『かなり』

干支に入れてよ猫

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マラソンという名のドラマ ~自分視点~

あけましておめでとうございます、坂津です。

昨日はマラソン大会でした。

私がエントリーしたのは、たかだか10kmの短小コース。

コミケ会場でウロウロする距離を考えればワケないハズでした。

しかし上記のエントリでも書いているのですが、私には10kmという距離は身に余るロードオブザロングなのです。

日々甘やかされてきた私のワガママボディにとっては過酷な試練。

また、私は長年苦楽を共にしてきた親友とも呼ぶべき、通称「膝の爆弾」を装備しており、このマラソン中に炸裂しないことを、ただ祈るばかりなのでありました。

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それに加え、大会の前日に小さな事件が起きました。

大会概要には「ゼッケンの当日引換は混雑が予想されるので、できるだけ前日引換を」と明記されており、私はそれに従いました。

当然、前日と言えどもやはり引換所の周辺は混雑が予測されるので、私は自転車で現地を目指すことにしました。

この判断が、私をあんなにも苦しめることになろうとは、このときの私には知るよしもないことでした。

私が自転車に乗るのは、もうかれこれ7~8年ぶりです。

果たして転ばずに乗れるのかすら怪しまれましたが、そこは昔とった杵柄、雀百まで踊り忘れずと申します。

心配していたのは頭だけで、身体の方はしっかりとバランスの取り方を覚えておりました。

漕げる、漕げるぞ!

私は自転車を買ってもらったばかりの子供のようにはしゃぎ、自転車だけでなく調子にも乗ってしまい、立ち漕ぎや手放し運転などに興じました。

そしてゼッケンを受理して帰宅したときには、見事に股関節を痛めていたのです。

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そんな私に、妻は素晴らしいアドバイスをくれました。

私の予測では激オコであるはずの妻が、私の身を案じて策を授けてくれました。

「You 身体の痛みなんて、お酒で消しちゃいなYO」

なぜ私が、妻が激オコになると予測したのかは上記のエントリでご確認ください。

簡単に言えば、「私がずっと“ガンダム面白いから観なよ”と勧めていたにも関わらず、妻が観て“本当に面白かった”と報告をくれたのに実は私はガンダムを観たことが無かった」という【勧めたのに観てない事変】があったからです。

妻いわく「いや、観てないだろうなって思ってたよ」だそうで。

一体どこまで勘のスルドイキャラなのでしょうか。

「そんなことはいいから、さぁ、呑もうぜ旦那」

一体どこまで懐の広いキャラなのか。

というわけで、股関節の痛みを消すために、焼酎と日本酒をちゃんぽんしながら、銀魂蓮舫編を観ました。

そんな酒宴で股関節の痛みを忘れ、私はマラソン前日の夜を楽しく過ごしました。

そして当日の朝。

股関節の痛みは完全に復活していました。

それに加えて二日酔いの頭痛と吐き気が加わっています。

 

「よし、休もう」

 

私は一大決心をしました。

自らが招いた体調不良とは言え、さすがに走れるコンディションではありません。

しかし。

私は見てしまったのです。

寝室の片隅に用意されていた、膝のサポーターとランニング用の靴下を。

就寝前、私と共に泥酔していたはずの妻が、用意してくれていたのでした。

これはもう、休むわけにはいきません。

一体どこまで心遣いのできるキャラなのか。

私は妻が用意してくれたサポーターを装着し、ズキズキと拍動性の痛みを訴える頭を持ち上げ、歩くたびにピリッとした痛みを訴える股関節を庇い、こみ上げてくる胃液を抑えつつ、マラソン大会会場に向かいました。

 

さて、ランナーが各自のウェアに装着しているゼッケン番号は、基本的には申し込み順で割り振られていく仕組みのようです。

実は私は密かに「いやぁ、申し込みをするのが遅くなっちゃって、まさか定員オーバーになっているとは思わなかったよ。本当は走りたかったの残念だなぁ」作戦を狙っておりました。

しかし運良く申し込みは普通に受理されました。

なのでゼッケンの番号はかなり後の方です。

会場にはすでに私の会社の連中が集まっていました。

総勢12名の身内ランナーたち。

そのうち8名が、私よりも数字の大きいゼッケンを付けていました。

クソ野郎どもめ。

 

ラソンに参加したことの無い方の為にお知らせしますが、大人数が一斉にスタートするマラソン大会では、走る時間の早さに自信のある人ほど、スタートラインに近い位置からスタートします。

そういう仕組みですので、当然ながら私はほぼ最後尾からのスタートとなります。

合図とともに一斉に動き出すランナーの塊、略してラー塊。

私がスタートラインに到達したのは、先頭ランナーが走りだしてから3分後のことでした。

徐々にではありますが、ラー塊は縦に長く伸び、私の周囲の人口密度も低くなっていきます。

ようやく自分のペースで走れるぜ。

まず自分の意識から周囲のランナーを削除します。

自分のペースを守るため、他の人に惑わされてはいけません。

女性ランナーも多いため、目のやり場に困ることもあります。

 

ラソンは自分との戦いです。

私は頭痛のズキズキという感覚と走る歩幅を合わせます。

ズキズキタンタンズキタンタン

ズキズキタンタンズキタンタン

ズキタンズキタンズキタンタン

ズキズキズキズキタッタンズキズキタッタン

刻むぜ頭痛のビート。

そして上記のタンタン部分にはピリッという股関節からのパーカッションが加わっていることも忘れてはいけません。

頭痛と股関節痛と地面を蹴るリズム。

こんな三重奏は生まれて初めてです。

私の呼吸は乱れ、すでに大量の汗をかいています。

このときの気温は4度くらい。

本来であれば肌寒さを感じる温度であるにも関わらず、私は汗だくです。

アルコール分を大量に含んだ呼気を撒き散らし、周囲のランナーに多大なる迷惑を掛けながら、私は魔の三重奏をかなで続けます。

 

皆さんはランナーズハイという言葉をご存知でしょうか?

私は知りません。

走ってると何か気持ち良くなるんですかね?

変態ですね。

と、今までは思っていたのです。

私は今回のマラソンで、このランナーズハイの片鱗を味わいました。

なんと、先ほどまで演奏されていたはずの悪魔の三重奏がふいに終了したのです。

もうズキズキもピリッも無く、あるのは私の足がアスファルトを蹴るタンタンだけなのです。

これは、これがあの・・・。

歩道でランナー達を応援している人たちから見たら、きっと私はすんごい笑顔をしていたことでしょう。

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しかしこのランナーズハイという現象は長続きしませんでした。

沿道に立てられた看板を見た瞬間に、現実に引き戻されたのです。

『1km地点』

私はまだ道のりの10分の1しか走破していなかったらしい。

人生を80年と考えれば、まだ私は8歳ということです。

ようやく小学2年生になった私は、これから小学校を卒業し、中学校に入学し、中2病を患い、淡い恋も患い、高校生になり変人っぷりに磨きをかけ、大学時代には多くの黒歴史を産み出します。

長い。

ゴールまでの距離が圧倒的に長い。

こんなことで果たして私は完走できるのだろうか・・・。

 

幸運なことに、私は二度目のランナーズハイ、略してライを体験します。

きっとこれは本当のランナーズハイじゃないので、ライで充分です。

しかしいくらか楽な気持ちになったのは本当です。

このライ状態をなるべく長く継続することが、完走への唯一の道だと信じて足を進めました。

今自分がライ状態だと認識すると、だんだんテンションが上がってきます。

頭痛も股関節痛も和らいでいます。

膝の爆弾も炸裂していません。

なんだか体も軽くなったような気がします。

さらに幸運なことに、最初の給水所が見えてきたのです。

ここは5km地点。

人生で言えば40歳。

実年齢を追い越しました。

で、よく考えたら私は二日酔い。

通常よりも多くの水分が必要なコンディションなのです。

これは有り難い。

私は足を止め、折りたた式の机に置かれた紙コップに手を伸ばします。

なんだ、すごくちょっとしか入ってないな。

これじゃ私の乾いた身体と心は潤わないよ。

続けて2杯目のコップに手を伸ばします。

あれ?さっきのは水だったけど、こっちのはスポーツドリンクじゃないか!

なんだ、色んな味があるのか?

じゃあこっちは?あ、水か。

おいおい、バナナもあるじゃないか!有り難い!

うお、クリームパンも置いてある!

疲労困憊の体に沁み渡ります。

モグモグごっくんグビごっくん

 

そしてお腹いっぱいになった私は、またゴールを目指して走り始めました。

 

あれ・・・体が・・・重い・・・。

さっきまで軽いと感じていた羽毛のようなライトボディが、いつの間にか鉛のようなヘビーボディに豹変しているではありませんか!

もうライ状態もありません。

すでにタンタンではなくボテボテになった足取り。

クリームパン2個とバナナ1本、紙コップ4杯分の水分の重量だけでこんなにも体が重くなるはずがありません。

きっと何か憑いてしまたに違いない。

私は心の中でお経を唱えながら必死に走り歩きます。

8km地点の看板が見えました。

人生で言えば64歳。

まだ年金はもらえません。

せめて、せめて年金を受給するまではお経を唱え続けなければ。

 

自分がどうやってゴールしたのか、正直あまり覚えていません。

ゴールラインの内側に倒れ込むように倒れ込み、全身で呼吸をしました。

紆余曲折ありましたが、私はなんとか10kmを走破できたのです。

1時間6分33秒。

体感的には4週間くらい走っていた気分でしたが、どういうわけか実世界では1時間くらいしか経っていませんでした。

これが相対性理論というやつでしょうか。

高速で動く物体は時間が遅くなるとかなんとか。

 

膝の爆弾が炸裂したのは、ゴールの後でした。

そのお話はまた次回。