どうも、坂津です。
私たちは日常的に略語を多用します。
正式名称とは別の略称や、頭文字を集めたアルファベットの文字列などなど。
それらは『知っている人だけにしか通じない暗号』のようなものです。
そんな暗号を会話の中に織り交ぜておいて、いざ相手がそれを『知らない』『分からない』となると『え~そんなことも知らないの~?』とマウントを取るのが流行っているようです。
先日、仕事の関係でお世話になっている会社の方とお会いしました。
私はこの方がちょっと、いやかなり苦手です。
と言うか嫌いです。
そんなに頻繁にやりとりするわけでもないのですが、接触があると必ずマウントを取ろうとするんですよね。
そんな相手と、何の不幸かスケジュールの関係で『二人きりの別室待機時間』を過ごすことになりました。
おっさん二人きりの地獄タイムが始まります。
こういうとき、私は黙ったままでお互い空気のように過ごすことを望む派です。
スマホをいじっても良いですし、意味も無く手帳を眺めても構いません。
しかし中には、何か会話をしなければ落ち着かない派も存在するわけで。
どうやら今回のその人は積極的に会話したい人らしく、ちょいちょい話し掛けてきました。
「それ、ゲームですか?」
「はい」
「面白いですか?」
「ええ」
「・・・」
私は会話したくないので初手からスマホゲームを起動させて『話し掛けるなオーラ』を全開にします。
しかしそのATフィールドを易々と食い破って中身の無い質問を投げかけてくる使徒。
しかも会話したそうなのに話を続けるのが下手。
私の『会話ブチ切り単語返答』に対応できていませんでした。
それなのに、単発の砲撃は続けてくるんですよね。
「日本シリーズ観ました?」
「いえ(本当は観た)」
「・・・」
「今朝めっちゃ寒かったですよね」
「はい(はい)」
「・・・」
なぜ『YES・NOで答えられる質問じゃダメ』ということに気がつかないのでしょうか。
会話を繋げたいのであれば最低限、何らかの文章で返ってくる確率が高い質問を投げ掛けることが必要です。
「あとどのくらい待つんでしょうねぇ」
「さぁ(こっちが聞きたい)」
「・・・」
「明日も寒いんですかねぇ」
「ですかね(知らんがな)」
「・・・」
あまりにもしつこいので私も腹を括りました。
スマホを閉じて椅子ごと体を相手に向けて本格的な会話に臨むことを態度で示します。
それを感じ取ったのか、さっきまでよりも少しテンションを上げた口調で話し掛けてきます。しかし内容は相変わらず簡単な質問です。
仕方ないので私から歩み寄りました。
「最近何か映画とか観ました?」
「映画館では観てないですねぇ」
「アレ面白いですよ、ほらあれ」
「アレじゃ流石に分かりません」
「あのほら、あ!ファンタビ!」
「???」
彼が言いたかったのは、ハリーポッターシリーズのスピンオフ作品である『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』でした。
今月、その続編の新作が公開されるとかで、そりゃもうめっちゃ嬉々として語ってきました。
自分の好きな作品の良いところを熱弁しギュウギュウと推しつけるのは、まぁ良しとしましょう。
しかし、その言葉だけは言うべきでなかった。
「え?ファンタビ知らないんですか?それヤバいですよ坂田さん」
そもそも略称でなく、ちゃんと「ハリーポッターのスピンオフ作品でエディ・レッドメインの・・・」と言ってくれれば私だってすぐに分かりましたよ。
観てないですし正式なタイトルも分かりませんでしたけど、映画館で予告は観ましたしCMも観たことありますし。
それに私は坂津です。
きちんと説明されれば少なくとも『知らない』ではなく『未視聴』という扱いになったハズなのに、いきなり略称でサラッと言われたって分かりませんよ。
坂田じゃなくて坂津ですし。
そこでちょっと、大人げ無いとは思いつつ、悪戯をしてしまいました。
「いや、そっちのファンタビでしたか」
「ん?いやいや、ファンタビにそっちもどっちも無いでしょう」
「え・・・ご存知ないんですか?あの超人気番組『ファン旅』を。毎週いろんな有名人がゲストに迎えられて地方をめぐるんですけどね。その有名人の熱烈なファンと一緒に旅をするっていうコンセプトで、リアルに有名人と同行できるってんで一般応募がスゴイらしいですよ。先週なんてマツコ・デラックスが50人くらいのファンを引き連れてました」
「いえ・・・知らないです・・・」
「ちなみにもうひとつのファンタビはご存知ですか?」
「え?」
「慣用句的なビジネス用語ですが『
「知らないです・・・」
「なーんちゃって。全部嘘です」
「え?」
「いや、ファンと旅する番組も羽根が起こす乱気流も、嘘ですので知らなくて当前ですよ」
「え・・・いやだなぁもう!ひどいじゃないですか~びっくりしましたよ~坂田さん~」
「ファンタビを知らなかったのでついつい口から出まかせを言ってしまいました。すみませんねぇ田村さん」
「僕、村田ですけど」
「私も坂津なんですよね」
「・・・」
「・・・」