『かなり』

干支に入れてよ猫

【スポンサーリンク】

料理コンテスト失格まであと3日

あけましておめでとうございます、坂津です。

こちらの企画に参加させて頂きます。

pfcs.hatenadiary.jp

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~ 

 

 

ここはキスビットにある最大都市、エイ マヨーカの住宅街。

その中にある一軒の家の部屋の中。

白いコック服を着た栗毛の少女が、立ちつくしている。

 

「女が料理人?無理に決まってんだろ!」

 

「男の世界に入ってくるんじゃねぇ!」

 

「厨房は聖域だ。小娘が気軽に足を踏み入れるな」

 

「遊びじゃ無いんだよ遊びじゃ!出ていけ!」

 

これまで自分に浴びせられた罵詈雑言が脳裏を駆ける。

タオナンは唇を噛み、拳を強く握りしめた。

その手の中には、丸められた紙片が入っている。

 

「なんでよ・・・なんでいつも・・・男ばっかりッ・・・」

 

しわくちゃに丸められた紙を床に投げつけ、タオナンは駆け出す。

それは料理コンテストの告知用紙であった。

コンテストの応募条件、それは「男性であること」だ。

女性であるタオナンに参加資格は無い。

f:id:sakatsu_kana:20170318120520j:plain

彼女が駆け込んだのは自宅の厨房である。

そこには調理アシスタントのアルファ、テイチョスが居た。

アルファとは、分かりやすく言えばロボットだ。

様々なタイプが存在するが、テイチョスは人類超近似タイプである。

学習型の人工知能が搭載されており、コミュニケーション能力からも外見の作りからも、人間と見分けることは難しい。

 

「テイチョスッ!!アタシ、男になるッ!!」

 

 タオナンはそう言うが早いか、調理台に置かれていたナイフを掴む。

おさげにまとめていた髪を左手で鷲掴みにし、右手のナイフで人思いに、切った。

 

「タオナン、君はまずその直情的なところを改善すべきだ。そして厨房で断髪式など正気の沙汰とは思えない。何より調理に使用すべき刃物で髪を切るなんて許されざる冒涜だ。ちなみに君は男には成れない」

 

淡々と正論を述べるテイチョスに、ワナワナと震えながらも言い返す言葉が見つからないタオナン。

しかし正しいことを正しいように真っ直ぐぶつけられると、人間というものはそれを素直に受け入れられないのである。

 

「分かってるわよそのくらい!髪はちゃんと掃除するしナイフも洗う!でもアタシは男になる!男になって、アタシの料理でみんなを見返してやるのよ!!」

 

涙をぼろぼろとこぼしながら感情を爆発させるタオナン。

テイチョスとて彼女を責めたいわけではない。

しかし度が過ぎた感情的行動はあくまで論理的視点から改善を促すべきという思考が働く。

冷静に話せば分かってくれるはずだ。

 

「ひとつずつ解決しよう。まず散らかった毛髪の掃除はワタシに任せてくれ。掃除は得意だ。それからナイフの洗浄も任せて欲しい。ワタシに備わっている機器洗浄機能は、君も認めるところだ。そして、君は男には成れない。分かるかい?」

 

髪を短く切っただけで男になれるとは、もちろんタオナンも思っていない。

しかし短髪で男装をすればあるいは・・・そういう思いがあった。

あの料理コンテストに男として登録し、優勝してみせる。

そしてそのあとで自分が女であることを公表してやる。

女であるというだけでまともに評価する機会も与えられず、今まで自分を見下してきた男たちに復讐してやるのだ。

 

「これで男装して“俺”とか言えば、ちゃんと男の人に見えるわ!」

 

テイチョスは軽くため息をついた。

彼女は見えていない。

周りも、自分も。

やはり指摘せねばならないのか。

 

「良いかい。ワタシは君の味方だ。君を大切だと考えている。だからこそ言わせてもらう。君は男には成れない。君はきっと一人称を変え忘れる。すぐにアタシと言ってしまうだろう。次に声。そんなに可愛らしい声の男は居ない。そして顔。君のようにキュートでチャーミングな男など不自然だ。最後に、その豊かで魅力的な胸。君は男には成れないんだよ」

 

全てが、テイチョスの言う通りだった。

 

「しゃべらない!顔は焼く!胸は斬る!アタシは男になるんだウワァーン!!!」

 

テイチョスはタオナンの手からバーナーとナイフをもぎ取り、椅子に座らせ落ち着かせるのに相当な労力と時間を費やした。

まだしゃくりあげてはいるが、少し落ち着いたタオナンはぽつりと言う。

 

「アタシの・・・ひっく。料理を・・・ひっく。認めて欲しい、だけなんだ・・・」

 

だいたいいつも、こうだった。

タオナンが感情のまま大暴れし、テイチョスがそれを諌める。

ある程度まで思いを吐露したら少し落ち着き、センチになる。

そんなタオナンを見て、結局は力を貸してしまうテイチョス。

 

「分かったよ。何か考えてみよう。だがあまり期待しないでくれ?」

 

「わぁー!!テイチョスありがとうッ!!大好きーッ!!!」

 

「わっぷッやめなさいタオナン!離れて!」

 

テイチョスとて彼女の胸は魅力的だとは思うが、しかしそれで窒息は笑えない。

本来テイチョスは呼吸の必要が無いタイプのアルファであるが、タオナンと居ると息苦しい時がある。

今のように、物理的に接触する面積が多い場合や、認識される肌の面積が大きい場合など、とても苦しくなる。

回路の故障だろうか。

 

ともかく、何か手立てを考えなければならない。