『かなり』

邪悪そうに見えて実はすっごい良い人。

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料理コンテスト失格当日

あけましておめでとうございます、坂津です。

こちらのオモシロ企画に乗っかったお話です。

pfcs.hatenadiary.jp

 

このエントリの続きです。

料理コンテスト失格まであと3日 - 『かなり』

料理コンテスト失格まであと2日 - 『かなり』

料理コンテスト失格まであと1日 - 『かなり』

ちなみにこの話のあと、実は「失格翌日」に続きます。

 

 

▽登場人物▽

・タオナン

人間の女性。キスビットの王都、エイ マヨーカで料理人をしている。巨乳。

・テイチョス

男性型のアルファ(ロボット)。タオナンの助手。実は万能。

・ルビネル(友情出演)

アルビダ(妖怪の一種)の女性。ペンを自在に操れる。百合百合しい。

thefool199485.hatenadiary.com

・勇者パラ(友情出演)

精霊(エルフ)の少年。王様から貰った支度金でエロ本を買う勇者。純粋。

ritostyle.hatenablog.com

・メラーン(料理コンテスト主催者)

栄養学を極めたアスラーンの女性。健康塾で講師をしている。好物はラーメン。

yaki295han.hatenadiary.jp

 

あとキャラクターは出演していませんが設定をお借りしています。

・リーフリィ大陸

・カイザート

yourin-chi.hatenablog.jp

 

※文中で、とあるシーンが飛んでいますがストーリーは繋がります。読まなくても大丈夫。そっちは書いて良いところに書きますので、ここでは非公開です。悪しからずご了承ください。ちなみにタイトルは『料理コンテスト失格よりも先に人として失格まであと数秒』です。

 

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

■決戦!レイオクト!

 

「あー、無理無理。ぼくコレ無理です」

 

極彩色の逞しい触腕に右足を掴まれ、逆さに宙づりとなったパラが絶望感を全面に押し出しながら言う。

 

「いま出会っちゃダメな奴です。完全に設計ミスですよこんなの。初期段階で行けるエリアにボスクラスのモンスターが配置されてるとか意味分かりません」

 

顔色を蒼白にしてボソボソと呟くパラ。

最後にセーブしたのいつだっけな~という謎のウワゴトが、ひんやりとした洞穴の壁に反響している。

しかしタオナンは違った。

まさか本当に出逢えるなんて。

レイオクトとの遭遇率がどれだけ低いかは、事前にテイチョスから嫌と言うほど聞かされていた。

正直、制限時間いっぱいまで粘っても遭遇できなければ他の蛸で手を打つしかないとも思っていた。

だがタオナンが目指す究極のOBBを完成させるには、レイオクトは絶対に必要な食材だった。

その額に流れる汗は、強敵と対峙したときに感じるプレッシャーからだろう。

しかしその恐れを遥かに凌駕する歓喜が、タオナンを支配していた。

 

「ルビネルさん!テイチョスを呼んで来てくださいッ!!」

 

そう叫ぶと同時に、タオナンはレイオクトめがけて飛び出した。

パラを捕えている触腕に鋭い蹴りを放つ。

実はタオナン、幼い頃からテイチョスに武道を習っていた。

もちろん本格的な指導では無いが、それでも素人の喧嘩レベルよりも数段上の格闘が可能である。

リーフリィ大陸にあるカイザートという戦闘部族の街。

その部族長が開く道場の師範代から直接指導を受けたことがあるテイチョスが、護身用にと教えたものだった。

街のゴロつき程度であれば一撃で沈められる会心の蹴撃はしかし、小気味の良いインパクト音とは裏腹に、レイオクトの逞しい触腕にはまるでダメージが無いようだ。

しかし蹴りを受けたことによる影響なのか、レイオクトの触腕は更にきつく締まることとなり、パラはその痛みで失神してしまった。

 

 

 

「一人では無理よ!私も・・・」

 

スカートの裾をたくし上げ、呪詛を使おうとしたルビネルだったが、それはタオナンの力強い言葉によって遮られた。

 

「大丈夫!・・・ルビネルさん、テイチョスを呼んできてください」

 

「分かったわ・・・」

 

「料理人が、食材に負けるわけ無いじゃないですか」

 

圧倒的に強がりだった。

その実、タオナンの足は震えていた。

先ほどの蹴りは、これまでの人生でも経験が無いほどの出来だった。

巡りあうこと自体が奇跡と呼ばれる食材を前に、自分のポテンシャルを最大に発揮した攻撃だったのだ。

力、タイミング、スピード、どれを取っても最高の一撃だったそれが、まるで意味の無いものだと思い知らされる絶望。

歓喜から一転、底の無い絶望に叩き落とされてしまった。

どう足掻いても勝てない。

しかしこのままルビネルも一緒にやられる訳にはいかない。

パラは・・・申し訳ないがこの際、仕方ない。

 

「すぐ戻るから!」

 

ルビネルはタオナンの絶望と恐怖に気付いていた。

口では強がりを言いながら、その表情は明らかに死を覚悟したものだった。

それに体の震えも、あれは武者震いなんて言葉では片付けられない。

そんな状態のタオナンが放った言葉だからこそ、言う通りにせねばならないと思った。

それにこの狭い洞穴内ではルビネルの呪詛でレイオクトと戦うのは分が悪い。

現状の最善策は、タオナンが回避に徹しつつ洞穴の出口付近までレイオクトを誘導し、それに合わせてルビネルがテイチョスを連れてくることだろう。

 

「さて・・・あなた、すごい色だけどお刺身でも食べれらるの?」

 

駆け出したルビネルを見送ったタオナンは、脇腹のホルスターから包丁を抜きつつ、レイオクトに向かって言った。

もちろん奴が人語を理解するとは思っていない。

これは自分が冷静さを取り戻し、理想的に動けるコンディションを作る為の発声だった。

見せかけの軽口を叩いたところで全身から吹き出す汗は止まらなかったし、震える両膝は今にも崩れ落ちそうだった。

しかし、先ほどの言葉は自分の矜持でもある。

料理人が食材に負ける訳にはいかないのだ。

レイオクトとの戦闘レシピはこんな具合だろうか。

プライド(料理人としての)・・・少々

培ってきた技術・・・大さじ2

スピードでは上回っていそう・・・小さじ1

テイチョス早く来て・・・ありったけ

 

「って・・・いつまでも他力本gッッッ!!!!?」

 

タオナンが警戒していたのは目の前のレイオクトだけである。

よもやこの極彩色の大蛸が“つがい”で居ることなど、予測しようが無かった。

 

ルビネルは歯噛みしていた。

自分の呪詛はペンを操る能力だが、それは閃き次第で無限とも言える汎用性を備えている。

今回も、8箇所同時に小さなターゲットへ打撃を与えるという役目に対し、容易くは無いがそこまで困難でも無いと思った。

しかしこんな薄暗く狭い洞穴内というロケーションは完全に想定外だった。

脳裏に焼きついている先ほどの光景で、レイオクトの触腕の先端が確認できたのは、パラを捉えている1本だけだった。

残りは洞穴内を足場と並行する海水の中、そして巨大な胴体の後に隠されており、視認することはできなかった。

 

「油断したわ・・・」

 

悔やんでも現状は変わらない。

今はとにかく最善策を最速で遂行しなくてはならない。

ルビネルの視界に洞穴の出口、その光が入った時だった。

遥か後方、洞穴の奥部から絹を裂いたような悲鳴が聞こえてきたのだ。

 

「キャアアアアァァァァァーッッッ!!!!」

 

間違いなくタオナンの声だった。

ルビネルの足は反射的に壁を蹴った。(0.01秒)

直進していた体が斜めに軸移動し、目の前の岩を更に蹴る。(0.14秒)

その先のひときわ高い岩に足を掛けた。(0.66秒)

最後に天井を蹴って伸身宙返りの要領で反転する。(1.08秒)

緑黄色の試験管と万年筆を2本ずつ、太腿のベルトから抜き取る。(1.22秒)

着地と同時に試験官が岩場で割れ、万年筆がふわりと浮く。(1.43秒)

胸ポケットからメモ帳を取り出して放り投げる。(1.99秒)

ルビネルは一瞬も止まること無く、洞穴の奥の暗闇へと走った。

 

「あんな可愛い娘、放っとけないじゃない・・・」

 

今来た道を先ほどよりも更に疾く駆け戻るルビネル。

折り返した場所では2本の万年筆が超高速で自動的に動き、メモ帳に文字を書き連ねていた。

『EncountRayoct』『EncountRayoct』『EncountRayoct』メモ帳の全ページの全行に、小さな小さな文字で書かれる『レイオクトと遭遇』の文字。

2本の万年筆はそのままメモ帳を挟んで飛行し、洞穴を出て急上昇した。

そして空中で散開し、そのペン先でメモ帳を縦横無地に切り裂く。

まるで紙吹雪のように小さな紙片の全てに、レイオクトとの遭遇が記されていた。

 

「ッ!!!!?」

 

ほんの一時の時間すら惜しいはずのルビネルがその足を止めたのは、あまりにも異様なものに遭遇したからであった。

こんな場所で、絶対に出逢うはずのないものだった。

 

「・・・あなた、何者?なぜこんなところに居るの?」

 

ルビネルはそっと、右手を腰の後ろに回しながらジリジリと間合いを測った。

ガーターベルト式のペンホルスターから、ボールペンと試験管を1本ずつ抜き取る。

しかしルビネルの問い掛けに、答えは返ってこない。

 

「答えなさい!なぜ貴女のような妊婦がこんなところに居るの!?」

 

強い口調で詰問された女は、そのはちきれんばかりの腹部を重そうに両手で抱えながら一歩、ルビネルに近付いた。

そして両目から大粒の涙をこぼし、うわ言のように呟き始めた。

その瞳はルビネルを見ているのかどうか定かではない。

 

「た、たすけ・・・も・・・いや・・・いや・・・」

 

助けを求めている様子ではあるが、しかし異様過ぎる。

安易に相手の間合いに入るわけにはいかない。

時間にすればほんの一瞬だっただろう。

ルビネルが逡巡するそのとき、女が叫び声を上げた。

 

「いやあぁぁぁー!!もういやあァァァーッ!!!!」

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~

ココカラはココでは書けないヨッ!

~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

■ライスランドへ

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クルーザーの船室で目を覚ましたパラは、まず自分が生きていることを確認した。

頬をつねってみたが、ちゃんと痛かった。

ここが洋上であるということは、教会でお金を払って蘇生してもらったわけではなさそうだ。

船室の扉から見える甲板では、ほぼフラット状態まで倒されたリクライニングチェアにその身を預け、恐らく眠っているであろうルビネルが確認できた。

その向こう側では、タオナンが包丁を使って何かの食材を捌いている。

操舵室に窓からはクルーザーを操縦するテイチョスの背中が見えた。

最後に自分の右足に目をやる。

くっきりと、締め付けられた痕が残っていた。

夢では無かった。

 

「あ、パラくん!目が覚めたんだね!」

 

船室から甲板へ上がって来たパラの姿を見付けたタオナンが声をかける。

顔はパラに向いているものの、その手は止まること無く処理を続けている。

なんとも素早く、そして丁寧な包丁捌きだ。

そのタオナンが捌いているモノを見て、パラはあれが現実だったのだと改めて思い知ることになった。

まな板の上にあるそれは、極彩色の蛸、レイオクトだった。

しかもその幼生。

大きさにして握りこぶしの半分ほど、そんなレイオクトの幼生が数十匹も積まれているのだ。

 

「まさかあそこが、レイオクトの巣だったなんてね」

 

「しかも産卵専用のプライベートスポットだったようね」

 

背後からの声に驚きパラが振り返ると、眠っていたはずのルビネルがリクライニングチェアに腰掛けていた。

戦闘によるものだろう、一度裂けてしまったスカートを腰の部分で結んだように身に着けている。

大胆なスリットと言えば聞こえは良いが、そう表現するのが憚られるほど傷んでいる。

とこどろころ破れ、汚れている。

タオナンの白衣にしても同様だった。

 

「あの、ぼく・・・何と言ったら良いか・・・」

 

「ごめんね!グランピレパに寄ってる時間が無いの!料理コンテストが終わったら送ってあげるから、ね?」

 

言葉を選びながら、しかし何と声を掛ければ良いのか分からないパラに対し、タオナンは明るく言い放った。

 

「それに貴方もタオナンのOBB、食べたいでしょ?」

 

ルビネルもだ。

冗談めかした物言いで、含み笑いすら込められている。

パラは不思議だった。

あの洞穴での出来事。

レイオクトとの激闘で、彼女たちがどんな目に遭ったのか。

あんなことがあってなお、人はこんなに明るく振舞えるものなのだろうか。

 

「おねいさん、その・・・大丈夫、なの?」

 

質問の意図がよく分からない二人。

しかし戦闘中に気絶していたのだから事の顛末を知らなくとも仕方が無いと言える。

怪我などを心配してくれているのだろう。

 

「最後はパラくんにも助けられたし、結果オーライだね」

 

自分が助けたとは、一体どういうことなのだろうか。

まるで状況が分からないが、しかしここで詳細を尋ねることが地雷を踏むことになりそうで、パラは怖かった。

愛想笑いで何となく返し、船室へと戻った。

 

 

話は逆戻る。

ルビネルがテイチョスを呼びに行ったあと、タオナンは健闘した。

健闘、善戦、という言葉には逆説の接続詞が続くことが多い。

善戦したが・・・健闘空しく・・・。

タオナンもまさにそれを体現したような展開だった。

包丁で表面を切り裂いたところで、レイオクトには大したダメージにはならなかった。

それどころか逆に怒りを増長させることになり、足を掴んでいるパラを振りまわしてタオナンに攻撃を仕掛けてきたのだった。

一方その頃、洞穴から出たルビネルはテイチョスのクルーザーに向けてペンを射出し、首尾よく彼を呼び戻すことに成功していた。

テイチョスとルビネルが戦闘エリアに戻ってきたのは、タオナンが艶めかしい触腕に絡みつかれた直後のことだった。

 

「アハハ・・・捕まっちゃった・・・」

 

その言葉を最後に、タオナンは気を失ってしまった。

恐らくは触腕による締め付けが呼吸器官を圧迫しているのだろう。

この状況が長く続けば命に関わる事態になりそうだ。

ルビネルがその洞察力を全開にして呪詛発動のタイミングを計っていると、隣からものすごい殺気を感じた。

テイチョスからである。

 

「え?・・・ち、ちょっと・・・?」

 

ルビネルが驚くのも無理はなかった。

テイチョスが、割れているのである。

二本の足が前後に割れ、四本足になった。

上半身を前屈し、頭部が胴体に引っ込み、代わりに砲筒が生えている。

『万能調理助手テイチョス マイクロウェーブモード』である。

砲弾のようなものが発射されることは無かった。

ヴーンという低い音が、テイチョスから発せられている。

と、ふいにレイオクトが苦しむように暴れ始めた。

次の瞬間、タオナンを捕獲していた触腕の付け根部分がブクブクと盛り上がり、そして破裂した。

何が起こっているのかは不明だが、ルビネルは考えるよりも早くタオナンへ駆け寄り抱き起こした。

それを確認したテイチョスは素早く人型へ戻るとタオナンを抱き上げた。

 

「早く出ましょう」

 

レイオクトはのたうちまわり、洞穴の壁に激突している。

もしかすると崩れてしまうかもしれない。

 

「彼は?」

 

ルビネルの問いに、テイチョスはさらりと答える。

 

「残念だが手遅れだな」

 

ルビネルと、タオナンを抱えたテイチョスが洞穴から脱出した直後、奥の方から崩落が始まったらしい。

落石に押し出される海水が洞穴の出口から吹き出すように溢れている。

 

「まぁ、なんて子・・・」

 

ルビネルはそう言うが早いか、緑黄色の試験管を岩場に叩きつけて割り、ボールペンを二本波に向かって飛ばした。

ペンが連れ帰って来たのは恐らくパラらしき物体だった。

と言うのも、パラらしきその物体には、極彩色の小さな蛸が無数に貼り付いていたのだった。

 

 

■ステージにて

 

「だから、アタ・・・オレの料理を食べるのは誰かって聞いてんだよ!」

 

運営スタッフと揉めているのは、他ならぬタオナンだった。

結局のところ、サラシをキツめに巻き、男性用の白衣とコック帽という姿で臨んだコンテストだ。

受付時刻ギリギリで会場入りを果たしたタオナンは、しかしその場で調理行程を進めることは無かった。

最低限の下処理だけを施した食材と調理器具をセッティングしたところまではすこぶる手際が良かったのだ。

他の料理人たちが自慢の食材を次々と調理していく中、タオナンだけは腕組みをしたまま頑として動かなかった。

 

「審査員が誰だろうと関係ないだろう!早く調理を開始しないと失格だぞ!?」

 

語気を荒げる運営サイド。

剣術大会が盛んなこのライスランドでは、このような催しの運営も手慣れたものだった。

主催側はスムーズな進行を促す為に、参加者をコントロールする必要がある。

しかしそれは、タオナンをますますヒートアップさせることとなった。

 

「アンタ、アタシを馬鹿にしてんの!?料理は人に食べてもらってナンボでしょ!?誰が食べるかも分かんないで作れるわけ無いじゃない!」

 

これは、タオナンの理念だった。

食べる人の顔を見て料理を作る。

その人を想いながら調理をする。

同じ料理を同じレシピで同じ味に仕上げるのなら料理人など不要、というのがタオナンの考え方だった。

医者、とまで言ってしまうのはおこがましいとは思うけれど、それくらいの覚悟と意思を持ってタオナンは調理場に立っていた。

その人の今この時、それに合う調理をしてこそ料理人である。

 

「食べてくれる人が分かんないで作るなんて、有り得ないわ!断食明けの人にステーキなんて食べさせないでしょ!?お医者様の診断、スタイリストさんのコーディネート、どれも相手に合わせるから活きるじゃない!料理だって同じなのよ!なんでそれが分からないの!?」

 

もう自分が男として出場していることなど忘れ去ってしまっている。

応援席にいるテイチョスが手を額に当てて首を振る。

ルビネルは、初めて見るタオナンの激情に触れ、背筋を走るなにかを感じた。

パラは会場周辺に乱立している出店の様々なグルメを次々と胃に収めていた。

 

「あなたの言うことは正しいわ、半分ね」

 

会場に凛とした声が響き渡った。

決して怒鳴るような声では無いが、しかし有無を言わさない強さと迫力があった。

運営スタッフもタオナンも、ピタリと動きを止めた。

 

「料理に対するあなたの理念は理解します。とても素晴らしい。けれど・・・」

 

声の主は女性だった。

美しい金髪と切れ長の目、健康的でつややかな肌。

誰しもが間違いなく美人と称するこの女性こそ、今回の料理コンテストの主催者である、メラーンだった。

彼女は25歳の若さで栄養学を極め、レカー城塞都市にある健康塾で講師を務めている。

 

「それは料理の全てでは無いわ。一側面でしかないの」

 

メラーンはゆっくりと歩き、調理が行われているステージに上がった。

そしてまるで、駄々をこねる子供を諭すように言った。

 

「あなたの目の前に、飢餓に苦しむ人々が何百人も居たとします。あなたは料理人としてどうすべきかしら?」

 

「く・・・」

 

「当然、大鍋でたくさんの料理を一度に作って提供するわね?一人ひとりに合わせて調理していたのでは、順番が回ってくる前に餓死してしまうわ」

 

メラーンは説いた。

タオナンの信条は、物心共に豊かな環境だからこそ可能であること。

世の中には限られた環境、限られた食材、限られた器具でしか調理できないシーンも数多存在すること。

ここはコンテスト会場であり、調理にはルールが存在すること。

 

「アタシが・・・間違ってました・・・」

 

タオナンは俯き、泣いた。

自分が考える調理論を至高と思い込み、とても視野が狭くなっていたことを思い知らされた。

言われてみれば当たり前のことなのに、まるで気付かなかった。

頑なに反発していた自分が子供じみていて恥ずかしい。

 

「それに」

 

メラーンは続ける。

今はもう何を言われても仕方ない。

 

「貴女、女の子ね?このコンテストは男性料理人限定よ。残念だけど、貴女は失格だわ」

 

「・・・はい」

 

タオナンは静かにステージから降りた。

観客たちは水を打ったように静まり返っていた。

それでもステージ上の料理人たちは調理を続けていた。

何が起ころうとも自分の料理を完成させる、それも料理人の矜持なのだ。

包丁がまな板を打つ音、肉が焼ける音、湯が沸く音だけがステージ上に響く。

 

「さぁ!みなさん!大会が終わったわけじゃありませんよ!むしろこれからッ!」

 

メラーンの声が響き渡ると、途端に観客たちのボルテージが上がる。

どうやらカリスマ性というやつが、この女性には備わっているらしい。

審査員席へと戻りつつ、メラーンは舞台を降りたタオナンとすれ違う。

 

「コンテストは失格だけど、貴女の料理には興味があるわ。あとでご馳走してくれない?」

 

「・・・ハイ!」

 

涙を拭くタオナンの顔は、晴れ晴れとしていた。