『かなり』

干支に入れてよ猫

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【怪談】怖かったおはなし

どうも、坂津です。

そろそろ夏も本格的になってきたことだし、怖い話でも始めようか。

 

大学生の頃、1人暮らしをしていたときの話です。

私が住んでいた町は割と霊的な濃度(?)が高く、霊的な遭遇(?)の頻度も高めでした。

誰かが幽霊を見ただとか金縛りに遭っただとか、そういう噂話が絶えること無くそこここで語られる環境でした。

私自身、霊感があるのかと問われれば「あるのかも知れない」と答える程度には心霊現象を体験しています。

 

 

あの日、私たちはホームタウンから電車で数駅のところにある居酒屋でワイワイやっていました。

確か生ビール1杯100円とかってキャンペーンをやってるお店があって、そこでしこたま飲んだんです。

次の日のことなんて一切考えない刹那的快楽に溺れる私たちでしたが、中には理性が機能している奴も居ました。

そろそろ終電だから帰るとか、彼女が迎えにきたから帰るとか、なんやかんやで最終的に店に残ったのは私ともう一人の友人だけでした。

居酒屋を閉め出された私たちは行くあても無く夜の道を歩きます。

とっくに電車も無くなり、周囲に開いている店も無く、道路を走る車も無く、とにかく何も無いんです。

街灯もそんなに明るくないし。

これで夜風が涼しいなんて特典があれば良かったのですが、生ぬるく湿った空気がどんよりと在るだけでした。

都会だったら周囲も明るいし、数駅程度なら歩いて帰るという選択肢もあったでしょう。

しかしそこはドが付く田舎。

自動販売機すら稀な存在である暗い道、1駅間が車で10分以上という距離を歩く気にはなりませんでした。

友人と私はどこかのお店の駐車場の車輪止めブロックに腰をおろしました。

双方共にそこまでの泥酔ではありませんでしたが、時間も時間なのでとにかく眠かったです。

もうこのままここで朝まで寝ても良いかな、とさえ考えてしまうような状態でした。

 

「ん? なぁ、あれ、開いてね?」

 

瞼の重さと格闘している私に、友人が声を掛けました。

示す方向を見ると、お店の駐車場の奥にある倉庫のような建物の扉が半開きになっていたのです。

どうせ寝るなら壁も屋根もある方が良い、と考えてしまうのが人間のサガでしょうか。

完全に不法侵入だし、普通に考えてダメなことです。

でもその時はなぜか『こんな状況だから仕方ない』みたいな心境だったのです。

私も友人も、その半開きの扉に吸い込まれるように倉庫の中に入りました。

そもそも外が暗いのに、その薄い明りがほんの少し差し込むだけの倉庫内は完全に真っ暗で何も見えません。

ですが特に何か物が入っているという感じではありませんでした。

そのとき。

 

バァァンッッ!!!

 

ものすごい音がしました。

耳が痛くなるほどの。

それは、扉が閉まった音でした。

私も友人も驚き過ぎて声が出せませんでした。

びっくりしたときに「うわっ!」とか言えるのって、まだ余裕がある証拠なんだと思います。

ガチで驚いたときは体が硬直して声が出せず全身が一気に冷え心臓の音がやたら大きく響くんです。

ドッドッドッドッ・・・

その鼓動を認識することでようやく頭が回り始め、同時に血流も回り始めてめっちゃ汗が噴き出すんです。

 

私「・・・暗い」

友「ああ・・・」

私「携帯・・・」

友「うん・・・」

 

私たちはそれぞれポケットから携帯電話を取り出し、画面の明かりで状況を確認しようとしました。

あまりにも真っ暗すぎて、自分たちが入ってきた場所も分からないのです。

照らしてみると、倉庫内には何もありませんでした。

だいたい2m×5mくらいの空間があるだけでした。

壁も床も天井も金属で、窓らしいものもありません。

ただ、見た感じでは、5mの壁の方に引き戸、2mの壁には両開きの扉があるようでした。

私たちが入ってきたのは引き戸タイプの入り口でしたので、そこから出ようということになりました。

しかし。

 

友「開かね」

私「マジか」

友「重てぇ」

私「本当だ」

 

びくともしない扉。

それもそのハズ。

携帯で照らしてみると、扉がスライドするはずのレール部分がひどく錆びています。

私たちは仕方なく両開きの扉の方へ移動しました。

しかしそこも開きません。

どうしたものかと考えていると、コンコンッと金属音がしました。

倉庫の壁を何かで叩くような音。

 

私「お前?」

友「いいや」

私「何だろ」

友「知らん」

 

ガンッ!!

 

今度は強めに叩く音。

金属製の箱の中でその壁を叩かれると、びっくりするほどウルサイです。

 

ガンッ!ガンッ!ガガガガッ!

キャハハハハ!

 

私「!?」

友「!?」

 

壁を殴打する音に加え、今度は子供のような笑い声も聴こえました。

近所の子供が外側で悪戯をしているんだろうか?

 

ガガガッ!ガン!ガン!

キャハハッ!キャハハハハハハ!

 

音と声は徐々にエスカレートしていきます。

トタトタ走り回る足音も聞こえます。

 

私「あ・・・」

友「どした」

 

気付きたくないことに気付いてしまった私は、絶句しました。

思わず声を漏らしたものの、それについて尋ねてくる友人に回答したくありません。

もう声を出すことも動くこともしたくないのです。

完全なる無になりたい。

ここに私は居ないことにしたいのです。

 

友「おい、どうしたんだよ」

私「・・・」

 

ガンガンガンッ!!

キャッハハハ!!キャハハ!!

 

友「何なんだよ坂津!」

私「・・・」

 

ガガガガガン!!

アハハキャハハッハハハ!

 

友「何で黙るんだよ! おい!」

私「音が中からしてるだろ!!!」

 

そう、子供の笑い声も、走り回る足音も、どう考えても倉庫の中から聴こえているのです。

この中に、私と友人と、そして子供が、居るのです。

 

友「・・・」

私「・・・」

 

友人も沈黙を選びました。

当然私も黙っています。

そして、子供も、静かになりました。

暗闇と静寂がみっちり詰まった鉄の箱。

夜とは言え時期は真夏で、ただ立っているだけでも汗が止まりません。

どれくらいの時間そうしていたのか、いつの間にか私のも友人のも携帯は光らなくなっていました。

 

友「おい、坂津、おい」

 

友人の声で目が覚めました。

何がどうなったのかさっぱり覚えていませんが、どうやらいつの間にか倉庫の床に倒れて寝ていたようです。

気を失ったという方が正しいのかも知れませんが。

そんなことより、倉庫の内壁が見えます。

つまり、明かりがあるということです。

頭を振ると、半開きの扉から光が差し込んでいました。

 

私「朝?」

友「うん」

 

ヨロヨロと体を起こし、ノロノロと外に出ます。

固い床に横たわっていたせいで節々が痛みます。

そして驚くことに、恐る恐る振り返った倉庫の内部には、何かの木箱や段ボールなどが積み上げられていました。

昨夜は空っぽだったのに・・・。

あとで情報共有しましたが、友人も私と同じ状況で、気が付いたら朝になっていたそうで、それ以上二人ともこの件について何も語りませんでした。

 

あれからもう20年、あの倉庫がどうなっているのか、私は知りません。