『かなり』

干支に入れてよ猫

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PFCS ひな祭りイベント【中編】

あけましておめでとうございます、坂津です。

この記事の続きですぞぉぉー!!

 

こちらのイベントを利用させて頂きました!

pfcs.hatenadiary.jp

 

なんちゅさんのソラくんに、ウチのアウレイスが逢いに行くって話です!

poke-monn.hatenadiary.com

 

なんとこのPFCSの管理人様であらせられる長田克樹大先生(id:nagatakatsuki)による超絶寛大なご処置によって、このイベントの締切日が伸びましたー!!

本来ならこの話を【後篇】として終わる予定だったのですが、ちょっと余裕が出来たので【中編】させていただき、無くても良かったキャラの深掘りをしちゃいましたー。

 

※微グロ、微エロに注意です。

 

 

~・~・~・~・~・~・~・~

 

 

「そう言えば村長、エスヒナの能力ってどんなものなんですか?」

 

オジュサは、今回のアウレイスの旅に同行したのがエスヒナだという情報を聞き、エウスオーファンに尋ねた。

するとエウス村長は、彼にしては珍しい表情を見せた。

眉間にしわを寄せ口をへの字に結び「苦虫を噛み潰した」という表現がなんともぴったりな表情だった。

完全に「言いたくない」という表情である。

このタミューサ村ではエスヒナの能力について、エウス村長しか詳細を知らなかった。

彼女が村に来た初日にエウス村長はその能力の被害者となり、以降、彼女に眼帯を課すこととなったのだ。

 

 

あの日、ボロボロのフードを身に纏った少女が保護された。

未開拓エリアを調査する任務から村へ帰る一団が、草むらに倒れているところを見付けたのだそうだ。

少女はどこから歩いてきたのか、その裸足の足は傷だらけであり、かなりの長距離を移動してきたことが窺えた。

少女が寝かされている部屋にエウス村長が通される。

実はこのような来訪者は、ここタミューサ村では珍しいことではない。

差別国家キスビットにおいて唯一、異種族同士が平和に暮らす村を目指し、無謀な逃避行を決意する者も少なくない。

そしてその行程の途中で力尽きる者も、珍しくなかった。

運が良ければこの少女のように、村の者に発見され運び込まれるというわけだ。

そしてそれら、村側の計画ではない突発的な来訪者は、エウス村長がその人物像を嗅ぎ分けるのが常だった。

まず第一に危険性が無いか。

そしてどこから来たのか。

大まかな素性や性格などを、村長は来訪者のニオイで判断する。

 

「この娘、サムサールか・・・」

 

サムサールは、当時のタミューサ村には存在しない種族だった。

エウスにとっても初めての邂逅だった。

噂程度の予備知識を有していたエウスは、この少女の第三の瞳に危険を感じ、人払いを言い付けた。

どんなものなのか正体は分からないが、サムサールの第三の瞳と目を合わせると、ある種の感情が流れ込んできて自分では制御できなくなるらしい。

サムサールはドレスタニアが派生元だと聞いたことがある。

今後もこの村を訪れるサムサールがあるかも知れないと思い、エウスはドレスタニアのパイプ役に手紙を書いた。

なるべく多く詳細な、サムサールについての情報をくれ、と。

しかしいくら能力が未知数だとは言え、こんな小娘に対して少々警戒し過ぎか、と自嘲するエウス。

そろそろ額の冷布を替えてやろうと立ち上がり、水桶に浸けた布を固く絞って少女に目をやったその瞬間だった。

額の目が、開いた。

両の目は閉じている。

恐らく本人はまだ目覚めていない。

第三の瞳だけが、開いたのだ。

それはほんの刹那。

時間にして10分の1秒も無いほどの。

それでも確かに『目が合った』のだ。

途端に湧き起こる、いや、流れ込む感情の正体が、エウスにはすぐに分からなかった。

強い衝動だけがある。

そして気付く。

これはマズイ。

エウスは腰に下げていたダガーを素早く振りかざし、全力で振り下ろした。

刃は肉を貫きその下の机に深々と刺さった。

彼が刺したのは自らの左手だった。

 

「保ってくれよ、左手と、精神・・・」

 

自分の意志とは裏腹に、少女に近付こうとするエウスの身体。

そのたびに左手が血を吹き、痛みによって若干の覚醒をする。

今エウスを襲っているのは激しい劣情だった。

彼の中で、自分の子供と言っても差し支えないような少女に対し、未だかつて感じたことの無いような強く激しい性の衝動が暴れ回っている。

エウスの常人離れした強靭な理性を持ってしても、その衝動を抑え込むことはできなかった。

それを一瞬早く予感したからこそのダガーだったが、左手が裂ければ終わりである。

恐らくその手の痛みよりも衝動が遥かに勝り、例え血濡れのままでも自分は少女を「使う」だろう。

ギリギリだった。

均衡とは言い難いほどの差で劣情の衝動が勝る中、エウスの理性も死んではいない。

 

「私は・・・私に・・・力を・・・タミューサッ!!!」

 

エウスは衝動の波を測っていた。

僅かではあるが、強弱の波を以ってエウスを襲っていた劣情の、弱まる一瞬を突いて理性の全力を込めた一撃は、彼の右足を床板に縫い付けた。

 

翌朝、少女は目を覚ました。

額の目は閉じられている。

代わりに開いた左右の瞳は、見知らぬ男を見付けた。

男はその左の手の甲を机に、右足の甲を床に、それぞれ刃物で突き刺されていた。

辺りにはおびただしい量の血だまりができている。

 

「やあ、目が覚めたかい?すまないね、情けない姿を見せてしまった」

 

そう言うと、男は短く呻きながら刃物を抜いた。

更に鮮血が溢れる。

よく見ると男は目を閉じている。

そして、悟った。

なんということだろう。

 

「あの・・・あたし・・・」

 

少女には思い当たるフシがあった。

だから額の瞳は、開かないようにいつも気を付けている。

気を付けてはいるのだが。

 

「ごめんなさい。でも、こんなこと、初めてです」

 

「そうか。辛かったろうな。私はこの村の村長、エウスオーファンだ」

 

「・・・あたし、エスヒナです」

 

「エスヒナ、良い名だ。ようこそタミューサ村へ。君を歓迎する」

 

エスヒナは、今までずっと我慢をしてきた。

額の第三の瞳は、開かないように、隠すように生きてきた。

それでも運悪く目が合ってしまうこともあった。

そんなときはただ、時間が過ぎるのを待った。

三っつの瞳を全てギュッと閉じ、ただ我慢した。

だいたい1日、長くても2日程度、耐えれば良かった。

相手が動かなくなるのが終わりの合図だった。

理由も理屈も分からなかったが、ただ額の瞳で相手を見てしまうと、あの我慢の時間が訪れるのだ。

今までどんなに優しくしてくれた人も、笑い合っていた相手も、男も女も子供も老人も、皆が豹変した。

それなのに、今目の前に居る男は、恐らく自分の代わりに我慢をした。

エウスオーファンと名乗ったこの男は、自分の身を傷つけてまで、触れなかった。

 

「エウスオーファン様・・・ありがとうございますッ!!!」

 

これ以降、エスヒナはタミューサ村の一員として加わった。

医務担当の村人は翌朝のエウスのヒドイ有り様にとても驚いたが「手が滑った」というエウスの言を飲んだ。

エスヒナは額の瞳を自分の意志で閉じ続けられるように訓練し、また専用の眼帯を設えてもらった。

いや、額当てと言った方が合っているかもしれない。

今はエスヒナのトレードマークでもある。

 

 

「それは、必要な時がきたら、話そう」

 

静かに言う村長の気迫に気圧されたオジュサは、それ以上聞くことはできなかった。

 

 

 

「で、その名案って?」

 

ずいっと顔を近付けてエスヒナに詰め寄るアウレイス。

 

「そのソラって人、アウリィが死んだと思ってるんじゃないかな?状況的に」

 

そう言われてアウレイスもハッとした。

そうだ。

確かにそうに違いない。

アウレイスが生き還ったのはソラがアンティノメルへの帰途に着いた後だった。

 

「そ、そう思う。それで?」

 

「アウリィってば、その人を庇って噛まれちゃったんでしょ?」

 

「一応、そうかな?」

 

私なんかがわざわざ出しゃばらなくても、ソラ様ならきっと避けていたと思うけど、と続けるアウレイス。

エスヒナの作戦はこうだ。

事実はどうあれ、状況的にソラはアウレイスに対して「借り」がある。

しかしそれを返すべき相手が死んでしまっている、と思っている。

そこへまず「生存報告」を理由にしてソラに逢いに行く。

 

「なるほど!それなら自然だわ・・・さすがエスヒナ!」

 

「これはまだ導入だよアウリィ。イヒヒ」

 

ソラが感じている「借り」を最大限に利用する。

名付けて『そのときの傷のおかげでお嫁に行けない責任取れ作戦』だ。

 

「え?そ、そんなこと言えないよ・・・」

 

「なによ、どーせ馬車の中で裸だって見られてるくせに!」

 

「なッ!」

 

知らぬはアウレイスばかりなり。

オジュサが面白がって、馬車の中で土の服が砕けたときの話をして回ったのだ。

密かに存在している本人非公認のアウレイス親衛隊によって粛清されるまで。

 

続きはどうあれ、とにかくアウレイスの気持ちは固まった。

ソラに自分が生きていることを伝えたい、それが一番しっくりきた。

もし、ソラが自分の死に責任を感じているのだとしたら、それを拭い去りたい。

本人の意図したものではないだろうが、エスヒナがそれに気付かせてくれた。

 

「ありがとう、エスヒナ」

 

周囲の空気ごと柔らかくするような眩しい笑顔で、アウレイスは礼を言った。

これを出されると誰も何も言えなくなってしまう。

エスヒナとてそれは例外ではない。

いや、むしろエスヒナだからこそ、かもしれない。

今までの悪戯っぽい笑みは消え、余裕の無い表情でそっぽを向くエスヒナ。

 

「反則だよアウリィ、その顔は」

 

褐色の肌のお陰で確認はできないが、間違いなくその頬は上気していた。

 

 

アウレイスとエスヒナを乗せた船がアンティノメルに着く少し前、ソラとシュンは港の近くにある警察の施設に居た。

外国の使節から書簡を受け取るだけという、特に何でもない任務ではあったが、このあとに二人で向かう任務があるのだ。

 

「手紙くらい、誰が取りに来たって構わねぇだろーに、まったく」

 

「他ならぬ上司からの命令ですよ、シュン」

 

つまらなそうなシュンに対してチクッと釘をさすソラ。

二人揃ってナンバー2であるところの上司と言えば、トップからの命令ということになる。

領主、ルーカスその人であった。

どうやらルーカスは、エウスオーファンとよしみがあるらしい。

今日の使節というのも、キスビットからだと聞いている。

キスビット、タミューサ村。

ソラにとっては苦い思い出である。

 

「どーした?」

 

「なんでもありませんよ」

 

表情など何も変わっていないはずだが、シュンはソラの微妙な変化に気付いた。

それだけよく見ている、ということだろう。

 

「オレに隠し事かよ」

 

つまらなそうに言うシュン。

どこか拗ねているようにも見える。

 

船の到着まで、あと数分。