『かなり』

干支に入れてよ猫

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【後】それぞれの入国

あけましておめでとうございます、坂津です。

この記事は『Parallel Factor Cultivate Server パラレルファクター・カルティベイトサーバー』略して【PFCS】関連の記事です。

pfcs.hatenadiary.jp

皆様のキャラクターをお借りしております。

我が国『キスビット』へ続々と集結しつつあります。

これらの続きとなっております。

【上】それぞれのプロローグ - 『かなり』

【中】それぞれのプロローグ - 『かなり』

【下】それぞれのプロローグ - 『かなり』

【前】それぞれの入国 - 『かなり』

キャラクターをお貸し頂いた皆様、本当にありがとうございます。

所属国種族性別名前職業創造主
ドレスタニア(近海) 女性 紫電 海賊 長田克樹 (id:nagatakatsuki)
ドレスタニア 人間 女性 メリッサ 国王付きの使用人 長田克樹 (id:nagatakatsuki)
チュリグ アルビダ 無性 ハサマ 国王 ハヅキクトゥルフ初心者
奏山県(ワコク) 人間 男性 町田 会社員 ねずじょうじ(id:nezuzyouzi)
奏山県(ワコク) 人間 女性 アスミ ピアニスト ねずじょうじ(id:nezuzyouzi)
コードティラル神聖王国 人間 男性 クォル・ラ・ディマ 自警団団長 らん (id:yourin_chi)
コードティラル神聖王国 人間 女性 ラミリア・パ・ドゥ 格闘家 らん (id:yourin_chi)
ライスランド 精霊 男性 カウンチュド 射手 お米ヤロー (id:yaki295han)
メユネッズ 精霊 男性 ダン 夢追い人 たなかあきら (id:t-akr125)
カルマポリス アルビダ 女性 ルビネル 学生 フール (id:TheFool199485)

今回は紫電さん、ハサマ王、クォルさん、ラミリアさん、ダン殿の5名が登場となります。

 

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

■秘密の夢

 

「くっ・・・なんという膂力・・・」

 

早く、かつ重い一撃を辛うじて防ぐことができたダンは、しかし数メートルも後ろに吹き飛ばされた。

だがバランスを崩すこと無く着地すると同時に、その切っ先を相手の目に向けて中段に構えた。

一分の隙も無い正眼の構えである。

 

「これで分かったか?オレは稲妻の女頭領、鬼の紫電だ!」

 

ダンに向けられた剣を、その覇気だけで叩き折ろうとでもするかのような気迫で、紫電は名乗りを上げた。

 

「それは先ほども聞いた。しかしそなたの夢が甘いラブロマ・・・」

 

ダンの言葉は紫電の猛攻によって遮られる。

手当たり次第に近場の物を投げている、と言った方が正しいかもしれない。

さすがに鬼だけあって、普通の人間では持ち上げることはおろか動かすことも困難な巨岩すらポイポイ投擲してくる。

 

「それを!言うんじゃ!ねぇ!この!この!」

 

その攻撃は精彩を欠き、ダンは容易に飛来物を避けている。

だが狙いが定まっていないというだけで、その威力は致命傷に足る凄まじさであり、簡単には近付くことができない。

 

なぜこの二人が戦っているのか?

 

ここはキスビット領海内にある小島だ。

支配エリアとしては、キスビット国内で第三の規模を誇る都市、ジネの勢力圏となる。

ジネは種族差別による階級制が敷かれており、鬼を頂点とする差別のピラミッドが存在する。

最下層に位置するのは妖怪の一種、アルビダであり、彼らは奴隷としてその生殺与奪の権を鬼たちに握られている。

ジネに住む鬼たちにとって、同族であることは即ち仲間、家族であり、どんな協力も惜しまないという性質がある。

しかし逆に、他種族に対する冷酷さ、残忍さは異常であり、心の底から「動物も虫もアルビダも同等」という文化を作り上げている。

ちなみに、人間に対しては害虫扱いである。

ジネの勢力圏内であれば、視界に入った人間をその場ですぐに叩き潰すことが許されている。

ジネのマーケットを歩けば、人間殴殺用の棍棒や、アルビダをペットとして扱う時用の首輪とリード、躾け用の鞭など、およそ道徳とは無縁の商品群を見ることができる。

 

そんなジネの小島であるここには、鬼たちの別荘が立ち並んでいた。

今はシーズンオフなのか、利用者は見られず無人の屋敷が寂しく主人を待っている状態である。

紫電たち海賊団はこれ幸いと、各種調味料を拝借しつつ調理場を勝手に使用していたのだ。

キスビットへの上陸を目前に、久々に釣れた大物で晩餐をするためだ。

元々が立派な体躯の持ち主が多い鬼である。

屋敷の作りも調度品も、やはり鬼にとって使いやすいようにできている。

紫電たちにとってはこれも好都合だった。

 

「ん?今何か聞こえなかったか?」

 

紫電は部下である忌刃に訊くが、首を横に振られた。

 

「何も聞こえやせんでしたが、何人か外を見に行かせましょうか?」

 

恐らく普通の人間の家であればその頭が天井に着いてしまうような巨体を紫電に向け、忌刃は答える。

 

「いや、構わねぇ。散歩がてらオレが見てこよう。美味いの期待してるぜ」

 

そう言うと紫電は屋敷を出て、裏手にある森の方へ入って行った。

確かに、悲鳴のような声と枝が折れるような音が聞こえた気がしたが。

かと言って方角も分からず確証も無い。

当ても無くブラブラと歩いていると、ふいに声を掛けられた。

 

「乙女チックな甘酸っぱい夢の気配を辿ってみれば、なんと鬼の・・・」

 

声は、唸りを上げて空を切る拳によって中断を余儀なくされた。

眼前でぴたりと止まった拳に、瞬き一つしない声の主。

 

「てめぇ、何者だ?」

 

完全に当てるつもりで放った拳をミリ単位の見切りでかわされたことに若干の驚きを覚えつつ、それを少しも感じさせない迫力で問う紫電

 

「私はメユネッズのダン。夢を追って来た」

 

「夢を追って、だぁ?」

 

ダンは手短に説明した。

まず第一に、敵意は無いこと。

第二に、自分には人の夢を探知できる能力があり、それがどんな夢なのかの判別もできること。

第三に、キスビットという国にとても大きな夢を持った人物が居ると聞き、会いたいと思って旅をしていること。

そして第四に、紫電の夢について。

 

「先を急ごうと思ったのだが、あまりにも甘美で純真で幻想的な夢の香りがしてな。こんな無人の離れ小島にどんなお姫様が居るのかと、興味本位で探っていたのだ」

 

紫電の顔がボッと赤くなる。

 

「な、何、何言ってやがる!オ、オレのゆ、夢は、か、か、海賊王・・・」

 

「白馬に乗ったイケメンで素敵な年下の王子様と結k・・・」

 

ダンの言葉はまたも遮られた。

紫電の横にあった巨木の倒壊によって。

 

「てめぇ・・・その能力、厄介だぜ・・・」

(ヤバイヤバイヤバイ知られた知られた知られた・・・)

 

誰にも言ったことがないハズだった。

毎日書いている日記も、誰にも見られたことなど無いはずだ。

とすれば、本当に自分の夢が読まれたということになる。

 

「オレは海賊団の頭、紫電だ!そんな女々しい夢なんて持ってるわけ無ぇだろーがッ!!」

 

そう叫ぶと、紫電は倒れた巨木を掴み、物凄い力で横一線に薙いだ。

ダンは後方に飛んでひらりとかわす。

 

「そのように荒々しくしているとせっかくの素晴らしい夢が叶わn・・・」

 

どうやら会話をする余裕は無さそうだ。

幼子以外で、こんなにも純粋で美しい夢を持つ者を、ダンは久しぶりに見た。

長年夢に携わる者の勘が、この夢は叶いそうだと告げる。

となれば反撃するわけにもいかない。

ダンは逃げの一手となった。

 

そして冒頭のやりとりである。

紫電が攻撃し、ダンは避け、戦いの場所はどんどん移動していく。

 

「・・・ガハッ・・・ゴホ、ゴホ・・・」

 

紫電でもダンでもない声がした。

二人は動きを止め、声の方向に視線をうつす。

そこには、見るからに重症の鬼が倒れていた。

倒れている場所から真上にあたる木々の枝が折れているので、上空から落ちてきたことが窺える。

ダンの視線を受け、紫電も休戦を飲んだ。

 

「どうした?何があった?」

 

同種族である紫電が倒れた鬼に話しかける。

口元には吐血が見られ、荒い呼吸に雑音が混じっている。

折れた骨が肺に刺さっているかもしれない。

容体の確認をするため、服を脱がせようとして紫電は気がついた。

 

「この服の模様・・・タミューサ村の者か?」

 

出血でマダラになっていてすぐには分からなかったが、確かにタミューサ村の正装らしかった。

実は近いうちにタミューサ村に潜入する計画のある紫電は、この衣装を船に手配しておいたのだ。

間違いなく見覚えがある。

 

「タミューサ村・・・もしやエウスオーファン村長の?」

 

ダンも口を開く。

聞いた噂によれば、キスビットの村長、エウスオーファンなる人物こそ、ダンが目指す人物なのだった。

 

「ひどいな・・・」

「この程度か」

 

二人の声はタイミングだけバッチリと合っていたが、その内容は正反対だった。

ダンの経験からすればこの傷は、よほどの名医の手による処置と本人の回復力、そして強運が無ければ命が危ういという見立てだった。

一方、紫電から見れば、確かにしばらくの安静は必要だが、長くて7日程度で日常生活に復帰できるレベルであった。

鬼族は単に腕力が強いだけでは無く、生命力も桁外れなのだ。

しかし、今現在が重症であるという事実は変わらない。

紫電はこの鬼を屋敷へ運ぶことにした。

ダンへ、夢の内容の絶対秘密を確約させて。 

 

 

■少女の決意

 

クォルとラミリアは洞窟を出た。

カミューネは洞窟内を案内するために握っていた二人の手を離し、先導して歩く。

ラミリアはクォルに視線を送る。

クォルもそれを受け、僅かに頷く。

 

「もう少しで、ご主人様のお屋敷が見えてきます・・・」

 

カミューネが消え入りそうなか細い声で伝えた。

 

カミューネちゃんさぁ、大丈夫?」

 

クォルがさらりと言った。

カミューネはビクッと体をすくませ、立ち止った。

その様子を黙って見詰めるラミリア。

 

「な、何のことですか?だ、大丈夫ですよ?私・・・」

 

「あーあー、何も言わなくて良いから。こっちだよね。行こう?」

 

泣きそうな顔のカミューネに、今度はラミリアが明るく言った。

カミューネの華奢な肩を抱き、歩を進める。

 

「ラミ、ずっりーの!俺様だってカミューネちゃんを、こう、ぎゅーって・・・」

 

クォルは誰も居ない空間にエア抱擁をして見せた。

さらに目を閉じ唇を尖らせる。

しかし歩きながら目を閉じたのは良くなかった。

すぐ木にぶつかり、顔面を押さえてうずくまるクォル。

 

「いってててて・・・ツイてないぜ~(泣)」

 

その姿に、カミューネが纏っていた緊張の空気が少しだけ和らいだ。

若干ではあるが緩んだ表情を見止めたクォルは、ニカッと笑って言う。

 

「やっぱカミューネちゃんは笑った方が可愛いって。ホラこーやって」

 

おどけた調子のクォルに返ってきたのは、カミューネの笑顔ではなくラミリアの言葉だった。

 

「そんな馬鹿みたいな顔するわけないでしょ。無視して良いよカミューネちゃん」

 

なんだと、なによ、という定番のやりとりが始まる。

その光景を見て、カミューネは意を決したように二人に言った。

 

「クォルさん、ラミリアさん、ごめんなさい!戻りましょう!」

 

カミューネがそう言うのと同時に、進んでいた道の向こうから怒鳴り声が聞こえた。

 

カミューネ!!何してやがるんだッ!!」

 

見ると、大きく屈強な人影が7つ、こちらにのっしのっしと近付いてくる。

カミューネの顔が蒼白になる。

上下の歯がカチカチと音を立てるほど、震えだす。

 

「チンタラしやがって馬鹿野郎!」

「なんだ2匹しか釣れてねーじゃねーか!」

「使えねーなぁ黒いメスガキはよぉ!」

 

現れたのは鬼だった。

手に手に凶器を携えた7人の鬼が、やってきた。

カミューネは震える足を引き摺り、とぼとぼと鬼たちの方へ歩み寄った。

そして、勢いよく両手を広げた。

 

「クォルさん!ラミリアさん!逃げてください!」

 

二人からは背中しか見えないが、カミューネは大粒の涙をこぼしながら精一杯叫んだ。

この少女は、どうやら鬼たちからクォルとラミリアを護るつもりらしい。 

鬼たちは一瞬静止し、そして爆笑し始めた。

 

「おい、お前、何やってんの?ぎゃははは」

「俺たちを止めるつもりか?げらげらげら」

「あーあ、これでお前の兄弟も、オシマイだなぁ」

 

今にも膝から崩れ落ちてしまいそうな恐怖。

自らの足の震えに喝を入れるかのように叫ぶカミューネ。

 

「早く!早く逃げて!」

 

そして顔だけ後ろを振り返り、クォルとラミリアに言った。

 

「ごめんなさい。私、あなたたちを騙してました・・・」

 

その声は二人にも届いているはずである。

しかし。

クォルはゆっくりと歩き、カミューネの頭にポンと手を置いた。

 

「ラミ、カミューネちゃん、任せて良いか?」

 

「助けて欲しくなったら言いなさいね」

 

ラミリアの返答を聞くとクォルは立ち上がり、背中の大剣を抜いた。

カミューネの一歩前に出て、大上段に構える。

鬼たちの笑いが止み、殺気が立ち昇った。

 

「おいおい、冗談も度が過ぎると笑え無ぇぞ、人間」

「なんだその構え、ど素人じゃねぇか」

 

脅しにも嘲笑にも動じないクォル。

じっと構えたまま、動かない。

本来は自分から仕掛け、機動力と勢いと力技で敵を圧倒するスタイルのクォルであるが、今はただ相手の出方を待った。

あまりの怒りで太刀筋が乱れる可能性を自覚したからだ。

落ち着いて冷静さを取り戻す為にも、後の先を選んだ。

 

「興が冷めた。お前、もう死んで良いぜ」

 

一体の鬼がそう言いながら、棍棒を振り下ろした。

唸りを上げて打ち込まれた鉄塊は派手に地面を抉った。

 

「いやああぁぁぁぁーッッッッ!!!!!」

 

カミューネの悲痛な叫びがこだまする。

この場に居る全員が、クォルの死を確信した。

いや、正確にはラミリア以外が。

しかし、クォルは先ほどと変わらず大上段に大剣を構えている。

 

「あれ?こいつ、さっき殴られて・・・え?」

「おいお前、なんでワザと外すんだ?」

 

棍棒で地面を叩いた鬼は仲間に問われるが、それに答えることはない。

おい、と肩を掴まれると、それを合図にゆっくりと倒れた。

肩口から袈裟掛けに切られた上半身のみが、ドスンと地面に落ちる。

 

「なにィィィーッ!!」

「こ、こいつ!!」

「殺れぇぇぇー!!!」

 

三体の鬼が一斉に鉄の塊をクォルに向かって打ち込んだ。

金属同士が激しくぶつかる音が森中に鳴り響く。

しかし、その全ての棍棒を自らの大剣1本で受け止めているクォル。

 

「なんだよ鬼さん。こんなもんか?」

 

言うや否や、剣を押し上げ棍棒を振り払うと、クォルは体を一回転させて真一文字に薙いだ。

三体の鬼はまとめて、その上半身と下半身を分離させられた。

 

「ちょっとクォル!なんでわざわざ受けるのよ!」

 

「避けて斬るより受けて斬った方がカッコイイだろ!?」

 

「かっこつけて怪我したんじゃ、馬鹿みたいよ?」

 

「な!俺様ケガなんかしてねーし!無敵だし!」

 

「右の第一中手骨、左の長橈側手根伸筋、今ので傷めたでしょ?」

 

ぐぬぬ・・・つ、唾付けときゃ治るもんはケガとは呼ばねーんだ!」

 

戦いの最中とは思えないやりとりだった。

カミューネはただただ呆気にとられ、ラミリアとクォルを交互に見る。

と、地面に倒れた4つの上半身が、それぞれ棍棒を振り上げた。

体を真っ二つに斬られてなおこれだけ動ける、凄まじき鬼の生命力。

これはクォルの斬撃が鋭すぎたこともあるのだが。

 

「し、死ねぇー!!」

 

4本の金属製の棍棒が轟音を立てて飛来する。

うち2本をクォルが大剣で打ち落とす。

残りの2本は激しく回転しながら、カミューネとラミリアに向かって来た。

ラミリアは自分に向かって来た1本を右手で優しく払った。

ほんの少しだけ軌道を変えられた棍棒は背後にあった木を砕く。

そしてカミューネに向かって来た1本を、ラミリアは左手で掴み取った。

パシィッ・・・乾いた音が鳴る。

 

「おいラミ!お前だってかっこつけてんじゃねーか!」

 

「はぁ!?そんなわけないでしょ!」

 

「今のは捌くとこだろ?なんでわざわざキャッチすんだよ!」

 

「安全第一の判断よ!」

 

「ははん。今ので左の第二基節骨、ヤったくせに?」

 

「こんなの唾付けときゃ治るわ!」

 

なんという戦闘力の差だろうか。

この鬼たちが戦闘要員で無かったことを差し引いても、もともと鬼族と人間とでは基本スペックが違うと言うのに。

 

「まだ、やんのか?」

 

クォルが残った三体の鬼に言う。

三体は棍棒を放り投げて逃げ出した。

 

「お、覚えてろ!人間風情が調子に乗りやがって!」

「ボスだ、ボスに来てもらうんだ!」

「ジャイサディイ様さえ来てくだされば・・・絶対に後悔させてやるからな!」

 

しかし、鬼たちの逃走はたった数メートルで阻まれることとなった。

逃げようとした先から、歩いてくる者がいる。

見るからに重症そうな鬼を担いだ精霊の男と、海賊装束を纏った鬼の女だった。

 

 

 

■不機嫌な王

 

「おかしいな・・・この辺に落としたと思うんだけど」

 

 少女の様な少年なのか、少年のような少女なのか、中性的な顔立ちのアルビダが一人、森の中を歩いていた。

チュリグのハサマ王である。

しかし、フラッと買い物へ行くようなラフな服装とあどけない容姿からは、とても一国の王であるようには見えない。

 

「もう、メンドクサイな。この島ごと吹き飛ばそうかな」

 

外見もそうだが発言の内容も決して王らしくない。

いや、むしろステレオタイプのいわゆる“王様”を演じないぶん好感が持てると言うべきか。

チュリグの国王側近や国民たちも、このハサマ王が大好きなのだ。

さて、そんなハサマは探し物をしていた。

探し者、と言い変えた方が本来は正しいのだが、ハサマとしては者でも物でもどちらでも変わらない。

この探しモノ、元々キスビットからチュリグへ尋ねてきた使節で、本来はハサマの道案内をせねばならない役どころであるはずの彼は、この島の上空で不運にもハサマの手から離れてしまったのである。

というのも、予想だにしなかった激しい移動方法に驚いて気を失っていた彼は、途中で目を覚ましてしまったのである。

数分前のこと。

 

「あれ・・・?おかしいな・・・風がうまく・・・」

 

ハサマは今まで感じたことの無い違和感を覚えた。

そろそろキスビットも近かろうという空域で突如、風の乱れを感じたのだ。

元々自分で操っている竜巻であるのだから、乱れる訳は無いのだが。

 

「ここ、まさか・・・」

 

普段は滅多に見せない、眉間にしわを寄せた“嫌な顔”をするハサマ。

その声に気絶から意識を取り戻した使節の鬼が、自分の状況に再度驚嘆する。

 

「あ、これはハサマ王。私は一体d・・・ッっうわああああーッ!!!」

 

ここがここでなければ、あるいは落ち行く彼を竜巻で今一度吹き飛ばすこともできた。

しかし、今は自分の落下コントロールが最優先だった。

力が全く使えないわけでは無いが、しかし微細な調整が困難である。

先に落ちた鬼には悪いことをしてしまったが、まぁ大丈夫だろう。

鬼だし。

 

という経緯を経て、今である。

そもそも鬼が好きでは無いにも関わらず同行し、挙句その鬼を探さねばならないという状況はハサマにとって非常にストレスだった。

しかも、ここはどうやら「アレ」である。

さっき風が上手く機能しなかったのは、恐らくそのせいだ。

 

「あーもー、本当にメンドクサイな。あ、これは・・・」

 

派手に枝が折れている木を見付けたハサマ。

見上げれば垂直方向に何本も枝が折れている。

きっとここに落ちたのだろう。

血だまりも見付けた。

 

「歩いた、のかな?やっぱり丈夫だねぇ鬼さんは」

 

頭の後ろで手を組み、血痕を辿って歩くハサマ王はおかしな岩石を発見した。

血痕はこの獣道を真っ直ぐ続いているハズなのに、なぜかその道を塞ぐように巨大な岩が横たわっているのだ。

岩に血が付いてはいないので、あの鬼がこれを乗り越えたとは思えない。

乗り越えるのも迂回するのもメンドクサイと思っていると、なんとその岩が突然動きだした。

 

「ん?貴様、アルビダか!なぜこんなところに!?」

 

岩だと思ったもの、実はそれは巨躯の鬼であった。

その鬼はハサマを見止め、驚きの声を上げたが、すぐに舌舐めずりをした。

 

「貴様、カミューネが釣ってきた獲物か?あれほど人間を釣ってこいと念押ししておいたのに、使えんガキよ。あとでたっぷりと折檻してやらんとなぁ。まぁしかし、この際アルビダでも構わんか」

 

巨大な身体を揺らしながらそう言うと、鬼はその手に握る巨木の幹のような金属製の棍棒を振りまわした。

巻き起る旋風で周囲の小石が転がり、小枝が音を立てて折れる。

ハサマはじっとその様子を見ていた。

そしてボソッと呟いた。

 

「なにその武器、だっさ」

 

この鬼にとって、自分が知るアルビダであれば、この状況に於いてこの態度は有り得ない。

恐れおののき腰を抜かして地面に這いつくばり失禁しながら咽び泣き命乞いをするはずである。

 

「このワシをジャイサディイ様と知らんのか!?」

 

ジャイサディイを名乗ったのは、この名さえ出せばどんな相手だろと、鬼以外の種族であれば皆ひれ伏すと考えたからだ。

事実、彼の住むキスビット第三の都市、ジネであれば通用した戦法だった。

歩く粉砕機と呼ばれ恐れられているジャイサディイは、例えそれが他者の奴隷だとしても容赦無く叩き潰しすり潰し撒き散らした。

ジネという鬼至上主義を敷く都市の中でありながら、同じ鬼からも少々鼻つまみ者であることは否めない。

しかし彼は巨大なアルビダ農場を経営しており、金にモノを言わせて好き放題をやっているのだった。

 

「誰?長いからただのジャイで良い?いや、ジャディの方がカッコイイ?」

 

他国から連れて来られたのなら自分の名を知らないことは当然なのだが、しかしジャイサディイは正気を失うほど怒った。

なぜこのアルビダは、自分の体よりも大きな棍棒が轟音を立てながら鼻先をかすめているにも関わらず、こんなに平然としていられるのか。

 

「家畜のアルビダ風情が!このワシにたてつくとは良い度胸だ!島の肥やしにしてやるぁぁぁぁぁーっっ!!!!」

 

ドガガガガガッッ!!!!!

 

物凄い轟音と共にハサマの目の前の地面が割れる。

同時にジャイサディイの足元の地面が天高く隆起した。

高速で射出される形となったジャイサディイは状況の把握ができない。

突如地面に突き飛ばされた感覚だ。

そして空中で突風を感じた瞬間、全身に鋭い痛みが走る。

特に何をされているわけでもないのにスパスパと体表に大きな裂傷が現れる。

カマイタチ現象だった。

 

「やっぱり、加減ができないな・・・う~ん・・・」

 

今度は胸の前で腕組みをしながら、ハサマは使節の血痕を追って歩き出す。

ジャイサディイの悲鳴は高度が高すぎてもう聞こえない。

それにしても、この何事も無かったかのような表情はどうだ。

目の前の埃を一払いしただけ、と言わんばかりの通常運行

知らぬ者が見ればこのハサマ王こそ、先ほどの巨大な鬼よりもよほど恐怖の対象となり得るだろう。

本人にしても、先ほどのイラつくでっかい鬼より、途中で落としてしまった使節の鬼の方がよほど手を焼く存在であった。

 

「もう。どこに行っちゃったんだよ」

 

と、しばらく道なりに歩いていたハサマは、木々の向こうから聞こえる会話を耳にした。

 

「な、何ださっきの音は!?」

 

「ちょっとクォル!どさくさでカミューネちゃんに抱きつかない!」

 

「ジャイサディイ様だ!きっとジャイサディイ様が来てくれるんだ!」

 

「おいてめぇら!どうでもいいから道開けろ!こっちゃ怪我人を運んでんだぜ!」

 

紫電殿、何か来るぞ!」

 

 

■不揃いな訪問者たち

 

まさか、普通に生きていてこんなことが起こるとは誰にも想像できはしない。

さっきまで自分を照らしていた木漏れ日が突然かげる。

と同時に激しく頭上の木が折れ砕ける音。

巨大な何かが降ってきたのだ。

常人であれば何も気づかないまま圧死、という場面。

瞬時に動いたのは四名だった。

 

「頼めるか?」

 

「任せな」

 

短いやり取りだった。

ダンは担いでいた鬼を地面に降ろし、庇うように覆い被さる。

紫電は地面を強く蹴り、高く跳躍した。

 

「次、俺様の番な」

 

「ずっるー!」

 

こちらも同様だ。

カミューネを抱きかかえてバックステップするラミリア。

クォルは大剣を、野球の打者の様に構えた。

 

「ぅおるぁぁぁぁぁぁーッッッ!!!!」

 

ボゴォォォッッッーッッ!!!

 

紫電は雄叫びとともに、謎の落下物に対して全力の拳をお見舞いした。

そのままであればダンもろとも怪我をしているタミューサ村の鬼に直撃だった。

しかし紫電の攻撃により落下の軌道が変わり、謎の肉塊は斜めに地面に激突した。

そして勢いをそのままに転がり、クォルの目の前に迫る。

 

「いっけぇぇぇぇぇーッッッ!!!!」

 

本来、斬撃が目的で使用される剣は、その対象に刃を向けて振るものである。

しかし今回、クォルがこの塊に叩きつけたのは大剣の面であった。

 

バチィィィィィー!!!

 

鞭で肉を打ったような音が鳴り響き、巨大な塊は動きを止めた。

よく見ると非常にグロテスクな肉塊だった。

血まみれである。

最初にその正体に気がついたのは健在の鬼、三体だった。

 

「ジ、ジャイサディイ・・・様?」

「う、嘘だ・・・嘘だ!」

「何かの間違いだ・・・こんなこと・・・」

 

前から、腕をブンブンと回しながら歩いてくる海賊衣装の女鬼と、怪我人を担いでいる精霊の男。

 

「さすがだな、紫電殿」

 

「あったりめぇよ!オレは紫電様だぜ?」

 

後から、大剣を担いでニヤニヤと笑いながら歩いてくる人間の男と、裏切り者のカミューネの手を引く人間の女。

 

カミューネちゃん見てくれた!?俺様のフルスイング!」

 

「剣が傷むでしょこの馬鹿!」

 

鬼たちは行き場を無くし身を寄せ合うようにしてその場に座り込んだ。

最早、自分たちが勝てる相手では無いことは充分に理解できた。

恐怖が限界に達した一体の鬼が叫ぶ。

 

「お、お、お前ら・・・何者なんだー!!」

 

「ハサマは王様だよー!?」

 

突然目の前の茂みからバサッとアルビダが飛び出してきた。

鬼たちは心臓が口から飛び出るほど驚いたが、しかしその驚きをどうにか飲み込むと、むんずとハサマの首根っこを掴み、持ち上げた。

 

「はーっはっはっはっは!やった!運が向いてきたぜ!」

「おい人間!お前たちはコレに弱いんだよなぁ?人質ってやつだぁ!」

「少しでも動けば、こいつの首をへし折るぞ!」

 

『汚い手で触らないでくれる?』

 

その場に居た全員が耳を疑った。

視界に映るあのあどけないアルビダが、そう言ったように見えたからだ。

しかしその声は明らかに、ハサマと名乗ったあのアルビダのものとは思えなかった。

地獄の底から響く様な、神経に直接触られる様な、魂を握りつぶされる様な、そんな声だった。

 

「まずい!」

「うむ!」

「やべぇ!」

「わぁっ!」

 

一瞬早く反応した紫電とダン、クォルとラミリアは、可能な限り距離を取る行動に出た。

何が起こるか分からない状況だが、とにかく少しでも離れなければという危険信号が頭に鳴り響く。

そしてそれは正解だった。

 

「で、結局みんなキスビットへ向かうってことなの?あらコレ美味し♪」

 

ラミリアは巨大魚のステーキに舌鼓を打ちながら尋ねた。

ここは紫電が勝手に拝借していた屋敷の食堂である。

先ほど、例の鬼たちがハサマ王の逆鱗に触れてしまったせいで、この島は地図に記された姿からその形状を変えてしまった。

平たく言えば、面積が半分になったのだ。

幸いにもこの屋敷の反対側で起こった天変地異は、辛うじて別荘群を破壊すること無く収まった。

その難を逃れ、奇妙な7名が屋敷に戻ったのはすでに夕暮れであった。

紫電、ダン、タミューサ村の使節(重傷者)、クォル、ラミリア、カミューネ、そしてハサマ王。

皆それぞれ入浴を済ませた順に、食堂に集結していく。

 

「私はタミューサ村の村長に会うべく旅をしている。ほぉ、これはこれは」

 

ダンも料理を褒める。

それほどに美味いのだ。

きっとこれを調理したシェフは子供の頃から料理人に成るという夢を持って成長し、その夢を掴んだ者に違いないと思った。

もちろん作ったのは紫電の部下の海賊だが。

 

「それはオレも同じだな。あいつには借りがあるんだ。んぐっんぐっ」

 

厚みのある赤身を頬張り、ラム酒に見せかけた色付きの水で流し込む紫電

豪快な食事とラム酒は海賊として欠かせないパフォーマンスである。

本来はナイフとフォークで小さく切り分けながらきちんと食べたい紫電であったが、海賊としてのプライドがそれを許さない。

 

「ハサマはジネって街を滅ぼせばそれで良いんだけど」

 

ハサマ王だけは、この場に馴染めずに居た。

紫電の海賊団は鬼族で構成されており、この屋敷内の鬼率が異常に高いのだ。

しかしその嫌な気持ちを表情には出さず、薄く微笑んでいる。

 

「ふーッ。あ、ラミ!俺様の分も残しとけよ!」

 

そこに現れたのは、最後に汗を流していたクォルだった。

髪をガシガシと拭きながら、その鍛えられた上半身を露わに食堂に入ってくる。

 

「ちょっとクォル!行儀悪いわよ!服くらい着てきなさいよ!」

 

「そうだー!!無礼者ォォーッ!!!!」

(何コイツ何コイツ何コイツちょっとヤバイヤバイヤバイ・・・)

 

紫電は顔を真っ赤にし、クォルの肉体から目を逸らした。

知らない者には、酔いが回った上に礼を欠く行動に怒ったように見える。

ギリギリセーフだ。

 

「あ、あの・・・ジネには・・・」

 

泣きそうな声で申し出たのはカミューネだった。

彼女は、ぽつりぽつりと話し始めた。

自分がジャイサディイの屋敷で、中級奴隷として仕えていたこと。

ジャイサディイの暴虐はジネの中でも少々問題視されており、本土での遊戯を控え、この島でのマンハント(人間狩り)を楽しんでいたこと。

その狩りのための獲物をこの島に誘い込むことが、自分の役目だったこと。

全く光の届かない真闇から真闇への空間移動が、自分の能力であること。

そしてジネに、兄のマキシが囚われていること。

 

「マキシ兄さんが・・・ジネに・・・」

 

瞳いっぱいに涙を溜めたサターニアの少女に見詰められ、ハサマは気勢をそがれた。

確かに、街ごと消してしまっては隷属を強いられているアルビダ達の解放もままならない。

しかも今は、能力の調整ができないのだ。

全力を出す分には問題無いだろうが、それでは失うべきではない命が失われてしまう。

 

「なるほど。聞きしに勝る酷い状況のようだな、キスビットという国は」

 

ダンが漏らす。

しかしだからこそ、そんな国を根底から作り変えようとする男に興味がある。

その彼の夢を少しずつでも斬り分け、皆に分配できれば・・・。

人々は立ち上がり、決起し、改革は成るかもしれない。

 

「皆に提案だが・・・」

 

ダンの考えはこうだ。

ハサマ王ならば確かに、街ひとつ消すくらいの力はあるだろうことは身を以って実感した。

しかしそれを実行するにはまず、助けるべき存在を助け出してからにせねばならない。

タミューサ村にはそれを目論むエウスオーファン村長が居る。

まずはタミューサ村に集い、人手を集めて蜂起し、隷属の民を救出したのちにハサマ王の力を借りようというのだ。

 

「それで良いよ」

 

ハサマは即答で快諾した。

確かにそれならアルビダ達を助けることができそうだ。

 

「もちろん俺様も行くぜ。カミューネちゃんのお兄様にゴアイサツせねば」

 

「じゃあ私も行かなきゃね。クォルを見張んなきゃ」

 

これで方向性が決まった。

ラム酒色の水が入った、小さな酒樽型のコップをスッと掲げる紫電

そのまま勢い良く机にガンッと置く。

皆の視線が集まった。

 

「よし!じゃあ決まりだな!足は俺らに任せな!オイ、次はいつだ?」

 

紫電が尋ねると、忌刃がすぐに答える。

 

「明日の朝、ここの沖をワコク⇒キスビット間の直行便が通りやす。姐御たちはそいつに潜り込んでください」

 

忌刃が言うには、まず海賊船で直行便に横付けし、全員で乗り込む。

そのまま船を奪い取り、操舵を紫電が受け持つ。

忌刃たちは海賊船に戻り、直行便が到着する予定のエイ マヨーカの港でひと暴れする。

その隙に紫電は直行便でエイアズ ハイ川を遡上し、タミューサ村を目指す。

民間船であれば王都エイ マヨーカ内を縦断するエイアズ ハイ川を航行していても怪しまれないだろうという策だった。

 

かくして、タミューサ村への訪問者たちは明日の決行を待つのだった。