『かなり』

干支に入れてよ猫

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【上】それぞれのプロローグ

あけましておめでとうございます、坂津です。

これから書く物語は、私の国に皆様を招き入れるお話しです。

キャラクターの貸し出しに応じてくださった皆様、本当にありがとうございます。

「こんな口調じゃない」

「こんなこと言わない」

「こんな設定は無い」

などなど、クレームは常時受け付けておりますので、愛するキャラクターが意に沿わない使われ方になってしまっている場合は修正をお申し付けくださいね! 

キスビット国内で唯一、種族差別が存在しない地域、タミューサ村。

この村を作った一人の人間、それが現在の村長であるエウスオーファン。

村人からエウス村長と呼ばれ親しまれている。

 

今回企画しているお話は、歪んだ種族差別の思想に侵されたキスビットに革命を起こそうと目論むエウス村長が、いつか来る革命のときのため、協力を依頼できる先を確保する、というものです。

 

その各国の協力者候補が、コチラ。

 

所属国種族性別名前職業創造主
ドレスタニア(近海) 女性 紫電 海賊 長田克樹 (id:nagatakatsuki)
ドレスタニア 人間 女性 メリッサ 国王付きの使用人 長田克樹 (id:nagatakatsuki)
チュリグ アルビダ 無性 ハサマ 国王 ハヅキクトゥルフ初心者
奏山県(ワコク) 人間 男性 町田 会社員 ねずじょうじ(id:nezuzyouzi)
奏山県(ワコク) 人間 女性 アスミ ピアニスト ねずじょうじ(id:nezuzyouzi)
コードティラル神聖王国 人間 男性 クォル・ラ・ディマ 自警団団長 らん (id:yourin_chi)
コードティラル神聖王国 人間 女性 ラミリア・パ・ドゥ 格闘家 らん (id:yourin_chi)
ライスランド 妖精 男性 カウンチュド 射手 お米ヤロー (id:yaki295han)
メユネッズ 妖精 男性 ダン 夢追い人 たなかあきら (id:t-akr125)
カルマポリス アルビダ 女性 ルビネル 学生 フール (id:TheFool199485)

※敬称略ですごめんなさいm(_ _)m

※テーブル表記ってスマホとかだと見づらいんでしょうねごめんなさいm(_ _)m

※内容に相違があればご指摘ください直しますごめんなさいm(_ _)m

 

というわけで、上記の10名にキスビットへ入国して頂こうと思っております。

で、皆さんが集合するまでの物語、つまり入国シーンはそれぞれバラバラになります。

ペアで動くのは奏山県からお越しいただく町田くんとアスミちゃん。

リーフリィ大陸からお越しいただくクォルとラミリア。

あとは紫電、メリッサ、ハサマ、カウンチュド、ダン、ルビネルについては単独行動となります。

つまり8組の入国シーンを経ての集合となります。

登場まで時間が掛かるキャラクターも出てきます。

何卒ご理解とご容赦のほどよろしくお願い致します。

 

もう書くからね!

キャンセルできないからね!

 

 

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~

 

■町田とアスミ

 

 

こぢんまりとした、隠れ家的なカフェ。

ネットで話題になることも、情報誌に掲載されることもない、知る人ぞ知る空間。

そんな店内に一組の男女が居た。

木製の小さな丸いテーブルに向かいあって座っている。

 

「久しぶり、だね」

 

小さな声でそう言った町田は、しかし相手の女性の顔をまともに見られなかった。

その様子にクスリと微笑んだアスミは優しい声で返す。

 

「そうだね、町田くん」

 

普段はなかなか会えない二人は、いつも文通でやりとりをしている。

手紙の中では比較的雄弁だが、久しぶりに会うと照れてぎこちなくなるところも、アスミにとっては町田の魅力のひとつだった。

 

「でも、よくこんなお店を知っていたね、アスミちゃん」

 

ようやくこの雰囲気に慣れてきた町田が顔を見て話しかける。

これもいつものことだった。

いつでも、何度でも、新鮮。

二人の間に流れる時間は、出逢った頃から変わらずこうだった。

 

「あまり人が多いと、目立っちゃうからね」

 

アスミはこの町出身のピアニストだ。

テレビなどのメディアにも登場する有名人で、ちょっとしたアイドル的な存在。

人の多い通りなどで顔を隠さずに歩くと、あっという間に人だかりができてしまう。

それでも今は、特に顔を隠したり変装したりしているわけではない。

町田と会うときは自然体でいたいという気持ちがあるからだ。

 

「そうか、アスミちゃんも大変だね」

 

ほんの少しだけ、町田は心の中で拗ねた。

本人すら気付かないほどの小さな小さな、嫉妬心があった。

(アスミちゃんは、みんなのアスミちゃん)

そんな考えが、町田の声を低くさせた。

 

「そう。大変なの。そんな大変な思いをして、町田くんに逢いにきたのよ?」

 

少しだけ悪戯っぽく、笑いながらアスミは言った。

バツが悪い気持ちが少しと、嬉しい気持ちがたくさん、町田の胸に広がった。

 

「そうだ、今日は港に外国の大きな船が来るんだよ。見に行こうよ」

 

町田の提案にアスミは快く頷いた。

 

店を出て、港までの道のりは人通りもまばらだった。

平日の昼間なら、こんなものかも知れない。

もう少しで海が見えてくるだろうというところまで来て、行く先の道の人影に気がついた。

ずいぶん遠くにいるはずだが、それでもしっかりと目視できる。

 

「ねぇ町田くん、あの人、少しおかしくない?」

 

アスミが歩みを止めて町田に問いかける。

ほぼ同時に、町田も立ち止まって人影を注視する。

 

「背が、高すぎる・・・」

 

町田がそう呟いた瞬間、その人影が動きだした。

ひどく細長い人影が、そのスラッと長い手足をバタバタと動かしながらすごいスピードで二人の方へ走ってきたのだ。

二人に近づいてきたそれは、真っ黒いタキシードのような服装に、頭部は麻袋をすっぽりと被ったような奇妙な風体をしていた。

反射的にアスミの前に一歩進み出た町田の動きは、結果アスミを護ることになった。

駆け抜けるそれの手が、まるで鉈を振り下ろすように町田の頭をかすめた。

もし町田が庇っていなければアスミに当たっていただろう。

 

「ッ痛・・・」

 

「だ、大丈夫!?町田くん!」

 

僅かにだが額が切れたようだ。

赤い血がタラリとこめかみを流れる。

長身のタキシードは数十メートル後方でザザッとブレーキをかけた。

そして反転する。

またこちらに向かって来るつもりなのか。

 

「アスミちゃん、走ろう!」

 

町田はアスミの手を取り、走り出した。

何が起こっているのかは分からない。

ただとにかくアスミを危険な目に合わせるわけにはいかない。

驚いて目を丸くしながらも、町田について走るアスミ。

妙に冷静だった。

 

(今日、スニーカーで良かったな)

(あ、町田くんに手を握られちゃった)

 

海が見えた。

港に出て最初の角を曲がった。

そこには扉が開き、積荷が入っていない空のコンテナがあった。

 

「ここに隠れよう!」

 

町田はアスミを先にコンテナの中に入れ、あいつが追ってこないかを確認して自分も中に入り、扉を閉めた。

とは言っても完全に閉めてしまうと真っ暗で何も見えなくなってしまうので、完全には閉めない。

細い一筋の光が、縦に1本伸びている。

それにしても、あれは一体何だったのか。

荒い呼吸が落ち着く頃に、ようやく恐怖を感じ始めていた。

 

「町田くん、ありがとう。大丈夫?」

 

アスミはハンカチを取り出し、町田の額の傷を押さえた。

少しだけ痛みに顔をしかめた町田だが、アスミに心配をかけまいと、気丈に振舞う。

 

「僕はなんてことないよ。アスミちゃんは大丈夫?怪我、してない?」

 

町田の問い掛けに、うん、と短く答えるアスミ。

その時。

 

ガシャン!

 

コンテナが大きく揺れた。

バランスを崩し、その場に座り込む態勢になった二人。

 

「ま、町田くん!」

 

「アスミちゃん!」

 

扉は完全に閉まり、中は真っ暗になってしまった。

コンテナはしばらく小刻みに揺れた。

 

ガコン!

 

ひときわ大きな衝撃があり、それ以降は何も無かった。

二人は息を殺し、暗闇の中で手を取り合った。

 

「町田くん、覚えてる?」

 

ふいにアスミが町田に話しかけた。

 

「この前、バレンタインに逢ったときね、町田くん、怪獣に襲われたって私を護ってくれるって言ったじゃない?本当に、護ってくれたね。町田くん、カッコイイね」

 

「ア、アスミちゃん・・・」

 

話しながら、アスミは震えていた。

不安と恐怖を振り払うように、話し続ける。

 

「ずっとずっと小さな頃、あのピアノ教室で、町田くんが私に初めてくれたプレゼント。ハートの柄のボールペン、私まだ使ってるんだよ」

 

「町田くんに手紙を書く時は、いつもあのペンで書いてたんだよ。知ってた?」

 

「今も手帳と一緒に持ってるよ。町田くんが一緒に居てくれるみたいで、安心するの」

 

「でも、今は本物の町田くんが居る。だから私、怖くないよ」

 

気丈に言い放った強がりも、声が震えていては説得力が無い。

しかし、町田には充分すぎるほど伝わった。

 

「アスミちゃん、大丈夫。何があっても、僕が君を護るからね」

 

 

■ハサマ

 

少年なのか少女なのか、見た目だけでは分からない。

透き通るように白い肌と、あどけない容姿。

それがチュリグの国王、ハサマだ。

 

「う~ん、どうしようかな」

 

ハサマは悩むフリをしていた。

大げさに首をかしげ、腕を組み、眉間にシワを寄せる。

 

「我が国は国際的な交流に乏しく、その文明は他国より数百年は劣っております。恐らく、我が国で致命的な病症や傷も、貴国の薬学でなら救える命もあるのではないかと・・・」

 

ハサマの前で陳情しているのはキスビットという国から来た使節だった。

本来であれば、自国の薬が役に立つのなら可能なだけ分け与えるところだ。

しかしハサマが悩んでいるのは、目の前の使節が鬼であるという点だ。

チュリグの国民はみな、鬼が苦手である。

鬼は恐怖の対象であり「見即逃」が鉄則とされている。

ハサマの場合は恐怖というよりも「ちょっとイヤ」くらいのものだが。

しかし国王という立場である以上、他国の使節を無下に扱うこともできない。

なんてメンドクサイ状況だと、ハサマは心の中でため息をついた。

 

「恥ずかしながら、我が国では種族差別が横行しており、不幸な境遇であるばかりに失われるべきでない命が失われています。特に凄惨な状況であるのはアルビダが・・・、っと、失礼致しました」

 

使節が言葉を切ったのは、ハサマがアルビダであるからだ。

白い肌が特徴の妖怪である。

例え遠い異国の地であっても、同種が悲惨な目に遭っている話を聞いて、気分を害さない者はいないだろうという配慮であった。

しかし、それが逆にハサマの興味を引く結果となってしまった。

 

「なに?今なんて言ったの?アルビダがどうしたって?」

 

問い詰められる形で、使節の鬼は説明を余儀なくされた。

キスビットの中では三番目に大きな勢力を誇る都市、ジネ。

そこは鬼が支配する街であり、階級種族差別が存在する。

鬼を頂点とする階級のピラミッドは、その最下層にアルビダを配していた。

奴隷という立場でしか生を許されないアルビダたちは、鬼の気分次第で簡単にその命を摘まれることも日常的だ。

生殺与奪の権を握られたジネのアルビダたちの瞳に活力は無く、ただただ主である鬼の機嫌を損ねないよう、怯えて生きるのだった。

 

「ジネで、アルビダは鬼によって計画的に増やされ、その数も調整されております。まるで家畜のように・・・。我がタミューサ村では、そんなジネからの亡命者を受け入れる活動を行っております。そして・・・」

 

「なにその街。地図から消してこようかな。ちょっと行ってくるよ」

 

使節の言葉を遮って放たれたハサマの言葉は意外なものだった。

キスビットの使節も、ハサマの側近も、呆気にとられて何も言えない。

 

「そこのアルビダ、みんなチュリグの国民にするから」

 

「いや、しかし・・・国王様・・・」

 

別段表情が変わったわけではない。

ハサマは先ほどと同様に、少年とも少女とも思われるあどけない顔をしている。

しかし、その身に纏う雰囲気というのか、オーラというのか、とても口を挟める余地が無い空気を作り出している。

使節の鬼は、説得の方向性を変えた。

 

「恐れながら、国王様。我が主であるタミューサ村の村長、エウスオーファンに謁見の機会を賜りとう存じます。国王様のお力を以ってすれば、ジネどころかキスビットの国ごと海の藻屑となるは必定と心得ておりますが、それはエウスオーファンの望むところではございません。もしお許し頂けるのであれば、私はこれより急ぎ国へ戻り、主を連れて参り・・・」

 

「ハサマが行くよ。うん。すぐ行こう」

 

再び使節の弁を遮ったハサマの言葉は、またも驚愕の内容だった。

 

「だいたいの方角は分かるから、道案内はよろしくね」

 

ハサマは使節の腕を掴み、王宮から出て行く。

こうなったらもう誰にも止められない。

側近たちにも諦めの色が窺える。

 

「じゃあ、留守番よろしく」

 

「あ、あの、国王様・・・?」

 

「ちょっと目が回るから、気をつけて」

 

これから何が起こるのか分からない使節の鬼はただただ狼狽した。

次の瞬間、強烈な風に巻き上げられて、空を、飛んだ。

 

「うわあああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」

 

ゆっくりとボリュームを絞るように遠のく悲鳴を地上で聞く側近たち。

急激な上昇気流に乗って、相当な高度まで噴き上げられたハサマと使節。

いわゆる、竜巻だ。

徐々に上昇速度が弱まり、頂点にまで達した瞬間に訪れる、内臓が浮くような落下の感覚。

だが落ちることは無かった。

上昇のあとは横殴りのジェット気流が二人を押し運んだ。

 

「もう、だらしないなぁ」

 

ハサマは気を失ってしまった使節の腕を掴んだまま、風に乗りキスビットを目指した。

 

 

■メリッサ

 

「あ、あのう・・・」

 

 突然、空から降ってきたメイド服の女性に、船乗りたちは度肝を抜かれた。

どんなに経験の豊富な船乗りも、まさか今日の天気が晴れときどきメイドであるとは読めなかった。

 

「ここは、どこなんでしょうか?」

 

自分の周囲を取り囲む屈強な船乗りたちに、おずおずと尋ねる。

船乗りたちは絶句したまま、彼女を見詰めている。

その視線に、女性はハッと気がついたような所作を見せ、言った。

 

「あ、そうだ、まずはこちらから自己紹介しなきゃですよね!失礼ですよね、ごめんなさい。私はドレスタニアの国王代理のショコラ様の使用人で、メリッサと申します!」

 

ぺこりと頭を下げたメリッサ。

その足元から声がする。

 

「お嬢ちゃん、挨拶も自己紹介も分かったから、まずどいてくれねぇか」

 

数分前のこと。

自国ドレスタニアの海岸沿いで、主であるショコラに贈るための花を摘んでいたメリッサ。

その花を差し出したときの状況を悶々と妄想し、一人で勝手に盛り上がっていた。

 

「これ、どうぞ!」

 

「なんて美しいんだ!そう、花でなく君がね!メリッサ!」

 

「まぁショコラ様!そんな、でも、嬉しい!」

 

「メリッサ!」

 

「ショコラ様!」

 

愉快で哀しい一人芝居は、その残念な脳内を飛び出して徐々に動きを伴い加速していく。

 

「さぁ、僕の胸に飛び込んでおいで!」

 

「ショコラさまぁー!」

 

そして本当に、飛んだ。

フルスロットルの妄想から一瞬で現実に引き戻されるメリッサ。

その、突き付けられた現実は、実に厳しいものだった。

優しく素敵な笑顔のショコラは雲散霧消し、自分を包むのは気味の悪い浮遊感。

 

「きっ、きぁああああぁぁぁぁぁぁーッ!!!(大泣)」

 

飛び込んだ先は断崖絶壁だった。

海に向かって急降下するメリッサ。

 

「ス、スカートがめくれちゃうぅぅぅーッ!!」

 

メリッサよ、気にするところはそこなのかい?

目下、君の露わになったドロワーズを目視できる人なぞ居はしまい。

 

バフッ ボッ ボッ コロン ドスン!

 

絶体絶命のピンチを救ってくれたのは、崖下を航海中の帆船だった。

いっぱいに風を受けた帆に優しく受け止められたメリッサ。

大、中、小の帆布にベストでジャストな角度、タイミング、順番で当たり、最終的には甲板へ、見事なE難度着地を決めた。

 

そして冒頭のやりとりだ。

自分の足元から聞こえた声に驚き、メリッサはぴょこんと一歩うしろに跳ねた。

 

「あ、あなたは誰!?なぜ私の下に居るんです!?」

 

最早ツッコミすら面倒なメリッサのボケに対して、男はため息をついた。

めり込んでしまった顔面の中央を引っ張り出しながら説明してやる。

 

「俺はこの船の船長。たった今まで君の着地の緩衝材だったわけだがな」

 

「カンショウザイというのは、その・・・どういった味のスイーツでしょうか?」

 

船長は話し合いを諦め、一方的に話を進める決断をした。

この娘と、一般的な意志疎通は困難であるという正しい判断だった。

 

「お嬢ちゃんが無賃乗船したこの船は貨物船だ。海運の仕事を請け負って、国から国へ物資の輸送をしている船なんだ。で、俺たちゃ仕事でこの船を動かしてる。気ままな旅行ってワケじゃあないんだ」

 

「お仕事ですね!分かります!ご苦労様です!」

 

「仕事には納期ってモンがある。つまり、この積荷には、届けなきゃならん期日がある。そして現状、期日までギリギリだ。これから一切の寄港も休憩も無しで、キスビットって国に向かう。今はその真っ最中ってワケだ」

 

「大変なんですね!道中お気をつけてくださいね!いってらっしゃい!」

 

船長は、改めて説明を諦めた。

船員の一人にメリッサを船室に案内させ、各自を持ち場に戻らせた。

自分の言葉を反芻する。

仕事なのだ。

遊びではない。

珍客の登場などで配荷を遅らせるわけにはいかない。

 

「全速前進!」

 

メリッサが、船から降りられないことに気がついたのは日が暮れる頃だった。

そろそろお夕食の手配をしに厨房へ行かなくては、と思い立ったメリッサは近場の船員に声を掛け、降船を依頼し、断られ、愕然とした。

 

「ガ、ガ、ガーナ様に・・・また怒られてしまう・・・」

 

しかしどんなに焦っても困っても泣いても喚いても、船はただ進むのだった。

あまりにもメソメソシクシク泣き続けるメリッサに、船長から無茶苦茶な提案があった。

 

「お嬢ちゃん、その、なんだ、ほら。この船はキスビットに向かってるわけで、お嬢ちゃんもそこに用事があったことにしちまえば良いんじゃないか?買い物でも何でも良い。無事に帰って、買い物に行ってましたって報告すりゃ、収まるんじゃねぇのか?」

 

自分の発言とはいえ、こんな馬鹿な話は無い。

こんな残念な小娘とは言え、王付きの使用人という言が誠であれば、勝手に連絡も無く何日もその任を空けて許されるはずがない。

しかし。

 

「わぁ!船長さんすごいですね!そのアイデア、頂きですッ☆」

 

頂かれた。

メリッサを泣きやませることに成功した船長とその一行、そして積荷とメリッサは、キスビットを目指してどんぶらこっこと進むのであった。