『かなり』

干支に入れてよ猫

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私の人格が形成されるのに重要な影響を与えていることが否定できない高校時代 の第一幕

どうも、坂津です。

昔話の続きです。

これまでの登場人物や状況などを引き継いでいますので、過去の黒歴史をお読み頂いてからの方が内容を理解・・・いや、どう読んでも理解はできないですかね。

変態の集まりの話ですからね。

 

 

芝居の練習が始まりました。

内容的には「高校生が演じる高校生モノ」でした。

高校生の内側にある形容しがたい感情を、不登校の生徒とその仲間たちという構図で表現した台本でした。

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配役は以下の通り。

・武丸:主人公で不登校の哲学系高校生。車道に飛び出たりする。

・玉子:主人公を心配する親友。ギター弾いて歌ったりする。

・クマ:去年卒業した先輩。びっくりするほどおっさん。

・岩石:無口な友人。セリフが一切無い。

・ダダ:玉子の幼馴染。不良に憧れてついて来たヘタレ。

・天内:照明

・伊東:音響

・坂津:お巡り

 

全員が年相応の役なのに対して、私だけがどういう訳かおじさん役なのです。

外見で判断するならクマがもっともおっさんなのに、です。

 

つい最近中学校を卒業したばかりの私に、いきなりおっさんの役をやれというのは酷というものです。

しかしそんな甘えは通用しないのが炎激部。

警官の制服の下にアホほどタオルを詰め込み小太りな体型を作り、口には含み綿を入れてキャラクターの外見を創造しました。

分かる方がいらっしゃるか不安ですが、内村光良さんのキャラクターで「満腹ふとる」というのが居ます。あんな感じです。

 

あとはしゃべり方。

とにかくおっさんに成り切らなくてはいけません。

セリフがあるのは3シーンのみ。

 

最初にたむろしている高校生たちに懐中電灯の光を当てながら

「おーい!お前たちー!何しとるんだそんなところでー!」

 

次はそのたむろの輪に仲間入りして、武丸を探しているという説明

「お前ら、あいつの行きそうなところ、知らんか?」

 

最後に、陸橋の欄干の上から演説をブチかます武丸を見て一言

「・・・アドリブで・・・」

 

そう、アドリブで。

 

ん?

 

なんじゃこの台本はー!!!

 

何度見直しても、そこには「アドリブで」という活字しか見えません。

 

 

坂津「あ、あの、グリズリー先生(以下、灰熊)このアドリブというのは・・・?」

灰熊「その日の会場の空気に合わせて、客席の客の顔を見ながらな」

坂津「えっと、・・・はい?」

岩石「・・・」

玉子「おう、そうだな。なぁ坂津、岩石の言う通り、そこはギャグパートだからあんまり深く考えなくてもいいぞ」

武丸「自由に飛べば良いンだぜ」

天内「スポット当ててやろうか?」

伊東「効果音も付けてやるよ」

灰熊「お前らふざけてんじゃねーぞ!真面目にやれぃ!!!」

一同「は、はいっ!スンマセンッシタ!!」

灰熊「坂津!アドリブったらアドリブなんだよ!真面目にやれ!」

坂津「は、はい!(涙目)」

ダダ「(小声で)適当でいいんじゃね?」

坂津「(小声で)そうでしょうか・・・不安しか無いです・・・」

クマ「(小声で)とりあえず何言ってもいいから、やってみな」

 

あ、重要なことを言うのを忘れていましたが、台本が渡される直前、ジャイマンとスネヲは退部しました。

ジャイマンは中国拳法部を作りたいと言って部員集めと顧問の擁立に奔走するため、スネヲを引き摺って去っていきました。

結局部は創設できず、彼らは自由になりました。

このジャイマンの影響で、後に私は八極拳を習うことになるのですが、大学生になってからなのでそれはまた別のお話。

 

さて、台本を渡されてからの練習にはいくつかの段階があります。

まず座ったまま台本を見ながら声だけで掛け合いをします。

次に本番の舞台と同じ大きさの枠線を、床にガムテープなどで描き、その中で実際に動きながら間合いやタイミングを合わせていきます。

この時点ではまだ台本を手に持ちながらやります。

そのときに演出家(ウチは灰熊でしたが、生徒がやる学校もありました)が「こんな感じを出せ」「もっと大きく」などの注文をつけてきます。

役者が台本を読んだ時の解釈と、演出家がこの芝居で表現したい世界とのズレを修正していく作業です。

やがて各々がセリフを覚えてきて、台本無しで最初から最後までを演ってみます。

これを「通し稽古」略して「通し」と言います。

灰熊は通しを黙ったまま見て、気になる点を台本に書き殴ります。

そして気になる場面だけを抽出して繰り返し演る「部分稽古」が始まります。

これは壮絶です。

 

灰熊「坂津!お前何型だあぁっ!?」

坂津「え?え?」

武丸「(小声で)血液型だろうがよ」

坂津「あ、はい!A型です!」

灰熊「てめぇの演技はA型なんだよ!いますぐ病院行ってO型に入れ替えてこい!」

坂津「ええええ・・・」

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もちろんフィクションです。嘘です。

雰囲気が伝わればと思いまして。

 

でもこんな感じで、演って詰められて演って詰められてを繰り返していくと、何が正解で何が不正解なのか分からなくなります。

混濁した意識でそれでも体と口は勝手に動き、そして例のアドリブの場面へ。

何を言ってもダメ出しされます。

 

「なんでやねぇーん!」

「ヘイ!カモーン!」

「GO!TO!HELL!」

「へへっ、燃えたろ?」

 

全然ダメです。

 

灰熊「坂津、お前の役は何だ?」

坂津「警察官です」

灰熊「何歳だ?」

坂津「いえ、それは台本に書いていませんので・・・」

灰熊「何歳だ?」

坂津「いえ、だから・・・」

灰熊「な、ん、さ、い、だッ?」

坂津「はい!50歳です!」

灰熊「よし、家族構成は?」

坂津「独身です。あ、今は、独身です」

灰熊「いいぞ、それだ。続けろ」

 

私がその場で作り上げた「お巡り」の人物像はこうです。

 

松本小五郎、O型の50歳。8年前に妻と離婚。原因は自分にある、という漠然とした思いはあるものの、正直なところ明確な理由は分からない。元妻とは離婚以来一度も会っていないが、去年成人した息子がおり、年に1~2回はメールが入る。年齢的に考えれば警部補でもおかしくないが、巡査長止まりのなのも自分の性格のせいなのだろうと考えている。嫌なことを先延ばしにしてしまう悪い癖があり、これではいけないと分かっているのに自分を変えることが出来ないまま今の年齢になってしまった。若者に「自分の様になるな」という説教じみたことを言いたくはないが、しかし過去何も成してこなかった自分を振り返ると、そんな自虐的なことしか言えないことに寂しさと虚しさを感じている。

 

そうか、これが「登場人物の深堀り」というやつか。

 

確かに、何も考えずにただ台本に書かれたセリフを言うのと、書かれていないところまでしっかりと人物像を作り上げ、それを踏まえた上で演じるのとでは雲泥の差がある。

ここまで詳細に人物像をつくり、自分に落とし込むことが出来ればあの「アドリブ」も自然と言葉が紡げるのではないかと思えてきた。

 

私は「お巡り」改め「松本小五郎」についてのプロフィールを灰熊に説明した。

 

坂津「・・・しかし武丸と出会い、彼を捜索することで高校生たちと触れあった松本はかつて若く滾っていた頃の自分を思い出し・・・」

 

灰熊「違う!もっとシンプルに!」

 

えええ・・・そんなぁ・・・

 

 

~「第二幕」に続く~