『かなり』

干支に入れてよ猫

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猫に恩返しをさせないことに定評のある私

どうも、坂津です。

 

私が拾ったのは、確かに猫でした。

 

大学生2年生の夏休み。

課題のレポートを書くためとは言え、こんな日に図書館に行くのは嫌で嫌で仕方ありません。

しかも目当ての本が貸出になっていて、自分の不運を呪いながらトボトボと帰途につきます。

すると。

火傷しそうなほど熱いアスファルトの上で、ミィミィと鳴いていたのは、手のひらに収まるほど小さな子猫でした。

熱せられたアスファルトよりはいくらかマシであろう、街路樹の根元の日陰に子猫を移動させ、私は親猫を探しました。

歩き出す私の背後からミィミィと声が聞こえます。

 

違うよ、立ち去るんじゃないよ、君のお母さんを探すだけだよ、そこは熱いから土の上に居なさいね。

 

伝わるはずもありません。

時間が許す限り母猫を探しましたが、見付けることも出て来てくれることもありませんでした。

 

どうしようね?君はどうしたい?おなかはすいてないかい?連れて帰っても良いかなぁ?お母さんは心配しないかなぁ?

 

もう決心はついていました。

私は子猫を手のひらに乗せ、帰宅しました。

 

それから1年と半年、シピィはずいぶん大きくなりました。

わがまま放題で私を困らせる最愛の存在。

小悪魔の性格を持つ可愛い天使。

 

バイトでへとへとに疲れて帰っても、シピィは私より先に私のベッドで寝ています。

こうなると私はコタツの座椅子で寝るしかありません。

疲れているとつい、愚痴っぽくなってしまいます。

 

あのまま放っておいたら、お前は死んでたかもしれないんだぞ?

少しは私に恩返しをしようと思わないのかい?

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だらりと伸びた体でチラッとだけ私を見て、シピィはまた寝てしまいました。

 

分かっているんです。

もう私は充分に癒されているし、恩返しなんて求めてはいません。

今のままのありのままのわがままシピィが大好きなのです。

ベッドを占領されることすら、悦びなのです。

 

翌朝、コタツの座椅子の上で目覚めた私はシピィの姿を探します。

もうベッドにはいません。

ずいぶん肌寒くなったとはいえ、日差しがあればまだ温かいこんな日は、きっと日向ぼっこをしているに違いありません。

 

放っておいてもお腹がすいたと言ってくるでしょうが、私は外にシピィを探しに行きました。

柔らかな日差しの中で地面に体を横たえ眠っていたのは、シピィではありませんでした。

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えっ・・・と。

私の足音に気付いたのでしょうか、シピィと同じ色の髪を揺らしながら、女の子が上半身を起こしました。

そして大きなあくびをひとつ。

両手と膝を地面についたまま、肩を下げ腰を高く上げて伸びをしました。

すっくと立ち上がり、音も無く私の方へ歩いてきます。

後ずさる私に何のお構いも無くゼロ距離まで接近し、私の首筋を舐めてきました。

襟もと、肩、胸部と、流れるようにスンスンとにおいを嗅いでいきます。

 

シピィ、なのかい?

 

私がようやく発した間抜けなセリフに、彼女はこくりと頷きました。

 

そうだよ。

 

もう何から驚いて良いのかわかりませんが、度を越した驚嘆に耐えられるほどタフではない私の脳は理解することを拒絶し、とりあえず目の前の現実を受け入れようとします。

 

人間に、なったのか?

 

なったよ。おんがえし、するんだ。

 

と、とにかく、服を着なさい。

 

やだ。

 

その格好じゃ私が困るんだよシピィ。

 

オスは、はだか、すきだろ?

 

う・・・。

 

おんがえし、するから。

 

さっきまで猫だったとは思えないほど自然な動作で、シピィは私に絡み付いてきます。

とにかくここはまずい。

周囲に人が居ないことを確かめてから、私は彼女を抱きかかえて部屋に戻ります。

一息ついたのも束の間、悪戯っぽく微笑んだ彼女の顔を確認するのと、ベッドに押し倒されるのは同時でした。

 

ま、待ちなさいシピィ。

 

なんで?おんがえし、するぞ?

 

私はこんな恩返しは望んじゃいないよ。

 

なんでも、すきにして、いいんだぞ?

 

違う。違うんだよシピィ。

 

なんでも、いって、なんでも、するから。

 

どうやら彼女は困っているようでした。

どうして良いのか分からない、そんな感じです。

私はそっと優しく彼女の肩を抱き、質問します。

 

本当に、何でもしてくれるのかい?

 

する。なんでも、する。

 

分かった。じゃあ、私の願いを言うよ。

 

がんばる。

 

猫に戻ってくれないか?

リアルな女の子とかマジ無理なんだ勘弁してくれ頼むよ。

猫だから愛せてたんだよ。

Z軸のある女性はダメのダメダメだ。

猫が人の姿になるなんてのは二次元だからこそ成立するし萌えるんだ。

戻れ。戻ってくれ。

 

 

 

私はコタツの座椅子で目を覚ましました。

慌てて起き上がり、ベッドの上にシピィを探しますが見当たりません。

すると足元から短い一言が。

 

にゃあ。

 

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いつものように伸びきった体で気だるそうに私を見上げるシピィが居ました。

 

なんてセクシーな夢だったのでしょう。

あれは私の願望だったのでしょうか。

いやいや、猫に戻るように言い聞かせたし、一線は越えていません。

夢の中でも私は充分に理性的でした。

 

良く分からない自己肯定の最中、シピィがニヤっと笑ったように見えました。

舌の櫛で前足の毛をとかし、ごろんと転がって、起き上がり、外に出ていきました。

途中で一度こちらを振り返り、そして私に言いました。

 

このクソ2次オタが。

 

いや、言ったのではないかも知れません。

でも、言ったのかも知れません。

恩返しありがとう。

私にはご褒美です。