『かなり』

干支に入れてよ猫

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PFCS ひな祭りイベント【前編】

あけましておめでとうございます、坂津です。

滑り込み!

ヘッドスライディングでイベントに参加しますぞぉぉぉー!!

pfcs.hatenadiary.jp

と言っても、ちょっと趣旨が違ってしまっててごめんなさい。

オリジナルのSSの続きのキッカケとしてイベントを利用させて頂きます! 

 

一応、これの続きってことで。

ざっくり言うと、アンティノメルのソラくんがキスビットに来てくれて、そこでアウレイスが一方的にソラくんに対する恋心の種をその胸に植えてしまったよ、という感じです。

 

コチラのハードなSSに衝撃を受けての、アンサーSS的なものとお考えください。

poke-monn.hatenadiary.com

 

あ、それからちょっとだけキャラ描いてみました。

性懲りも無く鉛筆ですが。

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グレーなヒゲの描き方が分からない。

もっと精悍な印象にしたいと思っています。

おっさん描くの難しいなぁ~・・・。

 

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なんとこのアウレイス、青い川さん(id:aoikawano)がキャラデザしてくれましたー!

漠然としたイメージしかなかったのですが、素晴らしいデザインをありがとーございまっす!

 

~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

「あれ、もう動いて大丈夫なの?アウレイス」

 

丈の長い前合わせのシンプルな衣の、すそを引き摺らないよう両手で余剰分をつまみ上げながら、ゆっくりと歩いている女性。

信じられないほど真っ白な肌と長いストレートの銀髪は、一瞬、この世界に色が存在することを忘れさせてしまうほど美しい。

そしてその白さと対照的なのは、燃えるように赤い瞳だ。

まだあどけなさが残る少女の顔つきには、少しアンバランスにも感じてしまうほど意志の強そうな輝く赤と、底知れぬ憂いを秘めた暗い赤が同居する。

アウレイスと呼ばれたこの女性は妖怪の一種、アルビダという種族であり、白い肌はその特徴だ。

数ヶ月前、アウレイスは瀕死の重傷を負った。

いや、正確には一度、死んだ。

しかし幸運にも彼女は生還し、今は治療とリハビリの生活である。

アウレイスが自分に投げかけられた声に対して振り向くと、そこに居たのはキスビット人のオジュサだった。

キスビット人はこの国、キスビットの先住民族であり、土壌神ビットを祀ることによって土属性の魔法を操る種族である。

諸外国ではエルフと呼ばれたり精霊と呼ばれたりすることもあり、それぞれが信仰する対象によって、使える魔法も異なる。

 

「ええ、お陰さまで。もうずいぶん良くなったんですよ」

 

そう言いながらアウレイスがにっこり微笑む。

この柔らかな頬笑みを向けられると、世界中から全ての争い事が消えて無くなったかのような錯覚を覚える。

肌触りのよい羽毛に抱かれたような優しい気持ちになる。

しかし、これは彼女がオジュサに慣れているからこその笑みだった。

病的なほどに人見知りが激しいアウレイスがこの笑顔を向けるのは、ここタミューサ村の村民に対してだけである。

いや、正確には村民では無い外国人にも、ひとり居るのだが。

 

「あれからもう半年近く経つのか。でも、治って良かったね」

 

アウレイスだけでなく、このオジュサにも、そしてタミューサ村全体にとっても、あの事件は深い傷を残した。

家族を失った者、荒れた畑、崩れた家屋。

しかし落ち込んでいるだけでは前に進めない。

皆が懸命に、あの事件を乗り越えようとしていた。

もちろん、アウレイスも。

 

「ええ、でも村長は、まだ外出を控えろとおっしゃるの・・・」

 

それはオジュサも同意見だった。

襟元からちらりと覗く彼女の胸元が、嫌でも目に入る。

透き通るような白い肌と、浅黒い肌が融着したような境目が、そこにはあった。

オジュサの視線に気がついたアウレイスが、少し自嘲気味に言う。

 

「自分でも分かっているんです。私はもともと透明になるくらいしか能がなかった上に、今ではそれも不完全・・・。こんな欠陥品に、大事な仕事を任せられませんよね」

 

それは違うと、オジュサは言おうとした。

しかし、村長から止められていた。

アウレイスは幼少期を恐ろしい鬼族の奴隷として生きた経験のせいで、いつでも自分を低く見積もって考える癖があった。

引っ込み思案で、他者との衝突を恐れた。

自分さえ我慢すれば、自分は主張をしてはいけない。

自己犠牲と言えば聞こえは良いが、その実アウレイスのそれは、単なる逃避だった。

村長は、それがアウレイスの能力のタガになっているのだと言う。

他者から指摘されるのではなく、彼女自身がそれに気がついた時、きっと彼女は自分の真の能力に目覚めるだろうと。

 

「ま、あまり後ろ向きに考えずに、ね。リハビリがんばって」

 

オジュサはそれだけ言うのが精いっぱいだった。

くるりとアウレイスに背を向けて、歩き出す。

この場を立ち去らなければ、つい手を差し伸べてしまう衝動に耐えられる自信が無かったからだ。

 

「後ろ向き、か。私の前って、どっちなのかしら」

 

ひとり呟くアウレイス。

その言葉は風に乗って、空に消えていった。

 

 

 

タミューサ村では珍妙な現象が起きていた。

つい数日前からのことである。

 

「ちょっとアンタ、夕飯の支度しといてくれないかい?」

 

「おう任しとけ!」

 

妻に夕飯の用意を依頼され、元気よく承る旦那さん。

コレ自体は何の変哲もないただの日常風景だ。

しかし問題は、この後である。

夕飯を作り終え、食卓に皿を並べた直後に、旦那さんに異変が起こる。

 

「なんで俺が飯を作らなきゃならんのだ!」

 

「あら、そう?アンタの料理、美味しいよ?座って食べなよ」

 

「おう!ありがとな、かあちゃん!」

 

そしてにこやかに食事を終えると、また旦那さんが叫ぶ。

 

「ちょっと、かあちゃん!今日の俺はどうしちまったんだ!かあちゃんの言うことに逆らえねぇ!助けてくれー!!!」

 

こんなことが村中で起こっていた。

些細なことから、割と大仰なことまで、とにかく女性のお願いに対して男性が自動的に承諾し実行してしまうという現象が起こっていた。

 

「あの・・・冗談ですよねぇエコニィさん?」

 

半年ほど前にこの村に来た、元兵士のエコニィは人間の女性だ。

自分の身長ほどもある大剣の使い手で、その華奢な外見からは想像もつかない動きを見せる。

口数が多い方では無いし、口を開けば端的な物言いという彼女は、しかし慣れれば人懐っこい面も持ち合わせていた。

今では村にも慣れ、よく笑うようにもなった。

 

「物は考え様よ?ラニッツ。不思議な現象を解明するために、ちょっとだけ、ね?」

 

完全に悪だくみの表情を見せるエコニィに追い詰められているのは、妖怪の一種でアスラーンという種族のラニッツだ。

細い目を更に細め、冷や汗を浮かべながら後ずさっている。

 

「さぁ!私の犬になりなさい!」

 

「わ、ワンワン!」

 

今まで二本足で立っていたラニッツが突然その両手を地面につけ、手と膝でバタバタと地面を蹴ってエコニィの足元へすり寄ってきた。

 

「くぅ~ん」

 

ラニッツはエコニィのふくらはぎあたりに頬を擦りつけ、そしてぺろぺろと舐め始めた。

 

「ちょ、ラニッツ!こら!待っ・・・」

 

しかしラニッツは止まらない。

これが本当に犬であれば微笑ましい光景であるが、しかし実際の図は違った。

小柄な女性に対して長身の妖怪がすり寄り脚を舐め、今は覆い被さろうとしている。

確実に事件の匂いがする。

 

「やりすぎだアホウ!」

 

エコニィは今まさに自分の首筋に舌を這わせようとしたラニッツを殴り飛ばした。

肩で息をしながら、ちょっと本気で怖かったエコニィは涙目である。

 

「正気にもどれッ!」

 

エコニィの叫び声とともに、ラニッツはスッと立ち上がった。

そして頬を抑えて、泣いた。

声を殺して、泣いた。

 

「私はこんなキャラじゃない・・・ぐすん」

 

しかしこの不幸な実験で分かったこともある。

女性からの命令は絶対であり、男性は決して逆らうことはできない。

命令の内容について認識の齟齬があれば、それを実行する男性側の認識が優先される。

つまり、単純に「行け」という命令を受けた場合に、女性側が例え「走って行く」というイメージを持って命令したとしても、男性側が「歩いて行く」とイメージしていた場合、行動は「歩いて行く」ことになる。

想像と違う行動があった場合はさらに命令を追加して軌道修正せねばならないようだ。

そして、命令を実行中の記憶は、完了後にも残る。

実行中はその命令を喜んで進んで自ら臨んだかのような心境になる。

しかし完了後には、自分が行った全ての記憶を有したまま、その「主体性」だけがきれいさっぱり消え去り、後に残るのは「やらされた感」である。

この精神的ダメージは計り知れない。

 

 

ここは村長であるエウスオーファンの屋敷。

エウスは自分の書斎で読書をしていた。

そしてふと、顔を上げる。

 

「おや?こんな時間に珍しいね。どうしたんだいアウレイス」

 

書斎の扉の向こうに声を掛けた。

すると、廊下から弱々しい声が返ってくる。

 

「夜分に失礼致します。あの、入ってもよろしいでしょうか?」

 

アウレイスの言葉に対する返事は無く、代わりに扉が開かれた。

エウスが内側から開けてくれたようだ。

 

「すみません・・・」

 

アウレイスの態度と煮え切らないニオイで、エウスは何か頼みごとがあって来たのだろうと踏んだ。

しかし、アウレイスはなかなか本題を切り出さない。

当たり障りの無い世間話をぽつりぽつりと交わすだけだ。

手のかかる子だ、と内心で苦笑したエウスは、背中を押してやることにした。

 

「私はそろそろ休もうと思うが、まだ何かあるかね?」

 

「あ、あの、その・・・いえ、おやすみなさい・・・」

 

「アウレイス」

 

言いたくて言えなかった言葉をついに言わないまま去ろうとしたアウレイスに、エウスは呼びかけた。

それは単に名前を読んだだけの、ごく普通のことだった。

しかしたったそれだけの言葉に、厳しさと優しさ、心配と寛容が込められていた。

アウレイスは意を決して願い出た。

 

「あの、エウス様、私・・・私・・・アンティノメルに行きたい・・・です」

 

「それは許可できんな」

 

精一杯の勇気を込めてようやく言えた希望は、一瞬にして蹴散らされた。

エウスはじっとアウレイスの目を見て、静かに続ける。

 

「アウレイス、いいかい。今の状態では、いざという時に自分の身を守ることも難しいことは、分かるな?」

 

「・・・はい」

 

「そんな娘を、危険が伴う航海へ出せると思うかい?」

 

「・・・でも・・・ソラ様に・・・」

 

「だめだ」

 

「私・・・どうしても・・・」

 

「諦めなさい」

 

「わ、私をアンティノメルに遣わせてくださいッ!お願いします!」

 

「分かった。すぐに手配しよう」

 

「え?」

 

そこからの展開は早かった。

翌朝にはすでに船の手配が完了しており、エウスからの正式な書簡も準備されていた。

これからアウレイスは正規の使節として、再びアンティノメルに向かうのだ。

エイアズ ハイ川を下り海へ向かう船を見送る人影がふたつ。

妖怪の一種、サターニアの老人ダクタスと、エウスオーファンだった。

 

「まさかエウス村長まで、例の“女の命令”にやられちまうとはのぉ・・・」

 

「なんのことだ?」

 

現在、村では男たちが女性の言いなり状態という異変が起きている。

ダクタスはそれを指して言ったのだが、どうもエウスには通じていないようだ。

 

「なにやら村が騒がしいようだが、そんなに重大な問題なのかな?」

 

確かに騒ぎの匂いは感じていたが、そこまで深刻な香りでも無かったので報告があるまで放っておくつもりだったエウス。

その返答にダクタスは驚いた。

 

「では、アウレイスを行かせたのは、命令されたからでは無い、と?」

 

「ああ。アウレイスがはっきりと自分の意志で強く希望するなら、元より許可するつもりだったよ」

 

「なんと・・・しかし一人で行かせるのはまだ早くはないですかな?」

 

「心配には及ばんよ。それなりの準備はしてある。それより村の状況を教えてくれ。女の命令とは一体どういうことだ?」

 

これよりエウスは、謎の異変の対応に追われることとなった。

 

 

さて、洋上のアウレイスは少しだけ後悔していた。

日に日に募る「ソラ様に逢いたい」という気持ちだけで飛び出して来てしまったが、現実的に考えてみるとまず、「逢ってどうする?」という重大な問題が立ちはだかった。

何も考えていなかった。

もし今この状況で、仮にソラに対面したらどうなるか。

きっと固まってしまい何も言えず、結果ソラを困らせるだけだろう。

甲板に出て海を見詰める。

潮風を受けて長い銀髪がキラキラとなびくが、しかし悩みは吹き飛ばなかった。

 

「うぅ~・・・どうしよおぉぉ~・・・」

 

頭を抱えてもアイデアは浮かばない。

と、船室側に背を向けてうずくまっているアウレイスは気付かないが、音も立てずに忍びよる人影があった。

その人物は無音、無気配でアウレイスのすぐ後ろに迫る。

両手の指10本を、まるで蜘蛛の足のようにぐねぐねと動かしながら近付き、そしてアウレイスの細い腰に、思い切り指を這わせた。

 

「ぅひゃああああーーッ!!!」

 

普段の彼女からは想像もできないような叫び声があがる。

しかしそれでも指は離れず、わしゃわしゃと刺激を続ける。

 

「あひゃひゃひゃッちょ、やめ、ひっ・・・ひゃははは!」

 

「相変わらず可愛いねぇーアウリィ!」

 

突然始まったくすぐり地獄からようやく解放されたアウレイスが見たのは、同期のエスヒナだった。

「同期」と言うのは、同じくらいの時期にタミューサ村に来たという意味で、村では頻繁に使われる言葉だった。

村人歴の長短によって待遇などに差があるわけではないが、やはり入村時期が近いというのは仲良くなるための敷居が低くなる要素ではある。

エスヒナは村の中でもアウレイスのことを特に気に入っており、隙あらば物理的接触を敢行する。

肌が白いアルビダのアウレイスとは対照的に、エスヒナは褐色の肌を持つサムサールという種族だ。

サムサールもアルビダと同じく妖怪の一種だが、特徴として額に第三の瞳を持っている。

サムサールは生まれつき「ある感情」が欠落しており、その感情が第三の瞳に宿っているのだそうだ。

感情の種類には個体差があり、ある者は怒り、ある者は哀しみといった具合だ。

そして、サムサールの第三の瞳と目を合わせてしまった者は、瞳に宿っている感情を強制的に強いられることになる。

つまり悲しみを宿したサムサールの第三の瞳と目を合わせてしまうと、理由も無く無性に悲しくなってしまうのだ。

この恐ろしい能力がやたらと発動してしまうと危険であるため、エスヒナは額に眼帯をして第三の瞳を隠している。

これは彼女が村に来てからずっとだ。

エウス村長の指示で、何があっても外してはいけないと言われている。

だから村人たちも、もちろんアウレイスも、エスヒナの第三の瞳にどんな感情が宿っているのか、知らないのだ。

ただ、瞳に宿した感情は本人から欠落しているはずなので、長く一緒に居ればだいたい察しが付きそうなものではあるのだが。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・エ、エスヒナ!?なんであなたがここに!?」

 

ようやく呼吸を整えたアウレイスが尋ねる。

イヒヒ、と意地悪く笑うエスヒナ。

その口から語られたのは驚くべき内容だった。

 

「5日ほど前だったかな、エウス村長から、村に帰って来いって連絡があったの」

 

エスヒナは未開拓エリアの調査団に加わり、タミューサ村の居住区域を広げるための活動を行っていた。

そこにエウス村長からの書簡が届いたのだそうだ。

 

「そろそろアウリィが旅立ちそうだから、フォローしてやってくれってさ」

 

ちなみにアウレイスの事をアウリィと愛称で呼ぶのはエスヒナだけである。

彼女は出逢ってすぐにアウレイスを気に入り、何かに付けて引っ込み思案なアウレイスを引っ張ってきた。

内向的な根本の性格はなかなか直らないが、しかしアウレイスがここまで村に馴染めたのはエスヒナの活躍が大きいのだった。

エウスもその辺りを考慮した上で、今回の件にエスヒナを寄越してくれたのだろう。

 

「エウス様・・・あなたはどこまで・・・ぐすん」

 

感動で目を潤ませ、小さくなっていくキスビット大陸に向かって深々とお辞儀をするアウレイス。

 

「で、アウリィの愛しの君ってどんなヒトなの~?」

 

敢えてなのか、空気を読まないエスヒナの質問に、アウレイスは耳まで赤くなった。

えっと、あの、その、だけを繰り返す。

俯いて自分のつま先を見ながら、スカートをもじもじと弄っている。

 

「まぁみんなから聞いてるし、だいたい知ってるケドね~。で、逢ってどうすんの?」

 

質問という形状の言葉製ナイフがアウレイスの胸を突き刺した。

そうだ、さっきまでそれで悩んでいたのだ。

さっきとは別のもじもじが始まった。

エスヒナにとってはもう慣れたものなのか、アウレイスのはっきりしない態度にも特にイライラしたりはしないようだった。

そして。

 

「可愛いアウリィのために、名案があるんだけどねぇ。聞きたい?」

 

完全に企み顔のエスヒナにすがりつくアウレイス。

果たしてどんな運命が待ち受けるのか。

航海だけは前途洋洋、風にも天候にも恵まれて、船はひた進む。

アンティノメルへ。