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『かなり』

私が感じる「かなり」なことを徒然に。

私の人格が形成されるのに重要な影響を与えていることが否定できない高校時代 の第二幕

黒歴史

どうも、坂津です。

 

~これまでのあらすじ~

高校生になったばかりの私は入部先を探して色々な部活動を見学して回る最中に演劇部の部室で我を失い気がつくと入部手続きが完了していた。

基礎体力を培うための運動やサッカーを通して役者としての体作りを徹底的に叩きこまれた私は初の台本を手渡され「アドリブ」に苦悩する。

しかし登場人物の人物像を深掘りすることの大切さに気付き、一筋の光明を見出す。

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私の人格が形成されるのに重要な影響を与えていることが否定できない高校時代 の開場

私の人格が形成されるのに重要な影響を与えていることが否定できない高校時代 の開演

私の人格が形成されるのに重要な影響を与えていることが否定できない高校時代 の第一幕

 

灰熊「この馬鹿弟子がぁー!だから貴様はアホなのだ!」

玉子「遊びは終わりだ!月を見るたび思い出せ!」

伊東「悔いが残らない方を自分で選べ」

 

様々な叱責、助言、檄、野次などを受け続ける日々。

 

そしてついに、アドリブ部分のセリフが決まらないまま、本番の日を迎えました。

 

我が炎激部のように少数で活動していると、台本によっては役者と裏方のかけもちが普通に行われます。

今回の台本でもみんなが入れ替わり立ち替わり、音響室と調光室と舞台袖を往来します。

私も例外ではありません。

一旦幕が上がってしまえば、もうそこからはノンストップです。

考え事をする余裕なんて無いんです。

 

武丸が学校に来なくなり、心配する玉子と岩石。

夜な夜な徘徊し危険行為を繰り返す高校生が居ると言う噂を聞きつけ、夜の街へ。

色々あってようやく武丸を発見するも逃げられてしまう。

卒業した先輩であるクマに相談。

武丸探しにダダが参加。

そして私の出番。

 

「おーい!お前たちー!何しとるんだそんなところでー!」

 

これは改心の発声!

会場の最後部席まで届いたに違いない!

 

舞台袖では心拍数が上がりまくって緊張で死にそうでした。

しかしいざ舞台に立ち、照明を浴びると一瞬で緊張は無くなり、そして練習通りに体が動いてくれました。

声が震えたらどうしようなどと心配していたさっきまでの自分が嘘のようです。

 

そして少しの掛け合いがあり、退場。

 

今まで味わったことの無い高揚感に包まれながら調光室に向かいます。

 

登場人物にスポットを当て、暗転させ、照明の色を変え、シーンに合わせて調光卓のツマミを操作します。

一心不乱でした。

そして不思議なことが起きていました。

 

照明係としてライトを操作しているのが、私では無くなっていました。

私は、松本小五郎として調光室に居たのです。

ちょっと分かりづらいかも知れません。

 

今回の芝居での私のスケジュールはこんな感じです。

・音響

・1回目の登場

・照明

・2回目の登場

・照明

 

最初の音響では、間違い無く坂津佳奈として、炎激部の部員として音響演出の操作を行っていました。

1回目の登場寸前まで、そうでした。

緊張していたのも不安だったのも、坂津という私でした。

しかし舞台上で松本小五郎(台本上での役名は“お巡り”なので本当は名前はありません)としてセリフを発した瞬間から、私は松本小五郎になっていました。

照明を操作して武丸たちを照らしているときも、高校生の若さと行動力、友情、社会に対する疑問と怒り、そんな姿に後悔と憧れを覚えていました。

 

わしが照らしてやるからな、武丸。

 

謎の親心まで湧いてきました。

 

そんな心情のまま2回目の登場がやってきます。

私はもう、アドリブへの不安など何も考えていませんでした。

今の気持ちをそのまま、若い彼らにぶつけたい。

武丸の長いセリフが終わり、私の番です。

 

「もっとハミ出せよ!」

 

精一杯の言葉でした。

私ではなく、松本小五郎が本心から発した一言でした。

若いうちの疑問や葛藤、それに伴うちょっとくらいの暴走。

そんなものを受け止めてやれる職業じゃないのか、警察官ってのは。

過去を嘆くよりこれからできることをやる、それが大人の努めだろう。

 

半分泣きながら発した本気の一言でした。

 

そんな松本の一言で、会場は大爆笑。

 

なぜ笑われたのかまるで分かりません。

完全にキョトンです。

しかし私はセリフの後で武丸を追って退場という流れ。

慌てて舞台袖に引っ込みましたが、笑いはまだ続いていました。

 

すっかり坂津に戻った私はシラフ状態で再び調光室へ。

 

最終的に武丸を囲んで玉子がギターを弾きみんなで歌って大団円というシーン。

そこで私は、ようやく気が付きました。

武丸のズボンのファスナー、いわゆる社会の窓が全開なのです。

そしてそこからシャツがベロンと出ているのです。

シャツで良かったです。

違うモノが出てなくて本当に良かったです。

 

そして私が聞いたことの無いセリフの応酬が始まりました。

 

玉子「武丸、社会の窓が大変なことになってるぞ」

武丸「良いンだよ、さっきのお巡りもハミ出せって言ってたろ」

岩石「・・・」

ダダ「じゃあ俺らもハミ出すか!?」

 

そして全員がキャッキャと騒ぎながらズボンのファスナーを下ろして幕が下りた。

 

「なん・・・だと・・・?」

 

私は調光室から舞台へ急いだ。

ご丁寧にカーテンコールが1度だけあるという決まりになっている。

緞帳(どんちょう-舞台の最前にある客席から舞台を隠すための幕)の裏にはみんなが集合していた。

 

クマ「坂津、チャック、チャック開けとけ」

坂津「ええええ?」

武丸「早く!」

坂津「は、はい・・・」

 

再び緞帳が上がると役者全員がファスナー全開で並んでいる。

客席は更に大爆笑。

 

私達は大真面目な真顔でピシッと礼をして、2回目の幕が下りた。

緞帳が下がり切るまで笑い声と拍手が鳴り止むことは無かった。

 

 

坂津「あ、あの、どういうことでしょうか?」

武丸「クソ真面目な場面でチャック開いてたら面白ぇだろーがよ」

玉子「坂津、よくあそこで武丸のボケを拾ったな」

岩石「・・・」

ダダ「いや、袖(客席から見えない舞台上の端)で声抑えるの必死だったわ」

クマ「確認するけど、お前ら、ちゃんと“説明”はできるんだよな?」

武丸「そりゃ坂津が上手くやるダロ?」

坂津「え?え?」

 

 

 

灰熊「お前らぁぁぁぁ!!!なんじゃありゃああぁぁぁーーーっ!!!」

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荒れ狂う灰熊先生の猛攻を立体起動装置でどうにか避けながら必死に弁明しました。

 

坂津「先生!聞いてください!あの演出にはきちんとしたワケが!」

灰熊「アレが演出だとぉぉぉぉぉ!?認めん!認めんぞぉぉぉー!」

坂津「ちょ、落ち着いて、先生、落ち着いて・・・」

武丸「申し訳ありませんでした!」

灰熊「!?」

坂津「!?」

武丸「先生に相談無く演出を変更したことは謝ります」

灰熊「・・・うむ。それで、坂津、あの“演出”の理由とは?」

 

武丸の謝罪が蟲笛と閃光弾のように灰熊を落ち着かせました。

しかしお鉢が回って来たのは私でした。

 

まだ考えがまとまっていない・・・・・・・・・

けど、やってやる! 喋りながらでも考えろ!

 

坂津「私達は先生の敵ではありません。私達にはこの芝居で伝えたい内容を余すところなく表現したいという意志がありました。しかし観客が我々の演技とセリフだけで若さゆえの葛藤による、レールからのハミ出しを感じ取ってくれるかが問題でした。観客全員が見たハズです。武丸先輩のハミ出しっぷりを!つまり台本のストーリーだけでなく、ハミ出しているという事実を目で見て認識したハズです!観客がどんな解釈をしようと、武丸先輩がハミ出していたという事実だけは動きません!私は、とうに演劇の為なら心臓を捧げると誓った役者!!その信念に従った末に命が果てるのなら本望!!武丸先輩のハミ出しが許されないと言うならば、この先この台本を演じていくのは不可能です!!炎激部の栄光を願い!!これからも演じてゆく、せめてもの間に!!股間のハミ出しの演出的価値を説きます!!」

 

言った。

言ってやりました。

 

先輩たちが拍手をするのと、私がぶっ飛ぶのは同時でした。

 

目を覚ますと楽屋でした。

 

私は警察官の衣装のまま床に寝ていました。

左頬と、頭部の右側、腰と右ひじがすごく痛いです。

 

クマ「あ、起きた」

武丸「お前の言い訳面白かったゼ」

玉子「坂津に一発だけで済んだのは大したもんだな」

岩石「・・・」

ダダ「俺喰らわなくてよかったー」

 

後から聞いた話ですが、灰熊がアドリブ指定をしていない箇所でのアドリブは原則として禁止であり、そして禁止であるにも関わらず先輩たちは毎回変なアドリブを入れて殴られているのだそうで。

今回は私一人だけで済んでおり、僥倖に値するらしいのですが、私としては腑に落ちませんでした。

英検3級よりも落ちませんでした。

ニュートンですら重力を発見できないほど落ちませんでした。

換気扇のガンコな油汚れよりも落ちませんでした。

 

 

この話よりも、落ちませんでした。

 

 

~「閉幕」に続く~