『かなり』

すっかり夏。

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客と私と店員と

どうも、坂津です。

私が接客業をやってた頃は、いかにお客様のことを覚えるかがテーマでした。

顔と名前はもちろん、何気ない会話の内容や購入して頂いた商品などを覚えておく。

ご来店いただいたら「○○さん、いらっしゃい」

そして前回買ってもらった物について「アレどうでした?」

世間話の内容から「そう言えばアレはどうなりました?」

などなど、相手が気分を害さない程度で『覚えてますよアピール』をする。

これが接客の初歩の初歩だと、思っていました。

 

もちろん例外なお客様も居ましたけどね。

極力なら誰とも関わらずしゃべらず静かに暮らしたい人も居ます。

『話し掛けるなオーラ』が出ているお客様には決して声掛けはせず、必要最低限の応対で済ませました。

 

さて、基本的には自分のことを覚えていてもらって気分を害する人は居ません。

逆に『忘れられてて気分を害する』人は多く居ます。

それは私が通勤時に立ち寄るコンビニでの出来事でした。

 

「だから、何回言わせんだよ! 持ってねぇんだよ!」

 

イラついた感じの大声が、店内に響きました。

私はレジから最も遠いドリンク売場に居たのですが、しっかりとその声が聞こえました。

そして『誰がなぜそう言ったのか』についても、瞬時に察しました。

 

「そうですか。866円になります」

 

レジに立っている女性は何事も無かったように淡々と処理を進めようとします。

これはこの人の、いつも通りの対応です。

しかしこの日はいつも通りではありませんでした。

そのお客さんが。

 

「あんたさ、俺が毎日毎日ここで買い物してるの、知ってるだろ?」

 

さっきの大声の主である男性客は会計を進める気は無いようです。

私は彼のことを知っています。

いや、名前や個人情報を知っているわけではありません。

いつもこの時間にこの店に来る黒いコンパクトカーの男性。

そういう認識です。

 

「申し訳ありませんが、記憶にございません。866円になります」

 

レジの女性は相変わらず淡々としています。

男性はわざと聞こえるように大きく舌打ちをし、支払いを始めました。

たぶん、私の想像ですが、たぶんレジの女性はこの男性のことを覚えているはずです。

私がこのコンビニを利用するのは週に1回か2回ですが、この男性は間違いなく平日は毎日来ているはずだからです。

 

「134円のお返しです。レシートはご入り用でしょうか」

 

あっ、と思いました。

この男性はレシート要らない派の人です。

 

「だからっ・・・!・・・ちっ・・・いらねぇよ!」

 

おつりと購入した商品を掴んで退店する男性。

周囲のお客さんや他のスタッフさんには若干の動揺が見られましたが、当の本人である女性は表情一つ変えずにレジに居ました。

 

実は私、この女性がまだ研修中の頃からこのコンビニを利用していました。

彼女は先輩スタッフからの説明をきちんとメモしながら聞き、割と早い段階で『研修中』の札を外していたように記憶しています。

で、たまたまなんですけど、その当時レジカウンターの中で女性が先輩から指導されている内容が耳に入ったことがありまして。

 

「どのお客さんにも必ずポイントカード持ってるかどうか聞いてね? 持ってないことが分かってても、何回も聞いてればカードを作ってくれるかもしれないから。あと、レシートが要るかどうかも必ず毎回聞いてね。いつも要らない人でも、たまに必要なときもあるから」

 

そんな説明をされていたのです。

あれから4年くらい経つでしょうか。

彼女は未だにその教えを遵守し、自己の業務内容、責任範囲から1mmも出ないようにきっちり仕事をこなしているのです。

 

恐らくそれが彼女の美徳であり、そういう価値観なのでしょう。

だからあの男性客がこれから何年通おうが、どんなに奇抜な格好をしていようが、この女性から『覚えてる対応』はしてもらえないのです。

 

コンビニは必要な物を必要な人が必要なだけ買う場所であり、商品のお勧めや接客トークなどは必要無い、と思っている人も多いと思います。

逆に、いくらコンビニとは言え対面販売形式なのだから、最低限の接客サービスはするべきだと思っている人もいらっしゃると思います。

そのどちらも、第三者である私からすれば正解です。

しかし双方の立場から相手を見た場合は、不正解なのでしょう。

決して交わることの無い価値観の平行線です。

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客という立場上、店側が望むサービスを提供しないのなら、店を変えるしかありません。

逆にそれで客足が遠のくのが嫌ならば、店側はサービス内容を変えなければなりません。

どちらが先に折れるのか。

どちらが先に変わるのか。

どちらも己を貫き通すか。

 

私は、また次もあの男性客がこのコンビニに来て、そしてあの女性スタッフがレジを打つ場面に遭遇することを楽しみにしています。