『かなり』

干支に入れてよ猫

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しごとの思い出

どうも、坂津です。

私が初めて『対価の伴う労働』つまり『仕事』をしたのは、大学1年生のときでした。

リカーショップ、いわゆる酒屋さんでのアルバイトでした。

家の近所にあるお酒のディスカウントストアで、両親とよく買い物に行っていたお店です。

そこで『アルバイト募集』の張り紙を見て、応募したのでした。

 

いま考えれば仕事内容は非常にシンプルで簡単でした。

レジ打ち、品出し、掃除くらいです。

発注とか売場作りとか在庫管理とか、そういう複雑な仕事はありません。

物覚えが悪い方ではなかった私は仕事のやり方、手順的なものはすぐに習得することができました。

当時のレジなんてちょっと大きい電卓みたいなモンですし、決済方法も現金の一択です。

店内もそう広くない小規模のお店でしたので、最初は楽勝だと思っていました。

 

しかしすぐ、その考えが甘かったと思い知らされました。

いくらレジの操作方法を覚えても、店内にある商品の位置を覚えても、それだけでは全く対応できないお客様が次々にご来店されたのです。

そう、小売店をはじめ飲食店やサービス業など『接客』が伴う業種にとって最大の難関は『お客様』なのでした。

 

 

取扱商品のほとんどが『大きい』『重い』ものでした。

瓶ビールのケースなどはマジで重かったです。

なので、お客様によっては品物をレジまで持って来ず、指示された商品を会計後にスタッフが駐車場まで持って行ってあげるというサービスがありました。

別にそれ自体は至って普通なのですが。

 

アルバイトの初日。

日本酒の一升瓶1本をお買い求めくださったお客様に「悪いんだけど車まで運んでくれる?」と言われました。

ちょっと品が良い感じのおばさまでした。

 

レジまで自分で持ってこれたのになぜだろうと思いつつ、しかし元気に「はい!」と答えた私。

一升瓶を抱えてお客様の後について店を出ると、そこにはスーパーの買い物カートがありました。

実はこの酒屋さんはスーパーマーケットと隣接しており、買い物客のほとんどがスーパーでの買い物も同時に行っているのです。

なのでネギとか豆腐とかが入ったレジ袋を両手に持ったお客さんがよく来る酒屋だったのです。

 

で、普通のお客さんはスーパーでの買い物が多かった時、一旦車にその買い物した荷物を置き、それからお酒を買いに来ていました。

しかし目の前のカートには米とか水とかとにかく重量級のアイテムがこれでもかと乗っています。

 

「じゃあこれも運んでね」

 

そう言ってつかつかと歩き始めたお客様。

私は言われるがままに超絶重い買い物カートを押して追従します。

 

「トランクに乗せてくれる?」

 

そう言われた車のトランクには、恐らくホームセンターかどこかで購入したらしき洗剤とか掃除用品なんかがみっちみちに詰まっていました。

どう考えてもトランクの最大積載量(体積)を超過しています。

 

「あの、これちょっと、乗らないと思いますケド・・・」

 

恐る恐る意見を述べる私に対してお客様は、後部座席のドアを開けて言いました。

 

「じゃあこっち」

 

しかし後部座席にも組み立て式のカラーボックスとかアイロン台とかが既に鎮座しており、買い物カート上のアイテムを乗せるには組み替え作業が必要そうでした。

 

「えっと・・・たぶんこれ、いま乗ってるやつを1回下ろさないと無理じゃないでしょうか・・・」

 

おずおずと現状認識を報告する私に、お客様はこう言ったのです。

 

「じゃあそうして」

 

これは日本酒1本の購入に対するサービスとして正しいのだろうかという疑問を飲み込み、私は積み直し作業を開始しました。

たぶん15分は掛かったと思います。

このお客さん、家に帰って荷物を降ろす時はどうするんだろうとか考えながら、ようやく全ての荷物を積み込みました。

 

その後、店長にめっちゃ怒られました。

 

そりゃそうだわな、と思いながら怒られました。

私が店長の立場でも怒るわな、と思いながらお説教を聞きました。

 

それから、たぶん1ヵ月くらい経ったある日。

 

あのお客様がご来店されました。

 

そして以前と同じように日本酒を1本、レジに持って来られました。

 

「車まで運んでくれる?」

 

私は内心(キターッ!!)と思いました。

 

「少々お待ちください。店長ぉー!」

 

私は店長を呼びました。

前回怒られた時に「そういうのは断れ」と言われたのですが、断り方を教わっていなかったのです。

なので店長をこの場に呼び出し、実際にお断りしているシーンを見学しようと思ったのです。

 

しかし。

 

店長はお客様に言われるがまま一升瓶を運び、そして店の外にある買い物カートを押して駐車場へ行きました。

やがて帰って来た店長に、私は言いました。

 

「次は断らなくても良いんですね?」

 

「いや、あの人だけは特別」

 

「え?」

 

「・・・前の嫁なんだよ・・・」

 

なぜ以前の奥様が特別扱いなのか納得はできませんでしたが、人にはそれぞれ事情があるということは理解できます。

恐らくは会いたくない相手なのだろう。

相手に借りがある状態なのかも知れない。

しかし深くは追求せず『店長の元嫁特別枠』というものがあることだけ胸に刻みました。

 

この経験で、接客業は『お客さんを選べない』ということを痛感しました。

絶対に会いたくない相手が居たとしても、その人が自分の店に来てしまったら応対するしかないのです。

職務を放り出して逃げるわけにはいかないのです。

なんて過酷な業種なんだろう。

会いたくない人、逃げたい相手を作らないようにしようと、強く思った私でした。

 

それから1年後、この『元嫁』がお店の経理として事務所に入ることになるのはまた別のお話。

 

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