『かなり』

干支に入れてよ猫

【スポンサーリンク】

私だけが知っている

どうも、坂津です。

 

今週のお題「怖い話」

 

これまで多くの心霊体験的な事案に遭遇してきた私は、幽霊とか妖怪とかオバケ的なものを割と信じています。

とは言え概念としての存在を認識しているだけで、実存在するとは思っていません。

ここで言う実存在とは『万人万物に対して物理的な干渉が可能な存在』という意味で、特定の誰かにしか見えないとか、そういうのは実存在しているとは言いません。

そう。

『私にしか見えない』とか『私にしか聞こえない』ものは、実存在しているとは言わないのです。

そして『誰にも感知されない』ものは、実存在しているとは言わないのです。

 

 

大学に入学したばかりのあの日、私は新歓コンパの会場にいました。

砂浜に面した、海が見えるロケーションの会場を貸し切って行われた盛大な飲み会。

急アルで2人と、プロレスごっこで肩を脱臼したのが1人、計3人が救急搬送されるという馬鹿騒ぎ。

しかし私は疑問でした。

これを心底楽しんでいる人間が、果たしてこの場に何人いるのだろうか。

少なくとも私は『周囲に合わせようと必死』でした。

自分で来たいと希望したわけではなく、たまたま知ってる先輩に誘われて断れなくての参加。

「このコンパで友達作っとかないと、大学生活が寂しいものになるぞ」みたいなことを言われました。

でも私はひっそり静かに暮らしたいし、友達なんて無理に作るものじゃないと思っていましたし、何より私は重度の中2病患者でした。

前世の宿業カルマによって輪廻リィンカーネイションの枠から外れた邪霊ゴーストと、人間を愛してしまったため天界ヴァルハラ禁忌タブーを破って堕天フォールした精霊スピリットが、宇宙の大いなる意思コスモスによって幽核混合コアミクスされた存在、それが私。

姿かたちは人間のそれでも、中身はまるで別物なのです。

だから彼らの喜怒哀楽がいまいち理解できないし、共感もできません。

 

会場のドンチャン騒ぎに馴染めなくなり、私はこっそりと外へ出ました。

4月の海の夜風はまだ肌寒かったのですが、人類よりも上位の存在である私が気にするほどのことじゃないと、上着を置いてきたことを後悔する気持ちを封じ込めました。

砂浜に降り、真っ黒な海に目を向けます。

 

「フッ・・・この私がここまで近付いているというのに何の反応も示さないとは、現代の海神はとことんまで弱体化していると見える・・・」

 

などと実在せぬポセイドンに語り掛けたりしていると、背後に人の気配を感じました。

どうやら男女のペアで、会場で良い雰囲気になったから抜けてきた様子。

せっかく1人で中2ワールドを展開していたのに、とんだ邪魔が入ったものです。

ここで普通なら「よっ」とか軽く挨拶して会場に戻りつつ二人に場所を譲ったりするものなのでしょう。

しかし私はなぜか「ここに自分が居ることに気付かれてはいけない」という思考に囚われてしまいました。

遮蔽物の無い砂浜で二人にバレずにこの場を去るためには、ある程度の距離が必要です。

彼らはゆっくりと、しかし確実に私が居る海側へ向かっています。

私が取れる行動は、波打ち際を移動し、二人を大きく迂回するように会場へ戻るということだけです。

都合の良いことに、ほどよく湿った砂の上というのは足音がほとんどしません。

しかし念には念を。

私はサンダルを脱いで裸足になり、静かにかつ迅速に移動を開始しました。

 

ぶにゅる

「んぎゃああぁぁぁーっっ!!!!」

バッシャーン!!

ザバザバザバ!!

「うおあ゛あ゛あ゛あぁぁー!!!」

 

女「きゃああー!何!?」

男「はっ!?だれ???」

 

ワカメかクラゲか何かを踏んだ私は足裏の気持ち悪い感触に急襲され叫び転び海水に倒れ全身びしょ濡れになり焦って暴れて大惨事だったワケです。

そしてその声と音に驚いた男女は慌てて会場に駆け戻り、彼らに報告を受けた数人が砂浜に降りてきました。

 

男「絶対ここに何か居たんだって!」

女「すごい鳴き声と水音だったの!」

他「本当か~?肝試しには早いぞ?」

他「とりあえず懐中電灯持ってきた」

他「声が聞こえたのはあっち側か?」

男「そう、あっちの方から聞こえた」

 

砂浜から少し離れた松林の木の陰から、私は彼らの探索を見守りました。

びしょ濡れ砂まみれのままで。

こんな格好では会場に戻ることもできません。

かと言って彼らに発見されるのは死んでも御免です。

私は徒歩で帰宅することを決意しました。

電車で2駅(30分程)の距離、たぶん4時間くらい歩けば帰れるハズ。

そう高を括った私の勘は大いにハズれ、家に辿り着いたのは7時間後、すっかり朝になってのことでした。

 

この事件後、私は黙って会場から抜け出して失踪したことに罪悪感を覚え、声を掛けてくれた先輩を顔を合わせづらい状態でした。

 

しかし。

 

後から聞いた話。

コンパの参加者、実行委員、声を掛けてくれた先輩ですら、誰ひとりとして私の不在に気付かなかったというのです。

「というか、お前居たの?」的な反応。

でも、私だけが、あの日あの場所に私が居たことを確証しています。

なぜなら、あのコンパに参加した学生たちの間に、とある噂が流れていたから。

 

あの海岸に、半魚人が出現する、と。