『かなり』

干支に入れてよ猫

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メロスのように

メロスは激怒した。

坂津も激怒した。

必ず、かの邪智暴虐じゃちぼうぎゃの王を除かなければならぬと決意した。

必ず、この屋外焼肉バーベキューの幹事を説得せねばならぬと決意した。

「この短刀で何をするつもりであったか。言え!」暴君ディオニスは静かに、けれども威厳をって問いつめた。

「この買い物リストに何を加えるつもりであったか。言え!」幹事は静かに、坂津を問い詰めた。

「市を暴君の手から救うのだ。」とメロスは悪びれずに答えた。

「飲み物がビールだけなので、ビールを減らして焼酎を足すのだ。」と坂津は悪びれずに答えた。

「おまえだって、いまに、はりつけになってから、泣いて詫わびたって聞かぬぞ。」

「そんなことをすればお前、当日ビールが欲しいと嘆いても、やらんぞ」

「ああ、王は悧巧りこうだ。自惚うぬぼれているがよい。私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、――」

「ああ、確かに夏日の昼間に屋外で肉を焼いてのビールは最高だろうな。だが私は飲まない覚悟でいるさ。ただ、――」

「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、ここへ帰って来ます。」

「ただ、私に情をかけたいつもりなら、買い出しに行くのをちょっと待ってください。妻に連絡をして、1本だけビールを飲んでも良いかどうか、確認してみます。」

「ばかな。」と暴君は、しわがれた声で低く笑った。

「とんでもないうそを言うわい。逃がした小鳥が帰って来るというのか。」

「ばかな。」と幹事は、冷めた声で低く笑った。

「確認も何も、飲んでいないと嘘をつけば済むことではないか。」

「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にセリヌンティウスという石工がいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」

「そんなことはできません。例え私が飲んでいないと言い張っても、妻は、必ず私の嘘を見抜くのだ。絶対だ。妻の真実を見抜く目オービットアイを信じられないならば、よろしい、私の部下に加納くんというデキる子がいます。私の無二の右腕だ。あれに聞いてみるがいい。もし私がビールを飲んでしまって、それを妻に隠そうものならどうなってしまうのか、加納くんに尋ねてみてください。たのむ、そうして下さい。」

メロスは、友に一切の事情を語った。セリヌンティウスは無言で首肯うなずき、メロスをひしと抱きしめた。

坂津が事情を話すと加納くんは「ええ、課長の奥様は特殊能力ナゾスキルで何でも見抜かれます。」と証言してくれた。

 

 

私「というわけで、社内行事でバーベキューがあるんだけどね」

妻「ふむ」

私「どうしても乾杯のときの1杯はさ、ビールじゃん?」

妻「そんな法は無いけどな」

私「ですよね」

妻「けどまぁ、付き合いもあるだろうし」

私「ッ!?」

妻「飲めば良いよ」

私「マジかーっ!!」

妻「ただしッ」

私「ごくり・・・」

妻「その分を消費できるように、走ろうか?」

私「えっ」

妻「体重(kg)×距離(km)=消費カロリー(Kcal)なんだってさ」

私「・・・つまり?」

妻「旦那の場合はカロリーじゃなくて糖質なんだけど、この際それは置いといて」

私「置いといてくれるの?ありがとう!」

妻「500ml缶で約200Kcalだから、69kgの旦那なら3km走ればOK」

私「じゃあ6km走ったら2本飲めるってこと?」

妻「逆だね。2本飲んだら6km走って」

私「えっ・・・飲んだ後に走るの?」

妻「そうだよ」

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川沿いの土手を酔っ払ったオールバックのおっさんが泣きながら走っているのを見かけたら、それは私かも知れません。