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『かなり』

私が感じる「かなり」なことを徒然に。

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心よ原始に戻れ

これは小説です。

『Parallel Factor Cultivate Server パラレルファクター・カルティベイトサーバー』略して【PFCS】の世界観をお借りしております。

pfcs.hatenadiary.jp

そして、PFCSに参加されている皆様のキャラクターもお借りしてます。

下記の話の続きとなっております。

1.キャラクターとショートストーリー

2.【上】それぞれのプロローグ

3.【中】それぞれのプロローグ

4.【下】それぞれのプロローグ

5.【前】それぞれの入国

6.【後】それぞれの入国

7.集結の園へ

 

キャラクターをお貸し頂いた皆様、本当にありがとうございます。

所属国 種族 性別 名前 特徴 創造主
ドレスタニア(近海) 女性 紫電 ナイーブ 長田克樹 (id:nagatakatsuki)
ドレスタニア 人間 女性 メリッサ ドジっ娘 長田克樹 (id:nagatakatsuki)
チュリグ アルビダ 無性 ハサマ 激強 ハヅキクトゥルフ初心者
奏山県(ワコク) 人間 男性 町田 アスミラブ ねずじょうじ(id:nezuzyouzi)
奏山県(ワコク) 人間 女性 アスミ 町田ラブ ねずじょうじ(id:nezuzyouzi)
コードティラル神聖王国 人間 男性 クォル・ラ・ディマ 軽妙 らん (id:yourin_chi)
コードティラル神聖王国 人間 女性 ラミリア・パ・ドゥ 姐さん らん (id:yourin_chi)
ライスランド 精霊 男性 カウンチュド お米の伝道師 お米ヤロー (id:yaki295han)
メユネッズ 精霊 男性 ダン 真面目 たなかあきら (id:t-akr125)
カルマポリス アルビダ 女性 ルビネル 黒髪百合 フール (id:TheFool199485)

 

もう8本目かぁ。

加筆修正して長い長い1本にまとめようかな。

 

 

 

 

 

 

■村長の願い

 

一同が船から降りると、まるでウロコが剥がれるようにキラキラと輸送船の外観がめくられ、花吹雪のような光景となった。

剥がれた外観は淡い光を伴って空中に溶け、代わりに現れたのはなんど粘土製の船だった。

ダクタスの呪詛、物の見た目を変型させる能力が解除されたのだ。

 

「今まで乗ってた船って粘土製だったの?怖っ!」

 

この光景を見て、ラミリアが声を上げた。

確かに泥の船という言葉もあるくらい、それは信頼性に乏しいものだ。

今もこうして水に浮いているのが不思議なほどである。

 

「怖くないですよヒドイなぁ」

 

そう言いながら、最後に船から降りてきた人影が二つ。

一人は細身で長身の男性型アルファだ。

辛うじて顔面部分には皮膚コーティングが施されているが、その他のボディは金属の外装が剥き出しである。

もう一人は小柄な精霊の男。

尖った耳と切れ長な目、整った顔だちではあるが、どこか軽薄そうな印象もある。

 

「えーっと・・・誰?」

 

船上で自己紹介をされたのはダクタスとアウレイスだけだった。

ラミリアは思い出そうとするのをやめ、素直に聞いた。

 

「ボクはキスビット人のオジュサです。土の造形魔法が得意で・・・」

 

まず小柄な精霊が名乗り、そして何事か口の中で呟くと、背後に停泊いしていた船があっという間に土の山と化した。

町田とアスミが感嘆の声をあげた。

オジュサは少し得意そうな表情で、更に続ける。

 

「こっちはアルファ。名前は無いのでみんなアルファって呼んでます」

 

オジュサの紹介に、無言のまま軽く会釈だけしたアルファ。

どうやら船の造形をオジュサが担当し、見た目の装飾をダクタスが行っていたらしい。

そしてその船を操縦していたのがこのアルファというわけだ。

 

「では皆さん、こちらへ」

 

ダクタスに促され、それぞれ四台の馬車に分乗し、間も無く村が見えてきた。

ひと際大きな屋敷がひとつだけある。

タミューサ村のほぼ中心部に位置するこの屋敷は、村長の居住場所であると同時に村の会合などを行う場所でもあった。

一階は大部分が広間となっており、そこに皆が集められた。

二人でゆったり使える大きさのテーブルがぐるりと長方形に並べられており、特に席を指定されることも無かったため思い思いの場所に座っている。

広間の最奥部にはエウスオーファンが座している。

テーブルに両肘をつき、組んだ指で口元を隠すような姿勢のまま一同を見渡した。

そのエウスから最も遠い位置に居るのは紫電だった。

不機嫌そうな表情で腕を組み、足も組んでいる。

紫電はエウスの態度が気に入らなかった。

余裕のある態度、大物感。

評価していない相手からそういうものを出されると苛立ちが先に立ってしまう。

奴の態度を裏打ちする能力が知りたい。

それが無ければ単に偉そうなだけのオヤジである。

確かダンが、このエウスオーファンに「大きな夢がある」とか言っていた。

この村の奴らも心酔しているように見える。

いっそのこと殴り合いでもすれば手っ取り早く相手の力量が分かるのだが、しかしいきなり襲いかかる訳にもいかない。

どうやって化けの皮を剥がしてやろうかと考えるが、元々口を動かすタイプではないので考えても良策は浮かばない。

 

「最初に何か言いたいのは、海賊のお嬢さんかな?」

 

ふいにエウスが口を開いた。

皆の視線が紫電に集まる。

やろうとしていたことを、自分がやるより先に人から促されることほど腹立たしいことも無い。

紫電乱暴に立ちあがった。

派手な音と共に椅子が倒れる。

しかし壊れてはいないようだ。

丈夫な造りなのか紫電が加減をしたのか。

 

「今はっきり分かったぜ」

 

ドカドカとエウスオーファンに歩み寄る紫電

自分が座っている椅子を机側に詰め、通路を広く取る町田とアスミ。

隣のハサマは微動だにしない。

 

「オレはあんたにムカついてたんだ!断じて恋じゃねぇ!」

 

やってしまった。

完全に口が滑った。

紫電は耳まで真っ赤になりながら、どうにかこの場を切りぬけようと頭をフル回転させた。

しかし上手い言い訳が出て来ない。

これはもう勢いで押し切るしか・・・。

テーブルを叩き壊しでもするか?

 

「いや、無人島では大変失礼した。訓練中だったのでな」

 

エウスの方から話を逸らしてくれた。

この流れを逃す手は無い。

 

「そうだ、あの時から気に入らなかったんだよ、あんたのその余裕ヅラがな」

 

そう、エウスオーファンが持つ独特の余裕感について聞かねば。

あの時は目隠しをしていた。

今は発言する前に自分を指名した。

何でも見透かされているような感じがして鼻につく。

 

「私は・・・そうだな」

 

ふぅと息を吐き、エウスオーファンは立ちあがった。

それを見て紫電は手近な椅子にどっかりと腰を降ろす。

 

「皆を信頼したことの証に、私の事を話そうか」

 

そしてエウスオーファンの、簡単な自己紹介が始まった。

種族差別が横行するこのキスビットという国を、老若男女も種族も関係なく平和に暮らせる国に変えたいと願っていること。

そのためにまず、このタミューサ村を拓いたこと。

現在はこの村に少しずつ人を増やし、力を蓄えている最中であること。

しかし人口の割に能力者、つまり戦闘に参加できる人数が極端に少ないこと。

そして自分の能力のこと。

 

「私は人よりも少々、嗅覚が鋭くてね。相手の感情や意識の状態なども嗅ぎ分けることができる。特に、信頼に足る相手かどうかの嗅ぎ分けは得意だと自負している。ただし、物理的な距離が遠ければ精度は落ちるがね」

 

そう言って、視線をカウンチュドに向ける。

 

「カウンチュド、と言ったかな。我慢は良くない。ダクタス、案内してやってくれ」

 

促されたカウンチュドはすっと立ち上がり、エウスを見据える。

 

「どうやら相手の状態が分かると言うのは本当らしいな。俺の膀胱は破裂寸前だったが、よくぞ見抜いてくれた」

 

いそいそと広間を出るカウンチュド。

どの程度まで詳細に把握できるのかは分からないが、確かに強力な能力であることは認識された。

エウスは更に続ける。

 

「そしてこの嗅覚と合わせて使う、私の唯一の攻撃法が、意識の隙間を衝くダガーの投擲だ。馬鹿の一つ覚えでね、これしかできん」

 

エウス曰く、どんな達人であれ一般人であれ、必ず意識の隙間というものは存在するらしい。

本人がどれだけ集中していると思っていても絶対に隙はある、とエウスは言い切った。

言葉で説明するよりも実際に見てもらった方が早い、と言いながら、クォルが指名される。

 

「すまないが、付き合ってくれるかね?クォル・ラ・ディマ」

 

「よせよ、クォでいいぜ」

 

実はウズウズしていたクォル。

その「意識の隙間」というものを体験してみたかった。

もしそんなものがあるとして、それを自分が体得できれば・・・。

 

「俺様、また強くなってモテモテ間違い無しってか!」

 

思考が言葉となってダダ漏れである。

ラミリアが大げさにため息をつく。

 

「では、そうだな、これを手に乗せておいてくれ」

 

カウンチュドが戻ってくるのを待ってから、実験は開始された。

エウスオーファンがクォルに手渡したのは小さな木の実だった。

手のひらを上に向け、肩の高さあたりで固定する。

その上に木の実を乗せた。

 

「私がこれからそれを取る。クォ、君はそれを阻止してくれ」

 

「手を動かして避けるってことか?」

 

木の実を握りしめても良いし、手を下げても良い。

何なら取りに来たエウスの手を掴んでも良いと言われた。

この場の全員が、クォルの手に注目する。

そしてもちろん、クォル本人が最も集中している。

自分の手の上にある木の実と、その木の実越しにエウスの姿を視界に収める。

ふいに声が上がった。

 

「えっ・・・?」

 

声の主はカミューネだった。

続いてラミリア。

 

「クォ、あんた何やってんの?」

 

この場に居たクォル以外の全員が、目の前の光景を不思議に思った。

なぜクォルは木の実を守らなかったのだろうか?

エウスの動きは、確かに直線的で無駄の無いものだったが、しかし捉えきれないほど速くは無かった。

そこでようやくクォルは、自分の手の上から木の実が無くなっていることに気が付いた。

 

「い・・・いつの間に・・・?も、もう一回やってくれ!」

 

クォルはまだ信じられない様子だ。

木の実をもう一度乗せてくれと、エウスに手を差し出した。

すると。

 

「うげぇ!なんだ!?俺様の手に・・・もう木の実が・・・」

 

これも、クォル以外の全員がしっかり目撃していた。

エウスがごく普通にクォルの手に木の実を置いている姿を。

 

「無拍子・・・か」

 

ダンが感心したように呟いた。

耳にしたことはあっても、実際に見るのは初めてだった。

 

「すごいです!私にもやってください!」

 

まだ納得し切れない様子のクォルに変わって、メリッサがエウスの前に立つ。

興味津津といった様子で目を輝かせ、手を差し出してくる。

しかしエウスはバツが悪そうな表情だ。

 

「メリッサ、すまないが私は君の期待に添える自信が無いよ」

 

エウスは苦笑まじりで言いながらも、木の実をメリッサの手に置いた。

メリッサは自分の手を顔の前まで近付け、木の実を凝視している。

寄り目になるほど距離が近い。

周囲の皆も息を飲んで見守っている。

そして、エウスが動いた。

そのとき。

 

「っくちゅん!」

 

子猫のような可愛らしいくしゃみが聞こえた。

それに驚いたメリッサは木の実を乗せた手をぎゅっと握る。

エウスの指も一緒に、握り込まれることとなった。

 

「やはり失敗してしまったか」

 

そう言いながら、エウスはくしゃみの主に目をやる。

 

「はん!ザマァねーな!防がれてやんのッ!!」

 

視線を逸らしながら大声で言う紫電

もちろん赤面している。

しかしこのやりとりで、あることに気付いた者も居る。

ダン、ラミリア、クォル、そしてルビネルだ。

 

「反則よその能力。勝てる気がしないわ。一対一なら、ね」

 

ルビネルに指摘されたエウスは、さもありなんという様子で頷いた。

そして自分の能力について解説を始める。

 

「その通りだ。私は連携攻撃にひどく弱い」

 

エウスの説明はこうだった。

相手の意識の状態を嗅ぎ分けることは可能だが、しかしそれを操作できるわけでは無い。

意識の隙間が訪れるのを待つしか無いのだ。

しかし相手が複数だった場合、一斉に、または交互に連続で仕掛けられでもしたら、意識の隙間を探ることも困難となるし、相手側は隙間をカバーし合えることになる。

 

「しかも、紫電のような膂力も無ければカウンチュドのような剣術も使えない。ちょっと鼻が良いだけの、無力な人間さ」

 

少なくとも、こうして自分の弱点を晒しているということは、この場の皆を少なからず信用していることになるだろう。

それが伝われば話した甲斐があると言うものだ。

 

「更に言えば・・・」

 

相手が心神喪失状態であったり操られていたり、また精神を持たない機械だったりすればまるで役に立たない能力であることも補足しておいた。

例えばルビネル本体となら良い戦いが出来るかもしれないが、遠距離からペンを操作して戦われると太刀打ちできない。

またカウンチュドの矢もしかりである。

そしてハサマに視線を向け何か言おうとしたが、エウスはその言葉を飲み込んだ。

一呼吸置いて、エウスオーファンは皆に向かって深々と頭を下げた。

空気が引き締まる。

 

「この通り、私は無力だ。しかしこの国を、キスビットを想う気持ちは誰にも負けないと自負している。私はこの国を変えたい。その為に力を、貸して頂きたい」

 

誰一人として言葉を返す者は居なかった。

いや、何と返して良いのか分からないのだ。

実質、時間としてはほんの数秒かもしれない。

この沈黙を破ったのは、エウスオーファン本人だった。

 

「さて、日も暮れてきたことだ。夕食にしよう。皆にはそれぞれ一室ずつ用意してあるので好きに使ってくれ。詳しい話は明日、村を案内しながらでも良いだろう」

 

この屋敷には来村した客人用の部屋も用意されている。

紫電、メリッサ、ルビネル、アスミ、ラミリア、カミューネの6名が二階の個室をあてがわれた。

町田、クォル、カウンチュド、ダンの4名は一階の個室だ。

そしてハサマには、二階にあるエウスの私室の隣、来賓用の部屋が用意されていた。

部屋に浴室が付属しているのはハサマの部屋だけである。

 

「浴場は二階と一階にそれぞれございますので、二階は女性、一階は男性でご利用ください。あ、申し遅れましたが私はマーウィンと申します。お部屋には着替えなども用意してございますので、ご自由にお召しになってくださいませ。私は二階へあがる階段横の部屋に居りますので、何でもお気軽にお申し付けください」

 

旅支度らしい用意をしているのはルビネルだけで、その他は何も持って居ないに等しい。

事故的にここへ来ることになったメリッサ、アスミ、ラミリア、カミューネはもちろん、紫電もまさか宿泊することになるとは思ってもいなかった。

女性陣としては、着替えがあることは非常に有り難い。

 

「ではしばらくお部屋でおくつろぎください。お夕食の準備が揃いましたらお声掛けさせて頂きます」

 

各自、夕食までの時間を思い思いに過ごし、そして決して豪勢ではないが、歓待の食事が振舞われた。

 

 

■7人で!

 

夕食後、各人はそれぞれ自分に用意された部屋に居た。

その部屋の中で落ち着きなくソワソワしているのは紫電だった。

タミューサ村に来る途中の船で耳にした会話が気になって仕方ないのである。

それはメリッサの言葉だった。

特に聞こうとしたわけでなく、たまたま聞こえてしまった素敵な言葉、パジャマ女子会とはどんなものだろう?

メリッサ、アスミ、ルビネルの三人で、キスビットへ向かう定期船の個室で開催されたと言うとのキラキラした印象の会合について想いを馳せ、ため息をつく。

 

「オレも・・・いや、オレは海賊だ!そんな女子供がきゃいきゃい遊んでるとこへ混ざるなんて・・・」

 

後半は小さくなって聞こえない。

もしこの屋敷でもその女子会とやらが開催されることになったとしても、自分に声はかからないだろう、ということが分かっているからだった。

いや、でもこちらから声を掛ければ?

待て待てそんなことできるわけがない。

それでも・・・。

やっぱり・・・。

葛藤しながら部屋の中をぐるぐると歩く紫電

丁度その足が扉の前で回れ右をし、また部屋の中央へ戻って行こうとしたその時だった。

 

コンコンッ!!

 

紫電の部屋のドアがノックされる。

口から心臓が飛び出すほど驚いた紫電

 

「ぅひゃあッ!!」

 

あとで思い出したら絶対に後悔してしまうような声を上げ、それをワザとらしい咳払いでごまかしつつドアを開ける。

 

「ん゛ん゛ッ!な、何だ?誰だ?」

 

ドアの外には意外な人物が立っていた。

小柄なサターニアの少女、カミューネである。

両手に抱えた着替えとタオルをぎゅっと握り締め、深呼吸をする。

 

「あっ、あのっ・・・お、お風呂!その・・・ご一緒に、いかがでしょう?」

 

確かこの子は鬼に酷い目に遭っていて、鬼が苦手じゃなかったか。

それが何で、鬼である自分を誘いに来たのだろうか。

見れば、やはり若干震えている。

今にも泣きそうな表情だ。

しかし、どんな理由にしろこの子は自分を誘ってくれた。

恐らくはとんでもない勇気を振り絞って。

別に鬼の代表ってワケじゃないが、しかし鬼がみんな嫌な奴だと思われるのも気分が良いものじゃない。

稲妻海賊団は鬼だらけの集団だが、みんな気の良い奴ばかりだ。

もちろん、一癖も二癖もある奴も居るが。

ふっと肩の力を抜いた紫電

視線を合わせるために中腰になり、カミューネの頭に手を当てた。

そっと、ぽんぽんと二度、弾むように。

 

「声掛けてくれてありがとな。すぐ用意すっから、待ってくれ」

 

そう言った紫電は部屋の中の方へ振り返り、ベッドの上にある着替えとタオルに手を伸ばした。

そのときだった。

 

「やったねカミューネちゃん!」

 

驚いた紫電が振り返る。

ドアの陰から出てきたのはアスミだった。

 

「偉い偉い!やれば出来る子だって信じてたよ!」

 

大げさにカミューネを抱き締め頬ずりしているのはラミリアだ。

そこにメリッサが走って来た。

よほど全力疾走だったのか、肩で息をしている。

 

「お風呂、見てきました!全員で入っても、充分な広さでしたよ☆」

 

浴場は紫電の部屋のすぐそばなので、こんなに走る必要は無いはずだが、きっと迷って屋敷中を走り回って来たのだろう。

 

「ちょっと待ってね。あと一人、来るはずだから」

 

最後に現れたのはルビネルだった。

旅の用意として自分のパジャマは準備しているはずだが、しかしここでもタミューサ村で用意されたものを着るようだ。

 

「あれ?ルビネルさん、ここに居る6人で全員ですよね?」

 

アスミが不思議そうに尋ねる。

その6人に自分が含まれていることに、密かに喜びを噛みしめる紫電

着替えとタオルを持っていそいそと部屋から出てきた。

 

「来た来た。あの子も仲間に入れたくて、ね」

 

ルビネルの視線の先、つい今しがた階段を上がってきたのはアウレイスだった。

廊下に6人も居るとは思わなかったアウレイスは少し怯んだ様子だったが、手招きするルビネルが見えたので恐る恐る前進する。

 

「あ、あの・・・皆さんお揃いで・・・これから何を?」

 

どうやら入浴する旨は伝わって居なかったようだ。

しかし皆が手に手にタオルや着替えを持っていることから予測はつく。

そこになぜ自分が呼ばれたのかが分からないのだ。

 

「あら、女の子同士で親睦を深めるには裸のお付き合いが一番でしょ?さ、行きましょ」

 

ルビネルに半ば強引に手を引かれ、アウレイスはお風呂女子会に加わることとなった。

後でマーウィンがアウレイスの分の着替えとタオルを脱衣所に用意し、更にキスビットではメジャーな木の実の酒「ヒヒキニス」を持って来た。

入浴中に酒を飲むという文化は、唯一ワコク出身のアスミだけが知っていた。

とは言え、経験は無く知識として知っていただけではあるが。

そのことを、ここに来る途中に聞いていたルビネルが是非親睦を深めるためにと、マーウィンに依頼したものだった。

なんという段取り力か。

 

「そう言えばルビネル様には特に指定されませんでしたけど、割らなくて大丈夫だったかしら?まぁ、呼ばれたらドナ茶でも持って行きましょうかね」

 

ルビネルの唯一の計算外は、マーウィンがヒヒキニスを飲み慣れているため、ストレートで飲むことに違和感を持たなかったことだろうか。

通常は10倍程度に薄めて飲むのがセオリーのヒヒキニス。

水で割るのが一般的だが、女性にはドナの葉で淹れたドナ茶で割るのも人気だ。

さて、お風呂女子会はどうなってしまうのだろうか。

 

ちなみに、タミューサ村で最もポピュラーなパジャマはこんな形状をしている。

長方形の生地の中央に頭を出す穴が開いているだけ。

あとはそれを被り、背中側の余り生地を前側に回し、そこに重ねるように前側の余り生地を背中に回して帯を締めるだけの簡単なものだ。

7人に用意されたのも、例に漏れずこの仕様である。

 

 

■ダンとハサマとエウスオーファン

 

紫電が部屋でウロウロしていたのと同時刻。

エウスオーファンの私室には主であるエウスと、そしてハサマが居た。

 

「まさか王が自ら起こしになられるとは、心底驚いております」

 

椅子に座るハサマに対し、エウスは床に膝をついている。

知らぬ者から見れば異様な光景であるが、しかしこれが本来あるべき姿だった。

 

「今更そんなに畏まらなくても良いよ」

 

そう言うハサマはどことなく不機嫌そうである。

例えば頭痛がするとか、体調が悪いとか、誰のせいでも無い類の不機嫌さだった。

もちろんそのことに、エウスオーファンは気付いている。

 

「恐れながら、王は戸惑っておられましょうか?この国の異常に・・・」

 

エウスは緊張していた。

なにせ相手は「あの」ハサマ王である。

恐怖のニオイを感知する自らの嗅覚が、その出どころを自分自身だと告げている。

 

「微妙な加減ができないんだよ、ここに来てからずっと。でも本気出すと全部壊れちゃいそうだし。何か知ってるなら教えてよ」

 

下手な小細工は通用しないと、エウスは開き直ることにした。

自分が今持っている情報のすべてをハサマに打ち明けよう。

そしてもしそれで協力が得られなくなっても仕方の無いことだ。

まだ機が熟していない、それだけのこと。

 

「まずはこの国の成り立ちからお話することになります。少々長くなりますが、お付き合いください。・・・その前に・・・メユネッズのダンを同席させてもよろしいでしょうか?」

 

一度話を区切るエウス。

黙って頷くハサマ。

それを確認し、エウスは扉の方に声を掛けた。

 

「ダン、入りなさい」

 

重厚な木製の扉が音も無く開き、ダンが入ってきた。

エウスの嗅覚について聞いていなければ驚愕したかもしれないが、知っていれば特に驚くことも無い。

 

「貴殿の夢について、聞きたい事がある」

 

ダンはハサマの存在にも気付いていたが、敢えてそれには触れなかった。

先客が居り、しかし招き入れられた。

つまり手短に用を済ませ出て行くのが良策と考えたのだ。

 

「私は人の夢を探知し、斬り分けることができる。そしてその夢の内容も判別できるのだが・・・」

 

エウスは右手で顎髭を撫でながら聞いている。

 

「貴殿には国を作り変えるという途方も無い夢があるはずだな?」

 

ダンは少し語気を強くし、一歩迫りつつ尋ねた。

少々苛立ちのようなものが含まれている。

 

「そういうことか。なるほど、君は私の夢が目当てだった、と」

 

「そうだ!なのになぜ貴殿からはひとカケラの夢も探知できないのだ!」

 

無意識に、ダンは大声を上げていた。

一階の広間で聞いたエウスの言葉に、嘘は無かったように思う。

キスビットという国を愛し、その在り方を憂い、現状の仕組みを作り変えようという壮大な夢が、この男には在るはずなのだ。

しかしダンにはそれが見えなかった。

感じなかった。

夢を探知することができる剣も、何の反応もしていない。

 

「ちょうど今、ハサマ王にその話をするところだったんだ。一緒に聞いてくれないか?夢追いのダンよ」

 

エウスはダンに椅子を勧め、ハサマに視線を送った。

構わない、という意味の頷きで返すハサマ。

椅子に腰を掛けるダン。

 

「そもそもキスビットという国は・・・」

 

この国キスビットには、現在キスビット人と呼ばれている精霊たちが住んでいた。

他の種族は存在せず、この大地は耳の長い彼らだけのものだった。

彼らは大地に感謝し、神であると崇めた。

土壌神ビットと呼ばれたその神はキスビット人の信仰に対し、土を操る魔法を授けることで応えた。

およそ1,000年前のことである。

 

「しかし人の信仰とは、とても弱く脆い・・・」

 

当時、まだ稚拙な狩猟法や農耕法しか持たなかったキスビット人は、増えていく人口を賄えるだけの食糧を確保できなくなっていた。

そうなると当然ながら生活が苦しくなる。

苦しくなれば信仰は薄れ、生きていくことが優先となる。

神殿への貢物が供されなくなり、人々の心から土壌神ビットへの敬愛が失われようとしていた。

 

「その頃、キスビット人も未熟であったが、神もまた未熟だったのだ・・・」

 

キスビット人の信仰心がより集まり編まれ織られ形を成したものがビットである。

生まれて間もない神は、自らの存在が消えてしまうことを恐れた。

信仰が足りない。

どうすれば良い?

そこで神は考えた。

一人一人の信仰が薄く少ないのなら、もっと人を増やせば良い。

そして精一杯手を伸ばせる範囲から、キスビットへ人を運んできた。

 

「こうして、キスビットの大地に初めて、精霊以外の種族が存在することになった・・・」

 

突然連れて来られた彼らは恐れ慌て絶望した。

うまく増えない者が多かった。

しかし神は諦めなかった。

外から連れてくる数をもっと増やそう。

そうすれば信仰が戻る。

やがて、キスビットに根付く種族が現れた。

それが妖怪、アスラーンである。

彼らはその生来の用心深さで、未熟な大地キスビットに文明を築いた。

他国では当たり前の文化文明も、ゼロから造り出すのは難しい。

しかしアスラーンたちはやり遂げた。

こうして人口は着実に増えていた。

しかし神への信仰はどんどん薄らいでいる。

神は焦った。

こんなにも増えているのに、なぜ信仰心が集まらないのか。

だが実は、神はほんの少し別の満足感を得るようになっていた。

この頃、そのアスラーンたちと先住民であるキスビット人との間で頻繁に諍いが起きていたのだ。

アスラーンたちはキスビット人を憎み、また逆にキスビット人はアスラーンたちを恨んだ。

その黒い感情が信仰心の代わりに流れ込んできたとき、神は今までとは違った悦を覚えるようになっていた。

もうそこに、原始の神は存在しなかった。

 

「そこからビットは、種族の強制移民を計画的に行うようになったのだ・・・」

 

エウスオーファンが今までの人生の大半を費やし収集した情報、試行錯誤の末に得た仮説、多くの犠牲を払って行ってきた検証、それが今、ハサマとダンに語られていた。

 

 

■クォルと町田とカウンチュド

 

「だからッ、もー分かんねぇ奴だなお前は!」

 

クォルが苛ついて地団太を踏んでいる。

どう頑張ったところで絶対に勝ち目の無い相手に挑んでいる勇者は町田だった。

クォルを部屋から出さないように、扉の前で両手を広げているのだ。

 

「覗きなんて、駄目です!」

 

クォルの鍛え抜かれた体を見れば、いくら素人の町田とてその強さの片鱗くらいは理解できる。

自分が到底敵わないことも承知している。

とは言え、その相手が女風呂を覗きに行こうとしていると知って易々と黙認できる町田では無かった。

そこにはアスミも居るかもしれないなら尚更である。

絶対に通してはならない。

 

「クォ、俺に任せな」

 

クールにキメてクォルを押しのけたのはカウンチュドだ。

立てた人差し指を左右に振り、目を細めて町田を見る。

 

「ちっちっち。町田よ、お前はなぜ米を食うと思う?」

 

町田もクォルも頭上にはハテナマークが浮かんでいる。

それを見てカウンチュドは盛大にため息をついた。

 

「良いか?そこにお米があるからだろうが!」

 

説得力は皆無だが迫力は凄まじい。

これが何かの契約ならすぐにサインをしてしまいそうである。

しかし、町田には守るべきアスミが居るのだ。

彼女の裸体をコイツらの視界に入れることも記憶に納めさせることも断じて許容することはできない。

 

「なぁ町田よ、目の前に米があれば食うだろ?それと一緒だぞ?」

 

全く通用しない。

カウンチュドの持つ謎のカリスマ性も、愛のチカラには敵わないのだ。

しかしクォルは諦めない。

この館の同じ屋根のした、あの美女たちが一糸まとわぬ姿で居るという状況を想っただけで、力が漲るのを感じる。

俺様は征かねばならぬ。

殴り倒していくのは簡単だが、しかし。

惚れた相手の為に体を張っている男を無下にするわけにもいかなかった。

 

「大体な、あのアスミって子も、お前に見られたがってるかも知れないだろ?」

 

クォルの言葉は苦し紛れで雑な論法だった。

しかしこれが町田に響いた。

なんという偶然か。

町田は定期船の朝食の席でアスミに言われた言葉を反芻した。

 

『なーんだ、残念。』

 

あれは、どういう意味だったのだろうか。

もしや、そういう意味だったのだろうか。

理由は良く分からないが、クォルは自分の攻撃が効いていると判断した。

さすがに戦い慣れしている。

ここは押せと、歴戦で培った勘が言っているのだ。

 

「それを確かめるためにも、行かなきゃ男じゃないだろ!?」

 

町田は揺れた。

覗きはいけないことだ。

しかしそれは、相手が嫌がっているという前提がある。

もし嫌がっていないのなら?

いやいや、覗かれて嫌じゃない人なんて・・・。

 

「まぁ水でも飲んで、一息つけよ」

 

葛藤する町田の口にコップが押しつけられ、液体が流し込まれた。

カウンチュドの仕業である。

 

「あ!ちょっと!旦那!それ酒だって!」

 

先ほどマーウィンから勧められたヒヒキニスという酒だった。

クォルの故郷の銘酒「活火山」には及ばないが、しかし相当に強い酒であることは分かる。

なにせ底無しの酒豪であるクォルが美味いと思ったのだから。

それが、町田の口に注がれたのだ。

飲めない相手に無理に飲ませるとトンデモナイことになるということを、過去の経験から知っているクォル。

さて町田は飲める方かのか、飲めない方なのか。

 

「僕は・・・僕は・・・」

 

町田が肩を震わせながら呟いた。

泣いているのか?

バッと顔を上げた町田の、眼鏡の奥には燃える瞳が在った。

 

「僕は、アスミちゃんの気持ちを確かめる!!」

 

今まで死守していた扉を自ら勢い良く開ける町田。

諸手を上げて追従するクォル。

なぜか布を顔に巻き付け覆面スタイルになったカウンチュド。

三人は一階の廊下を移動し、二階へ繋がる階段を登った。