「そう?私にとっては良い旅だったわ」
親友との絆が深まり、新しい能力が開眼し、何よりもソラの愛に触れることができた。
その対象が自分でなかったとしても、アウレイスには嬉しかった。
あの無機質で無感情なソラが、本当は深い愛の持ち主であったことが、たまらなく嬉しいのだ。
「失恋したのに!?」
エスヒナから見ればアウレイスは、想い人を目指してはるばるやってきたというのに、相手には恋人が既に居り、しかもその相手が異種同性という極めて特殊な状況。
深刻な精神的ショックを受けてもおかしくないと思った。
しかしアウレイスが強がりを言っているようにも見えない。
どういう心境なのか。
「私のオトコを見る目、正しかったってことでしょ?」
およそアウレイスらしくない発言と、アハハと笑うその姿に、エスヒナは見惚れてしまった。
今までの柔和で優しい印象に加え、どこか吹っ切れたような感じもある。
その笑顔が眩しすぎて、エスヒナには気付くことができなかった。
もちろんアウレイス本人も気付いていない。
風を受け、美しく揺れる見事な銀髪の、その毛先が黒く変色していたことに。
真新しい筆先を墨に浸けたように、黒く。
「シュン、目が覚めましたか?」
ベッドの脇に置いた椅子に座っていたソラが立ちあがり、上体を起こそうとするシュンに手を伸ばす。
「オレは・・・一体・・・」
そう言いながらシュンは、霞掛かった頭で記憶をたどる。
そしてすぐに思い出した。
エスヒナとか言う女の、額にある瞳と目が合った瞬間に、突然強い衝動が湧き起こった。
目の前に居る女の衣服を引きちぎり、力ずくでなぶりものにしたいと、思った。
しかしそうしなかったのは、ソラの顔が浮かんだからであった。
一瞬の判断で壁面のガラス窓を破り、その部屋へ飛び込んだ。
そこは幸いにも無人だった。
目の前から対象が居なくなっても、自分の中で暴れる衝動はどうにもならなかった。
そこに、ソラが現れた。
そして・・。
「オ、オレ、お前に・・・ひどいことを・・・」
欲望のままにソラを「使って」しまった記憶はしっかりと残っている。
シュンはシーツを固く握り、後悔と懺悔の念を漏らす。
「たまには、ああいうのも悪くないと思う」
ソラの言葉に驚くシュンは、しかし何も言えなかった。
唇を塞がれてしまったから。
数秒後、そっと離れていくソラの唇が次に紡いだのは、いつもと違う口調だった。
「でも、本当にたまにだよ?僕の身がもたないからね」
俯き、赤面しながら言うソラと、その手を握るシュン。
ハッとしてシュンを見るソラ。
言葉は無い。
見詰め合う二人。
先に視線を外したのはシュンだった。
自らが割ったガラス窓を見る。
ソラはすぐに窓際へ向かい、カーテンを閉めて、ベッドの上のシュンを見詰めた。