『かなり』

同音異義語が大好きです

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料理コンテスト失格翌日 ~OBBの真価~

あけましておめでとうございます、坂津です。

PFCSの公式イベントに乗っかったお話です。

pfcs.hatenadiary.jp

 

このエントリの続きです。

料理コンテスト失格まであと3日 - 『かなり』

料理コンテスト失格まであと2日 - 『かなり』

料理コンテスト失格まであと1日 - 『かなり』

料理コンテスト失格当日 - 『かなり』

 

 

▽登場人物▽

・タオナン

人間の女性。男嫌い。ルビネルさん大好き。

・テイチョス

万能アルファ(ロボット)。タオナン大好き。

・ルビネル(友情出演)

黒髪ロングのストレートで女子力高い。百合なの?。

thefool199485.hatenadiary.com

・勇者パラ(友情出演)

発展途上のエルフの少年。何か素直な良い子になった。

ritostyle.hatenablog.com

・メラーン(料理コンテスト主催者)

理知的でスマートな女性。感情の高ぶりで思考回路が壊れる呪いを受けている。

yaki295han.hatenadiary.jp

 

あと名前は出てきませんが設定をお借りしています。

・リーフリィ大陸

・カイザート

yourin-chi.hatenablog.jp

 

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

早朝、まだ朝霧も晴れない時間。

空がようやくうっすらと明るくなっている。

宿屋の庭先に人影があった。

 

「・・・フゥゥゥ・・・」

 

低く腰を落とし、下腹に力を溜めるようなイメージで呼吸をする。

とは言っても、実際に動力が備わっているのは下腹でなく胸部であるし、酸素の吸引は口からでなくとも可能だ。

人影はテイチョスだった。

 

「おかしなものだな。こんなことで本当に落ち着くとは」

 

落ち着く、という現象自体がアルファである自分には異常事態だ。

要するに先刻まで落ち着いていない状況だったということになる。

情報を処理しきれないことはあっても、それで取り乱したり言動に支障をきたすようなことは、設計上あり得ないはずだった。

 

「武道の基本は呼吸よ。どんな状況でも即座に対応できる肉体と精神は、この呼吸によって実現されると言っても過言じゃないわ」

 

1,000年前のことだ。

コードティラル神聖王国のカイザートにある道場、そこで師範代を務める女性。

聞けば戦闘部族であるカイザートの部族長の娘だと言う。

アルファである自分にはまるで意味が無いと思っていた「呼吸法」や「精神統一」をやたらと真剣に教えてくれた。

あれからほぼ毎朝、テイチョスは彼女の教えを守り鍛練を続けていた。

要するに30万回以上、繰り返していることになる。

しかし人間のように筋力が増強されたり反射神経が研ぎ澄まされたりというような、肉体的な強化は望めなかった。

だがこの鍛練は、確実に自分の精神を鍛えている。

アルファに、精神だと?

 

「・・・ふっ。さぁ、タオナンを起こして朝食の準備だ」

 

自嘲気味に鼻を鳴らし、テイチョスは宿へと入っていった。

パラと相部屋である客室の扉をそっと開け、なるべく物音を立てないように白衣に着替える。

宿泊者全員分の朝食を作ることと引き換えに、宿代を負けて貰っているのだ。

そろそろタオナンと厨房に入らねばならない。

ルビネルとタオナンの相部屋、その扉の前に立つ。

しかしタオナンが出てくる気配は無かった。

普通なら女性の部屋に男が入ることなど倫理的に問題がありそうなものだが、テイチョスはアルファである。

ルビネルは自分をロボットとしてしか見ていないし、タオナンも家族のようにしか思っていない。

問題は無い。

そう判断したテイチョスは二人の客室の扉をそっと開けた。

恐らく寝ているであろうルビネルを起こすまいという配慮だった。

 

「ッ!!?」

 

ルビネルと目が合った。

静かに寝息を立てているタオナンと、そのタオナンの微かに開いた桜色の唇に指を這わせていたルビネル。

 

「そ、そろそろ起こそうかと、ね」

 

ルビネルらしくもない慌てた物言いだった。

ノックも無しに扉を開けたことを非難されるかとも思ったが、本人はそれどころではないようだ。

 

「さぁタオナン、朝食の準備に取り掛かろう」

 

「ふえぇ・・・っくあぁぁぁ~・・・んにゃ・・・」

 

間の抜けたあくびと共に上半身を起こすタオナン。

すごい寝グセだ。

それに・・・。

単に寝相が悪いというだけでは済まされないほど着衣が乱れているのはルビネルの仕業だろうか?

 

「ワタシは先に厨房へ行っている。早く来てくれよ」

 

テイチョスは体温の上昇を感知し、早急に冷却すべく厨房へと急いだ。

食材の下処理がほとんど終わったあたりでタオナンがやって来た。

今これからタオナンが行う調理は、彼女にとって初めての経験となる。

「注文者」が目の前に居ない状態で作る料理なのだ。

すぅっと息を吸い、ゆっくりと吐き出してから、タオナンの調理が始まった。

評判は上々だった。

宿屋の専属コックからも、朝食を食べた客たちからも、タオナンには称賛の声が掛けられた。

 

「寝グセのお嬢ちゃん、良い腕してるな!ウチで働かないか?」

 

「あなたのお料理、とても美味しかったわ。それにしてもすごい寝グセね」

 

「お姉ちゃん!すっごく美味しかったよ!寝グセも面白いし!」

 

今日の昼には、料理コンテストの主催者であるメラーンにオクトパスホールドベイクボール、OBBを振舞うのだ。

その前の準備運動にでもなればと思っての朝食作りであったが、期待以上の出来栄えとなった。

ルビネルとパラも、タオナンの作った朝食に歓喜していた。

 

「貴女、やっぱりすごい料理人なのね。寝グセはヒドイけど」

 

「こんなに美味しい朝食、ぼく生まれて初めてだよ!あとそれ寝グセなの?」

 

メラーンの計らいで、タオナンたちは料理コンテスト会場周辺の屋台の一軒でOBBを供出することになっていた。

そこにメラーンが客として来るという約束だ。

 

「さぁ!コンテスト会場の広場に行こうか!」

 

「タオナン、君はまず寝グセを直すべきだ」

 

一行が会場に到着すると、コンテストのステージはすでに臨界のボルテージに包まれていた。

料理人同士の気高いプライドと今まで磨いてきたスキルが火花を散らしてぶつかり合うクッキングバトル。

それぞれが命を賭けて集めた食材を最高の状態で提供するために魂を削る男たちの共演、狂演、凶宴。

タオナンはため息をついた。

 

「あーあ、アタシもあんな料理、したかったなぁ~!」

 

しかしその声には張りがある。

決して残念がってばかりでは無いようだ。

自分の役割をきちんと理解している。

 

「さってと、じゃあアタシの絶品OBB、いっちょ作ってやりますかー!」

 

元気よく開店宣言をしながら腕まくりをするタオナン。

半球状に窪みのある特殊な鉄板に火を入れるテイチョス。

食材が入った容器を順に開けていくルビネル。

屋台の前を行き交う通行人に声を掛けるパラ。

 

「奇跡の大蛸レイオクトを使った究極のグルメだよー!」

 

その呼び込みに興味を持った数人が屋台の前に並んだ。

OBBが焼けるその芳ばしい香りが客の鼻腔を刺激する。

そして一人目の客が、焼き立て熱々の球体をその口へ、運んだ。

 

「ぶるるるるううゥゥぅぅああああぁぁァァーッ!!!!!」

 

客は口から虹色の光線を撒き散らしながら、少しだけ宙に浮いた。

そして光が収まると、ボロボロと泣きだした。

 

「こ、こんなに美味いものを食べたのは初めてだ・・・俺、改心するよ・・・」

 

そう言いながら客は通りすがりの警察官に自分を逮捕するよう頼んだ。

ここ最近この近辺で起きている空き巣は自分が犯人だと言いだした。

タオナンが焼くこのOBB、実はトンデモナイ代物であった。

生地に使われている極小麦マイクロウィートは、挽かずに粉として使用されている。

通常であれば小麦の細胞が破壊された状態で粉になるが、マイクロウィートはその粒子ひとつひとつが小麦の粒なのだ。

それが人の体内に摂取されれば激しい拒絶反応が起こる。

異種タンパクの侵入を察知した免疫細胞が全力でマイクロウィートを攻撃するが、しかしこの小麦の防御力、攻撃力は並大抵ではない。

肉体が細胞レベルで崩壊を始めてしまうのも無理は無いのだ。

だがそのマイクロウィートのつなぎとして使用されているのはライフル卵である。

あの超再生を促す回復力の塊が、崩壊した細胞を瞬時に蘇らせる。

つまり、このOBBを食べると一瞬にして全細胞が死に、そして復活するのだ。

生まれ変わると言っても過言ではない。

完全にリフレッシュされた肉体が次に味わうのは奇跡の大蛸レイオクトである。

遭遇自体が奇跡と呼ばれるこの蛸には、文字通り奇跡が付いて回る。

体表に現れている7色の斑模様は、その効果が7通りであることを示している。

・改心の青

・覚醒の紫

・開眼の黄

・快楽の赤

・活性の緑

・幸運の橙

・謎の黒

どの効果が現れるかは人それぞれであるが、どれも激烈な影響が出る。

タオナンは客の様子を窺い、材料の分量などを微調整して発現する効果を限定したかったのだが、しかし今はこれで良いと思っている。

 

「美ぅー味ぁぁーいィィーッ!!!なんだ!?足が、足が動くぞ!」

 

車椅子に乗っていた客がすっくと立ち上がり、自分の足で歩き出した。

やはり、その人に必要な効果がおのずと現れているように思う。

今までの自分の気負いや思い込みは、もしかしたら余計なお世話だったのかもしれない。

気が付くとタオナンの屋台には大勢の客が並んでいた。

 

「すごい人気ね。さすがだわ」

 

そこに現れたのはメラーンだった。

約束通り、タオナンのOBBを食べに来てくれたのだ。

 

「最近、少し肩こりがあるのよ。それが治ったら嬉しいわ」

 

そう言いながらOBBを食べたメラーン。

舌に乗せただけで口全体に広がる風味が鼻に抜け全身を駆け巡る。

軽く歯を当てただけでとろける生地が口内に流れ込んできた。

その瞬間。

メラーンは、黒い光に、包まれた。