『かなり』

干支に入れてよ猫

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一方的に縁を切った

あけましておめでとうございます、坂津です。

既に絶交した相手のことを何と呼べばいいのか、難しいですね。

昔は友人関係だったので「元友人」でしょうか。

ただ例え「元」を冠したとしても「友」という字を使いたくないので、とりあえずこの記事では「奴」と呼びますね。

復縁はありません。

切れた紐は戻りません。

結び直されることも無いのです。

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奴とは元々、小学校から一緒でした。

中学校も同じ。

高校は別々でしたが付き合いは切れませんでした。

私は大学へ進学、奴は上京という期間でも、同様でした。

 

昔から愚痴っぽい奴でした。

ろくに友達も作らず、世間を忌み嫌って生きている暗い奴でした。

それでも、真面目でした。

ねじ曲がっているのは根性だけで、社会のルールやマナーはきちんと守る奴でした。

逆にそれを楯に、違反者に対してブチギレる奴でした。

そのブチギレ方が厄介でした。

ぼそぼそと口の中だけで過激な言葉を紡ぐのです。

 

奴「あんな奴は死ぬべきだ。いや殺してやる。今すぐ殺してやる」

私「良いね!どーやって殺る?」

奴「二度と唾を吐けないように口にシリカゲルを詰め込んでアロンαで塞いでやろうか」

私「その発想は無かったwそりゃもう唾吐けんわなwww」

奴「その上で縫ってやる。唇を縫い付けてやる」

私「うっわ、痛そう。で?シリカゲル買いに行く?」

奴「・・・。」

 

毎回こんな感じでした。

ちょっと毒を吐いて、私が適当に相槌を打って、それでお仕舞い。

私と居ないときは誰が諌めているのか、そもそも愚痴らないのか、そんなことは知りません。

とにかくメンドクサイ奴でした。

 

それでも嫌いでは無かったなぁ。

趣味の守備範囲が似てたし、お絵描きスキルはすごいと思ってたし、造形技術は尊敬してたし、上京した行動力には感服してたし。

私はやつの事を「私の反対側」だと思っていたフシがあります。

ちょっと環境が違えば、私がそうなっていてもおかしくないような存在。

アウトプットのプロセスが違うだけで、中身は同じかもしれないと思うような存在。

奴も少なからず私にそんなシンパシーを感じてくれているだろうとも思ってました。

だから腐れ縁が続いていたのかも。

 

ただ、それだからこそ許せないこともあるんです。

 

奴は私に「死ぬ死ぬ詐欺」を働きました。

元々ネガティブだったので、マイナス思考をこじらせたのでしょう。

奴から電話がかかってきました。

 

奴「あー死にたい。あいつらを皆殺しにして死にたい」

私「まず効率良くミナゴロせる方法を考えななぁ」

奴「いや、もういいや。あいつらはいいから、死にたい」

私「何言ってんの?w」

奴「この世に楽しいことなんか何も無い。俺に価値も無い。死にたい」

私「おいおいおいどうした、今日はいつにも増してダークサイドだな」

奴「嫌なことしか無いのになんでみんな生きてんのか分からん」

私「OK。分かった。私にできることは?」

奴「介錯をたのむ」

私「余計に苦しむことになると思うぞ?」

奴「冗談だ」

私「だろうよ」

奴「ちゃんと一人で死ねるから安心しろ」

私「冗談無しな。それマジで言ってんのか?」

奴「マジだ。割と準備はできてる」

私「準備って?」

奴「遺書も書いたし、丈夫なロープも用意した」

私「それは部屋が汚れるからやめとけって」

奴「これも色々考えての選択。他よりマシ」

私「本気で言ってるなら、私もそろそろ本気で止めるぞ?」

 

私は携帯を持ったまま部屋を出ました。

 

奴「もういいよ。お前は良いよな、色々恵まれてて」

私「お前には私がそう見えるってことだな。ってことは逆もあるぞ」

奴「大学出て就職して彼女も居て、幸せだろ?」

私「ああ、私は果報者だ」

奴「俺は就職に失敗して仕事はバイトの延長、彼女も居ないし夢も無い」

私「お前、彼女が欲しかったのか?」

奴「そりゃま人並みには」

私「彼女って、自動的にはできないぞ?」

奴「だろうな。知ってるよ」

私「どうせ“努力してまで欲しくない”だろ?」

奴「そうだな」

私「あと就職も、上京して専門学校に入学した時点からその道は諦めてたろ?」

奴「ああ、俺には向いてないって知るために行ったんだ」

私「掴もうとしてない物を掴めないのは、自殺の理由にならんぞ?」

奴「何に対してもやる気が起きんのよ」

私「確かにそういう時はある」

奴「それの究極だと思ってくれ。生きる気力も湧かんのだ」

 

bluetoothなんて出回っていない時代ですから、携帯端末にマイク付きイヤホンを差し込みます。

 

私「じゃあ死ぬ気力も湧かすなよ。部屋で体操座りでもしてろ」

奴「ひどいな。俺じゃ無かったら死んでるぞ」

私「てことはひとまず安心して良いんだな」

奴「“いつもの”俺じゃ無かったらな」

私「てことは私のとどめの一言でお前は死ぬのか?」

奴「そうなるな」

私「冗談じゃないぞ。死ぬなら私を巻き込まずにやれよ。何で電話してきた」

奴「一応、報告しといた方が良いと思って」

私「待て待て勘弁してくれ。マジでやめろ」

奴「嫌な思いをさせたなら悪かったよ。俺が死ぬのはお前のせいじゃない」

私「今お前が死んだら確実に私のせいだろが」

奴「俺が違うって言ってんだから違うんだよ」

私「お前のことなんか知るか!私がそう思うんだからそうなんだよ!」

奴「じゃあそれでも良いよ。お前のせいで俺は死ぬ」

 

奴の家まであと30分。

 

私「何ひとつ良くないだろ!ホント自分勝手だなお前」

奴「良いじゃん。言葉で人を殺した男として生きろよ」

私「それなら逆が良いぞ。言葉で命を救った男が良い」

奴「なにそれキモい」

私「うるさいな、いいだろ別に。私の為に生きろよ」

奴「なにそれもっとキモい」

私「私の真のキモさはこんなもんじゃないぞ」

奴「じゃあそれは知らないまま逝くわ」

私「そりゃないだろ知れよ。興味を持てよ」

奴「大体な、俺が死ぬのに明確な理由なんて無いんだよ」

私「明確な理由が無いから止められん、と言いたいのか?」

奴「そ。解消すべき原因が無いから、どうにもならんのよ」

私「仕事も彼女も夢も、取って付けたソレっぽい理由ってことか」

奴「マイナス要素が在って結果的に辿り着く自殺じゃないからな」

私「じゃあ何で死にたい?」

奴「お前は何で生きたい?」

私「人生は楽しい!」

奴「お前は死んだことが無いからだろ。死ぬのだって楽しいぜ」

私「お前だって無いだろ、死んだことなんて」

奴「いや、途中まではあるよ」

 

あと20分。

 

私「は?臨死体験でもしたってか?」

奴「そ。昨日だったか、ちょっと試しに吊ってみたんだよ」

私「待て待て待てなんだそれ」

奴「クローゼットの取手にロープ掛けて、その真下に座るんだよ」

奴「ちょうどケツが床に着かない程度の長さで輪っかを作ってな」

奴「少し首が痛いけど、意識が遠のくのがやたら気持ち良いんだ」

奴「結果的にクローゼットの取手が体重を支えられなくて壊れた」

私「やめろ」

奴「人間って意外と撥ねるのな。あれが痙攣ってやつなんだろう」

私「やめろって」

奴「意識とは無関係に動く体を俯瞰で見てる感じが良いんだよな」

私「やめろって言ってるだろ」

奴「あとお前さ、俺んちに向かってるだろ?」

私「・・・おお」

 

あと15分。

 

奴「俺が家に居ると思った?」

私「どこに居んだよ」

奴「言わねーよ。あぁ、でも死体が見つからないのも困るな」

私「だったらすぐ帰れよ。とりあえず何か食おう」

奴「食うって生きるための行為だろ。俺にはもう必要ないな」

私「逆だ逆。どうせ死ぬなら最後に私と飯を食え」

奴「しつこいねお前も」

私「それを知らないお前じゃないだろ」

奴「そーいやそーだったな」

私「電話してきたお前のミスだぞ」

奴「ああ、最後の最後で致命的なミスだ」

私「そうだ。命に到ると書いて致命的だ。生きろ」

奴「お前だってピザとパスタどっちにするか選ぶだろ?」

私「は?何だよ急に」

奴「両方は選べない。どっちかだ」

私「お前、ピザとパスタと生と死を一緒にすんなよ」

奴「これは単なる2択問題だ」

私「確実に不正解が分かり切った2択な」

奴「それはお前の常識だろ」

私「ああ、そうだ」

 

私はまだ奴の家に向かっていました。

あと5分。

 

正直なところ、こんなのを相手にするのがちょっと疲れてきていました。

実は似たような展開が、これでもう4度目なのです。

私の仏の顔はすでに完売品切れだったのです。

毎回「もし本当だったらえらいこっちゃ」と思って真面目に止めていました。

 

奴「自分の考えを人に押し付けるのは良くないぞ」

私「この件に関しては全面的に私に従え」

奴「どんだけ自己中なんだ」

私「お前の“死ぬ理由”に勝る“生きる理由”を見付けようじゃないか」

奴「どこ捜したって無ぇんだよそんなもん」

私「だからお前の目はフシアナなんだ」

奴「フシアナだから見え無ぇんだろ。見え無ぇモンは存在しないってのと同じさ」

私「代わりに私が探してやるから有り難く思えよ」

奴「有り難迷惑って言葉を知らんのか」

私「お前こそ自殺ダメゼッタイって言葉を知らんのか」

奴「知らんね」

私「じゃあ私も知らん」

奴「・・・まぁ、お前なら止めてくれると思ってたよ」

私「だからご期待に添うべく努力してるだろうが」

奴「ありがとな」

私「なにそれキモい」

奴「ひどいな」

私「私がさっきお前に言われた言葉だぞ」

奴「そりゃすまんね」

 

到着。

奴の家ではなく、奴の部屋が見える公園に到着しました。

山を切り開いて作られた団地ということで、場所によっては公園の滑り台の上から部屋が丸見えの家が結構ありました。

もちろん普通の家はカーテンを引いているので中までは見えません。

明かりが点いているかどうかの確認だけでもできれば良かったのです。

しかし、奴の部屋のカーテンは開いていました。

奴がパソコンに向かってマウスを操作しながら私と電話している姿が見えました。

 

私「死に場所の検索でもしてるのか?」

奴「ん?なんで?」

私「パソコン触ってるだろ?」

奴「マジか。クリック音が聞こえた?」

私「そんなところだ。家に居るんだろ?」

 

奴は私が直接見ているとは思っていないようです。

 

奴「いや、ネカフェだよ」

私「どこのだよ。迎えに行くから場所言え」

奴「だからもう放っとけよ」

私「なぁ、お前が私に死ぬ死ぬ言って、結局死なないってのは何度目だ?」

奴「数えきれんね」

私「過去3回だよ。んでこれが4回目」

奴「よく数えてんな」

私「当たり前だろ。こっちは真剣なんだ」

奴「失敬だな。俺だって毎回真剣だぞ」

 

奴は椅子から立ち上がり、テレビに向かってベッドに腰掛けました。

さすがにテレビ画面の内容までは判別できませんが、奴が片手にゲームコントローラーらしきものを持ったので、何かのゲームであろうと推測できました。

恐らくは2~3の操作で何かを確認したんだと思います。

放置ゲーのステータスかな。

そしてまたパソコンに向かって座りました。

 

私「どっちが真剣か比べてみようか」

奴「そういう曖昧なものの数値化ができりゃ良いのにな」

私「数値化できなくてもデカい差がありゃ分かるだろ」

奴「俺とお前の真剣さにそんな差があるかね」

 

私は滑り台から降りて車に向かいます。

 

私「たぶんあると思うぞ」

 

思いっきりクラクションを鳴らしました。

私の耳に直接聞こえる音と、携帯の向こう側から聞こえる音に少しだけズレがありました。

念のため3回、ブー!ブー!ブー!

ご近所の方には夜中の騒音が申し訳ないとは思いましたが。

奴にも「通話中の携帯からの音」と「家の近所から聞こえる音」が耳に入ったはずです。

 

私「届いたか?」

奴「・・・」

私「申し開きは?」

奴「・・・」

私「カーテン開けっ放しだと公園から丸見えだぞ」

奴「・・・」

 

窓際に立ったであろう奴に分かるよう、2回パッシングをしました。

 

私「お前のこの遊びにどれだけの意味があるのか知らんけど」

私「都合4回とも、私は本気だった」

私「別にからかわれても構わんし、甘えられたって構わん」

私「騙されたって馬鹿にされたって構わんよ」

私「だけどお前はそれをやるために毎回毎回、自分を人質にした」

私「もうこれ以上お前に付き合うのはしんどい」

私「私は死んだと思ってくれ」

私「絶交だ」

奴「いや、ちょ・・・」

私「お前にとって、私はもう存在しない」

私「私にとってもお前は存在しない」

私「はい、消えたー」

 

私は一方的に言い放ち、通話を切りました。

それからどれだけ着信があっても無視。

メールも開封しませんでした。

数日後には携帯番号を変え、メールアドレスも変えました。

引っ越し先の住所はもちろん、転職も結婚も何も知らせていません。

友達の居ない奴には他から情報が流れることもありません。

 

ただひとつ、私の実家だけは動かすことができません。

奴が実家に来て私の両親に何か言ってくるかもしれません。

そうしたら会わざるを得ないでしょう。

しかし奴は来ませんでした。

次の正月、奴からの年賀状が実家に届きました。

両親から連絡がありましたが、処分してもらいました。

翌年も、年賀状が届きました。

これも処分してもらいました。

何と書いてあったのか知らないですし知りたくもありません。

もちろん私からは出していません。

次の年から年賀状も来なくなりました。

 

私は自分で自分の事を頑固者だと思います。

やり過ぎと言うか、酷い仕打ちをしたという自覚はあります。

でももう決めたことなので動かしません。

絶交は絶対です。

 

もうすっかり奴の事など忘れていました。

この記事を書いたのは、偶然奴を見かけたからです。

 

派手な痛車だなぁと思って何気なく視線を向けた運転席に、奴が居たのです。

なんだ、生きてたのか。

しかもなんだか楽しそうじゃないか。

そのボンネットのミクさんはお前が描いたのか?

当時よりずいぶん上達してるけど、瞳の描き方は変わらんな。

どうせ車内で鳴り響いてるのはアニソンだろう?

 

私はまた奴の存在を私の中から消さねばなりません。

時間がかかるんだよなぁ、忘れるのって。