初めて彼を、私の部屋に招いた。
昨日からすごく頑張って片付けた部屋は、割と女の子らしい、可愛い感じの部屋になったと思う。
別にいつも散らかしてるわけじゃないけど、かなり神経質な彼だからいつもよりも気合いを入れて掃除をした。
それにしても自分の部屋に異性を招くことが、こんなにも緊張することだなんて。
彼も緊張してるみたいで、さっきから会話も上の空なのがよく分かる。
さっきから生返事ばっかり。
外で会うときは普通でいられるけど、部屋に2人きりっていうのが新鮮だし、なんだか気恥ずかしい。
いつもより沈黙が長くて、何を話したらいいのかわからなくなっちゃう。
2人とも黙ってうつむいたままの状態が続いて、ちょっと話して、また黙る。
少し気まずくて、チラッと彼の方を見た。
そしたら彼も私の方を、というよりも、私の胸元を見ていたの。
私の視線に気付いた彼は慌ててうつむいた。
・・・やっぱり、こーゆー状況だとそーゆーコト、意識するのかな。
ちょっと怖くて、不安で、でもほんの少し期待してるような、自分でもよくわからない気持ちになる。
外はまだ肌寒くて、部屋には暖房を入れてたんだけど、利きすぎかな?
緊張のせいかな?
暑くなってきちゃった。
顔が赤くなるのが自分でも分かる。
「ちょっと暑いね。エアコン切る?」
会話が続きそうにない話題だけど、沈黙よりマシだと思って彼に言う。
そしたら突然彼が私の手をサッと握って早口で言ったの。
「じゃあセーター脱げば!?」
大きな声で興奮気味だった。
「べ、別に脱がなくてもエアコン切るから大丈夫!」
私はびっくりしちゃって、彼の手を振りほどくようにして机の上のリモコンでエアコンを切った。
気まずいムード・・・。
彼は短く、そう、とだけ言って俯いてしまった。
「の、喉かわいたね!コーヒーでも持ってくるよ」
私は重い空気に耐えられなくなってキッチンに逃げた。
彼はちょっとイライラしてるみたいに見えた。
私が中途半端だから?
部屋に呼んだらイコールそーゆーこと・・・なのかな・・・。
覚悟を決められないまま、コーヒーを持って彼の隣に行くけど、さっきより離れて座っちゃった。
「あのさ・・・」
彼がふいに言った。
「俺、ずっと我慢してたんだけど、お前の・・・」
そこまで言った彼の言葉を、私は遮った。
「ダメ!・・・ごめん、まだちょっと・・・」
「まだって何だよ!?いつなら良いって言うんだっ」
「わかんないよっ!だけど今はなんか怖いってゆーか・・・」
「怖いことなんかないって!大丈夫!俺がちゃんとしてやるから!」
そう言いながら彼は、私の腕を万歳の格好にしながら左手で私の両手首を押さえ、セーターの裾に手を掛けた。
すごい力。
これが男の人の本気なんだ。
私の力じゃぜんぜん敵わない。
「いや!こんなの嫌だ!」
「お前が悪いんだぞ!俺もう我慢できないよ!」
そう言って彼は、嫌がる私から器用にセーターを脱がせた。
私は全力で暴れているつもりなのに、びくともしない。
「ダメーっ!な、何の準備もしてない・・・」
「大丈夫!来るとき買ってきたから!」
そう言えば家に来る前にドラッグストアに寄って買い物をしたな、と思い出した。
彼はもう、ずっとそのつもりだったんだ。
好きなら当たり前、なのかな。
そうだと、思う。
私は涙を浮かべて覚悟を決めた。
「優しく・・・してね・・・」
目を閉じると彼は私の耳元で囁く。
「当たり前じゃないか。絶対に傷つけたりしないから」
そう言ってそっと私の上から離れる彼。
まだ怖くて目を開けられないでいる私の足元で、彼が何かごそごそしてる気配がする。
こういう状況だと、時間が経つのがとても遅く感じる。
それでも、長い気がする。
1分くらい経ったように思うけど、彼は私に触れもしない。
あれ?
どうしたんだろう?
ゆっくり目をあけると彼は私のセーターを持って毛玉を取っていた。
「もう今朝からずっと気になってたんだよ。ここ、ほら、ミートソースかな?大丈夫、セーターを傷めるようなことは絶対しないから」
彼は笑顔で私に言いながら、セーターの胸辺りを私に見せた。
確かにオレンジ色のシミがついている。
そして彼は持ってきた買い物袋の中から、ウールマーク用の洗剤と洗濯ネットを取り出した。