『かなり』

干支に入れてよ猫

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【特別企画】「なつやすみの宿題 納涼合宿」

どうも、気付いたら7月が終わっていたというアヤマチで、7月のお題の「海」に乗れなかった悲劇を繰り返してはなるまいと決意して書いた坂津です。

今回も少し怖い話になっていますので、苦手な方は引き返してくださいね。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 

『怖い体験談』

 

これは私が大学生の頃の話です。

夏休み、友人の実家がある高知県芸西村(げいせいむら)に行きました。

その友人宅には総勢17匹の猫が居るということで、それは是非とも拝みに行きたいとお願いし、ようやく実現した訪問でした。

家は平屋の日本家屋で、古い印象はあるものの大きく立派な造りでした。

初日の夜、たくさんの猫たちと触れ合いじゃれ合い、美味しい晩御飯をごちそうになり、美味しいお酒で酔っ払い、天にも昇るような気持ちで寝ました。

翌朝、興奮冷めやらぬからなのか何なのか、やけに早く目が覚めました。 

友人宅は10分ほど歩けば海に出られるような場所でしたので、まだ薄暗い夜明け前の海でも見に行こうと、散歩出ることにしました。

途中で線路を横断せねばならず、踏切がある場所まで横移動するのが面倒でした。

そんなに頻繁に列車が来るわけでもありませんし、こんな暗い中で列車が近づいていれば嫌でもすぐに分かります。

いけないことだとは思いつつ、私は踏切の無い線路を横断しました。

さすがは太平洋、特に時化ていることもないのですが、波が防波堤に打ち付け、飛沫が舞っていました。

竿を持ってくるべきだった、と少し後悔しましたが、友人宅に泊めてもらっている身分で勝手に予定を変更して釣りなどと言えるはずもなく、これ以上欲求が大きくならないうちに海から離れようと友人宅へと回れ右をしました。

今日は高知市内で買い物という予定でしたから。

来た道を戻るとやがて線路に当たります。

また敷き石を登って線路を越えて行こうと足を石に掛けました。

ふと、視界の端で動くものがあり、無意識に焦点を合わせてしまいました。

子供です。

見ない方が良い種類の、子供でした。

私は気付かない振りをして、真っ直ぐ線路を横断しようとしました。

視線を向けていないので詳しくは分かりませんが、両手でゴソゴソと何かを探しているような動きをしていました。

これは私の認識というか解釈と言うか、もし見えてしまったとき、こちらが相手に気付いたことがバレてはいけない、という考えがあります。

普通に霊感や霊能力がある方には否定されてしまうかもしれませんが。

例えばもし、私が川で溺れていたとして、川岸に誰も居なければ自分でどうにかするしかありません。

しかし川岸に誰か居たら話は別です。

きっと気付いて欲しくて声を上げたりするでしょう。

でもその人に自分の存在に気付いてもらえなかったら、諦めると思うんです。

逆に、川岸の人と目が合った、明らかにこちらに気付いている、という状態なのに助けてくれない、となると話が変わってくると思いませんか?

きっと「なぜ?」「どうして助けてくれないの?」という気持ちが、怒りや恨みに変わるのにそんなに時間はかからないと思います。

これが、私が気付かないふりをする理由です。

私には何の能力もありません。

どうしてあげることもできないのです。

「気付いてくれた」という希望を持たせないことが、私にとってただひとつの出来ることなのだと思っています。

その子供は、上半身だけでした。

そちらを向いた訳では無いので定かではありませんが、血や内臓といったスプラッタな状況ではなさそうでした。

とにかく普通に、無表情に、何事も無いように、この線路を渡ることが最優先です。

でも、無理でした。

私から見て右側4~5メートルのあたりに居た子供はこちらに背を向けるようにして手をバタバタ動かしていました。

急に方向転換するのもおかしいので、私は元々通るつもりだったコースを変えずに線路を渡ろうとしました。

そのコース上に、発見してしまったのです。

恐らくは、その子供の、足を。

左足だけでした。

太腿あたりから下で、靴は無く、白い靴下を履いていました。

このままの歩幅でいけば蹴飛ばしてしまう位置でした。

一瞬の間でしたが、とても色々なことを考えました。

ちょっとコースを変えるか、引き返すか、私の足があの足に触れるとどうなるんだろうか、透けて重なるのか、実際に蹴飛ばすことになるのか・・・

歩調を変えない以上、一瞬後には必ず落ちている足との交差は訪れます。

そして私は、その足を跨いでしまいました。

明らかに普通の歩き方ではなくなってしまいました。

バイな、と思いながら、跨いだあとは早足になりました。

でも本当にヤバかったのはこの後だったのです。

私の歩き方が変わったことは、その子供にとっては大したことでは無かったのでしょう。

私の歩き方が変わったことを最も気にしていたのは私自身でした。

そのせいで、もしこれを子供に気付かれていたとしたら、という思いを抑えることができず、私はチラッと子供の方を見てしまいました。

さっきまで背を向けていたはずの子供と、目が合いました。

ただしこちらを向いている訳ではありません。

頭をこちら側にして、仰向けになった状態で上目使いにこちらを見ていました。

マズイ。

完全に目と目が合っている状態です。

子供はとても真面目な、真剣な顔つきで、突然動き出しました。

背泳ぎのような動きです。

左右の手が交互に地面を叩き、上半身だけの体をガクガク揺らしながらものすごいスピードでこちらに近づいてきます。

逆さまの顔はまっすぐに私を見ています。

これは、詰んだかも。

そう思いました。

なにせ体が動かないのです。

恐らくは視線が合ったときから、私は一歩たりとも動けない状態でした。

あまりの恐怖は体を硬直させるのでしょうか。

刹那の後にはその子供が激突してくる。

そんなタイミングでした。

「ギシャーッ!!!」

謎の叫び声で体の硬直が解け、私は少し高くなっている敷石の坂を転げ落ちました。

その直後、轟音を響かせて私の目の前を列車が過ぎていきます。

間一髪でした。

警笛は鳴っていなかったと思います。

その代わりに鳴いてくれたのは、猫でした。

友人宅の猫勢の一匹でしょうか。

猫が鳴いてくれたおかげで私は動けるようになり、惨事を回避することができました。

その猫はまだ毛を逆立てて背を丸く持ち上げ、低く唸っています。

列車が通過した後の線路には、子供が居ました。

両手で左足を持っていました。

私や猫の方を見ている様子はありません。

もしかしたら、さっきの行動も私に向かってきていたのではなく、自分の足を見付けただけだったのかもしれません。

目が合っていると思ったのも、私の自意識過剰でしょうか。

ともかく一難去り、私は猫にお礼を言って抱きかかえて帰ろうと思いました。

威嚇中に後ろから抱かれ驚いた猫は、シャッと鳴きながら私の腕を引っ掻き、走り去っていきました。

列車に轢かれることを思えばどうということは無い引っかき傷を見て、線路に視線を戻すと、もうそこにはあの子供は居ませんでした。

気付けば空は明るくなっていました。

友人宅に戻ると、朝食の準備をしているお母さんが出迎えてくれました。

靴が無かったので散歩だろうと思っていたとのことです。

ただ、もう少し帰りが遅かったら探しに出ようと思っていた、とも言われました。

勝手に外出して心配させてしまったことを詫びると、そういう意味では無いニュアンスの答えが返ってきました。

踏切の無い線路を渡ってはいけない、という注意をするのを忘れていた、ということでした。

少し、ゾッとしました。

しかしせっかくこの話題が出たのですから、掘り下げるチャンスだとも思いました。

私はさり気なく「過去に列車事故でもあったのですか?」と聞いてみた。

もしかしたら子供が轢かれたという話が聞けるかもしれないと思ったのです。

しかしお母さんから返ってきた話は意外なものでした。

過去にあの線路で事故が起きたことなど、一度も無いというのです。

ただ、一歩間違えると危険だった、という事案がたくさんあったそうです。

ある人は線路の間に札束が落ちているように見えて拾いに行き、そこへ列車が近づいてきたので咄嗟に身をかわし、再度お金を探すとそんなものはどこにも無かったとのこと。

またある人は線路にうずくまるお婆さんが居たので助けようと思い近づくと急に列車が目の前を通過し、目を覆う惨事を予想して薄目を開けるとお婆さんはどこにも居なくなっていたとか。

とにかく同じ圏内でたくさんの人が「何らかの要因で線路に入り、列車が通って轢かれそうになる」という経験をしているのだそうです。

詳細を省きながら、実はついさっき私も同様の経験をしたこと告げると、お母さんは少し真剣な表情になりました。

そしてテレビの電源を入れます。

ニュース番組が始まり、5時55分を告げるアナウンスが入ります。

どうせ後で気付くだろうから教えといてあげるわねと、お母さんは前置きし、あの路線の始発が6時過ぎであることを告げました。

続けて、今まで同様の経験をした人たちは特に何もなく元気でご存命であることを念押ししてくれたお母さんの配慮が有り難かったです。

この話を友人にすると、その助けてくれた猫がこの部屋にいるかどうか見てみろと言われました。

確かに、ちゃんとお礼を言った方が良いかもしれません。

しかし見当たらないのです。

割と体格のしっかりした黒猫で、左右の耳の先だけが少し白くなっている猫です。

その容姿を伝えると友人は机の引き出しから写真を取り出し、差し出しました。

そこにはその猫が写っていました。

オロシという名前の猫だそうです。

大根おろしに醤油をかけたとき、どんどん醤油色に染まっていく大根の、最後の白い部分を彷彿とさせる耳の色が由来だそうです。

あまり懐かなかった、と友人は言いました。

そして、今年の春に死んだと続けました。

なんだか不思議なことが立て続けに起き過ぎて消化しきれませんでしたが、少し友人が寂しそうだったので、オロシは元気だったよと言って腕の引っかき傷を見せました。

もう20年くらい昔の話ですから、その腕の傷も残っていませんし、今はその友人に連絡を取ることも無くなっています。

実際に起きたことをなるべく脚色せずに、時系列もそのままに記述しようと努力しましたが、現象の原因やすっきりする解答が無くて困りました。

ただ実際に経験する不思議な出来事のほとんどは、その理由や仕組みが解明できず謎のままであることが多いのも事実です。

無理に理由をこじつけるのも無粋な気もします。

謎は謎なまま、不思議は不思議なままで、置いておきたいと思います。

今でもたまに耳の先が白い黒猫を見かけると、もしかしてオロシかなと、思ってしまいます。

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~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

私の人格が形成されるのに重要な影響を与えていることが否定できない高校時代 の開演

どうも、坂津です。

クマ、岩石、玉子、伊東、武丸とは別に、あの日部活に来ていなかった部員が2名居るとのこと。

オカッパタラコ(2年)と天内悠(3年)です。

どちらも字並びが悪いので、オカッパタラコをダダと呼びます。

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天内悠はそのまま天内で。

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外見も会話した感じも、天内先輩が一番マトモでした。

と思っていました。

この集団に所属しているんですから、マトモな奴なんて一人も居るはず無いってことは、後で嫌と言うほど思い知ることになります。

 

以上の7人に、私とジャイマンとスネヲを加えた10人で、炎激部は再構築されました。

 

さて、私は演劇というものをナメていました。

台本を覚えることが全てだと思っていました。

しかしその幼稚な考えは根底からちゃぶ台返しされることになるのです。

 

クマ「よし、今日は新入部員も居ることだし、軽めにいくぞ」

一同「うぃー!」

坂津「う、うぃー・・・」

 

そしてランニング5km、腹筋背筋腕立スクワットを各30回1セット×5セット、の後に15分休憩してもう一度ランニングから。

なんなのコレ殺す気なの?演劇部って文化系だよね?

吐きそうになるのを我慢しながら練習場の床にぶっ倒れていました。

 

武丸「思ったより根性あンじゃねーか」

坂津「あ、あざす・・・」

武丸「何でこんなことすンのか、分からねーだろ?」

坂津「・・・はい」

武丸「役者はな、基礎体力がねーと何にもできねーゾ」

 

15分の休憩時間にも先輩たちは鬼ごっこをして遊んでいました。

底無しってコワイ。

そしてジャイマンはともかくスネヲも、なんで付いていけるんだよこの運動に。

 

3時間程度の運動のあと、発声練習です。

 

「あめんぼあかいなあいうえお」

「あ、え、い、う、え、お、あ、お」

 

腹式呼吸の意味が分からない。

胃は消化する器官であって発声するための器官ではない!

 

しかし慣れというのは恐ろしい物で、1ヶ月もすると練習前の運動も軽くこなせるようになり、休憩時間に遊べる余裕が出てきました。

腹式の発声もだんだん掴めてきました。

 

クマ「坂津、最近ヘバらなくなってきたな」

坂津「はい!筋肉痛も無くなりました」

玉子「声も通るようになってきたな」

坂津「はい!腹筋を使うの、何となく分かってきました」

 

褒められると伸びるタイプの私ですから、それはもうぐいぐい伸びました。

 

岩石「・・・」

クマ「そうか、そろそろ良いかもな」

岩石「・・・」

クマ「分かった、明日からそうしよう」

伊東「やったー!」

武丸「楽しくなってきたぜ」

 

ジャイマンとスネヲと私は何が何だか分かりませんが、とにかく今までとは違う練習が、明日から始まるのだなという解釈でいました。

 

次の日。

 

私達はなぜか学校近くの空き地に居ました。

向こう側に弓道部の姿が見えます。

 

武丸「今日も楽勝だナ」

伊東「王様キック!王様キック!」

坂津「あの、部長・・・これは・・・」

クマ「うん、サッカーだ。交流試合」

 

なぜ演劇部の我々が弓道部とサッカーの試合をするのでしょうか?

まるで理解できないまま試合が始まりました。

 

玉子「もしお前の配役がサッカー選手だったら?」

 

私の横を通り抜けながら玉子が呟いていきました。

その瞬間に、私の中の殻が割れました。

何か新しいエネルギーのようなものが内側から溢れてきます。

 

そうか!役者は何でもできなきゃいけないんだ!

だからあんなに運動するし、今日はサッカーもやるんだ!

 

今までの日々が一気に腑に落ちた瞬間でした。

 

坂津「部長、今まで意味も分からず我武者羅にやってきましたが、これからはちゃんと意味を理解して練習に臨めそうです!」

クマ「そうか。でも今日のは練習じゃないからな。先生にはナイショな」

坂津「・・・は?でも、玉子先輩が、もしサッカー選手の役が来たらとか・・・」

クマ「あー、あれは玉子お得意の言い訳だよ。もし先生に見つかって怒られても、その役の練習をしてましたって言えば逃げられると思ってんだ、あいつ」

坂津「えー・・・」

武丸「つまんねーことグダグダ言ってンじゃねーゾ」

伊東「サッカー、楽しかったんでしょ?」

坂津「はい・・・」

岩石「・・・」

クマ「そうだよな、岩石。坂津は頭で考え過ぎなところがあるな」

 

頭で考えすぎだから岩石先輩の声が聞こえないんだろうか?

いつかブルースリーが言ってた、ドントシンクフィール?ってやつ?

 

こうして「私には考えすぎる癖があるから感じるままにドンとやれ」というプログラムがインストールされたのでした。

 

2か月が過ぎるともう、私はすっかり炎激部の水に馴染んでいました。

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この頃から私は髪を伸ばし始めます。

通常であれば頭髪検査で引っかかり、断髪を余儀なくされるところなのですが「私は演劇部所属の役者ですよ?役作りの為に髪を伸ばしているンですが、ダメですか?」と食い下がった結果なんと検査をスルーできました。

三井寿になるのは一年後のことです。

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もちろんグリズリーに「先生、芝居が・・・芝居がしたいです!」なんて言いませんでしたけど。

 

そして私に、初めての台本が手渡されるのでした。

6月に、地域の高校演劇部が集まって行う小さな公演会があるのです。

私にも配役とセリフがありました。

 

私の初めての役:お巡り

 

~「第一幕」に続く~

私の人格が形成されるのに重要な影響を与えていることが否定できない高校時代 の開場

どうも、坂津です。

先日の記事で私の過去の不思議体験をご紹介させていただきました。

自分では文字にするとあまり怖くないなと思っていたのですが、どうやら読んで頂いた方の中には恐怖を感じられた方もいらっしゃったようで、金縛りが伝染った方、ガチで怖い「ぽぽぽぽ」が頭をよぎった方、すみません。

あと羨まれた方には「ネタにはなりますがね」と。

薄目で読まれた方には「それ怖さ半減するの?」と。

ただまぁ、楽しめる程度の怖さなんじゃないかと思いますのでどうか許してくださいね。

 

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それよりも私が改めて感じた恐怖は、black-koshkaさんがなぜか演劇部のくだりを気にされていることです。

さらっと書いたつもりの何気ない部分を気にされると、何かそこからトンデモナイことになるんじゃないかと不安になります。

 

私の演劇部時代は大半が黒歴史ですので「あれ、演劇部で坂津って・・・もしや?」なんてことになると、封印しておいたパンドラの箱を開けられてしまいそうで怖くて怖くてもう、幽霊とかメじゃない恐怖ですよ。

 

 

なに佳奈?

演劇部時代の黒歴史が露見するかもしれない?

佳奈 それは無理矢理ひた隠そうとするからだよ

逆に考えるんだ

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「バレちゃってもいいさ」と考えるんだ

 

ということで、逆に考えました。

自ら白状します。

 

 

私は高校時代、演劇部に所属していました。

基本的に「中学校に無かった部活」から選ぼうと決めていました。

高校生からいきなり始めると、中学校からやってる奴らに勝てないのは明白です。

かと言って中学校では部活に所属しているだけで何の活動もしていなかった私は、帰宅部も同然でした。

いや、部活の時間は学校に居たので帰宅もしていないワケで、帰宅しない部?ですかね。

まぁいいや。

そんな選択理由で絞られたのが「弓道部」「登山部」「物理学部」「演劇部」の四つでした。

高校生になりたての私には、どれもこれも魅力的でした。

 

弓道とか超カッケー!乗馬もたしなめばヤブサメできるじゃん!?

登山とか超シブイ!「そこに山が在るから」って言えるんでしょ!?

物理学とか超オモシロソー!光学!?相対性理論のやつだろ!?

演劇とか超タノシソー!大道具から小道具まで工作関係は任せろよ!

 

しかし実際に見学に行ってみると。

 

弓道部は試合前の1~2週間しか練習しません。

基本的には空き地でサッカー。

なにそれ。

 

登山部は年に2回だけ近場の山にハイキングに行くだけ。

基本的には空き地で弓道部とサッカー。

なにそれ。

 

物理学部は唯一、当時としては貴重なパソコンを使える部だったけど、部員はみんなエロゲをやってるだけ。

先生が来たときの画面切り替え方法が卓越していた。

なにそれ。

 

ああ、どうせ演劇部も大したこと無いんだろうな。

帰宅部になってバイトでもすっかな。

 

そんな諦めムードで見学希望を提出し、放課後の部室を覗きに行きました。

 

すると。

 

部室のドアの向こうから「好きで~もな~いくせに好きなぁ~」と巡恋歌が(長渕剛さんのですよ)聴こえてきました。

合唱している感じではなく、一人が絶唱している感じです。

ともかくドアを開けると、そこにはカオスが広がっていました。

一応防音のドアだったらしく、この激しい雑音をあれだけに抑えていたのはすごい機能だと感心しました。

そしてそのままくるりと踵を返し、立ち去ろうとした瞬間、肩をポンと叩かれました。

 

「君が見学希望者だね?ようこそ演劇部へ!」

 

眼鏡を掛けたクマが日本語でしゃべりかけてきました。

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巨体に似合わないヌルリとした体捌きで私とドアの間に割って入ったクマは、私の肩を叩いた前足を器用に使ってドアを締めました。

 

外にも聞こえていた巡恋歌は最高潮を迎え「貴方の胸にはさっさーらぁーないぃぃぃ~」という声が私の耳に突き刺さります。

 

部室の中にはざっと5つの生命体を確認することができました。

 

フォークギターを掻き鳴らしながら巡恋歌を歌っていたのはハンプティダンプティでした。

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その後ろでは、恐らく無断で盗ってきたであろう体育のマットをぐるぐる巻きにしたものに、異様な掛け声で突きと蹴りを打ちこんでいるエスパーが居ました。

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「王様パンチ!」「王様パンチ!」「王様パンチ&キック!」「王様キック!」

 

エスパーの向かいには岩石が置かれてありました。

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どうやら岩石は本を読んでいるようでした。

何かフゴフゴ言っています。

読んでいるのはオレンジ通信でした。(誰も知らないだろうな・・・)

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岩石の奥には武丸が居ました。

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怖すぎて失神するかと思いました。

 

結局、部室に居たのはこんな感じでした。

・クマ:3年生で部長

・岩石:3年生

・ハンプティダンプティ:2年生

・エスパー:2年生

・武丸:2年生

字並びが悪いのでこの後からハンプティダンプティは玉子、エスパーは伊東と表記しましょう。

 

 

通常の神経を持ち合わせた普通の一般人であれば、絶対に「今回はご縁が・・・」となること請け合いの光景が目の前にありました。

もちろん私も一般人の一員でしたので、すぐさま逃げ出そうとしましたがクマが居てドアを通れません。

 

「ちょっと変わった連中だけど、みんな芝居が好きな気の良い奴らだよ。君も芝居に興味があるんだろう?」

 

恐らくは鮭のウロコで、口角をキラキラさせながらクマが語ってきます。

 

「あ、いや、特に興味とか、そんな・・・」

 

さっきまであんなに騒がしかった部室が静まり返っていることに気が付きました。

 

玉子「芝居とか難しく考えずに、まぁ歌おうぜ」

伊東「君も王様パンチを習得するんだっ!!!」

岩石「・・・」(すっ・・・とエロ雑誌をこちらに向ける)

 

ダメです。

一刻も早くこの場を離れたい気持ちでいっぱいです。

 

武丸「誰か攫ってきたら、お前は帰してやンよ?」

クマ「おいおい武丸、それは名案じゃないか!」

乗んのかよクマ。

 

こうして私は自分の身可愛さに、人身御供を探すべく放課後の教室に戻りました。

教室にはジャイマンとスネヲが居ました。

まだ入学から2週間程度ですが、知っている奴が居て良かったです。

「ねぇジャイマン、君、確か中国拳法やってるって言ってなかったっけ?今まで聞いたことない面白そうな拳法(王様パンチ)を教えてくれる部活があるんだけど」

「なにぃ?この俺様が知らない拳法だと!?坂津のくせに生意気だぞ!連れて行ってみろ!」

「スネヲもさ、歌うの好きだって言ってたよね?」

「シシシ。そうなの。僕ちゃん歌うの大好き!でも部活はなぁ、ママに早く帰りなさいって言われてるからなぁ」

 

こうして私は言葉巧みにジャイマンとスネヲを部室まで連れていきました。

ジャイマンは伊東に心意六合拳をお見舞いし、伊東は床に崩れ落ちました。

スネヲは玉子とハモり、意気投合していました。

 

二人の適応力、というか、合うべくして合ったパズルのピースのように、ジャイマンとスネヲは入部を即決しました。

 

よし、これで私は解放された!

 

そっとドアを開け、外に出ようとした私の視界はゴゴゴと黒い影に覆われました。

私が見上げたのはグリズリーでした。

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違いの分からない方の為に説明しますが、普通のクマはだいたい体重が150kg程度だそうです。

しかしグリズリー(ハイイログマ)は300kgを優に超える巨体と、その名の通り灰色の剛毛、そして首裏のコブが特徴です。

これに勝てるのは範馬勇次郎くらいのものです。

私は回れ右をして部室に入り、ドアを閉めました。

するとスゴイ勢いでドアが開けられ、そして咆哮が耳をつんざきました。

 

「練習だオラアアァァァァァッッッ!!!」

 

ここから先の記憶はあまり無く、気付いたら体操服を着て練習場に居ました。

なぜか入部希望用紙にも私の名前が記入されていました。

私の字かどうかは定かではありません。

 

こうして、燃え盛る炎のように激しい部活、炎激部での生活が始まりました。

ちなみにグリズリーは演劇部の顧問であり、そしてクマの父親でした。

部員は男しか居ませんでした。

この入部が、現在の坂津劇場の構築に大きく関与していることは否めません。

私は立ち入り禁止区域に足を踏み入れてしまったのでした。

 

 

あれ、入部しただけで終わっちゃったぞ。

まだパンドラの箱の蓋すら見えてないなぁ。

 

~「開演」に続く~