読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

『かなり』

私が感じる「かなり」なことを徒然に。

『因果』

ショート駄文

道端にガムを吐き捨てた。

味が無くなったから。

ただそれだけだった。

 

別に何の悪気も無かった。


家に帰るといきなり黒服の男2人組が飛びかかってきて、為す術もなく拘束された。

 

そしてテレビの前に座らされ、画面を見るように指示された。

 

画面には俺が歩く姿が映し出されていた。

 

画面の俺はガムを吐き捨てた。

ついさっきの光景だ。

俺は歩き続け、すぐに画面から外れた。

しかしアングルが変わることはなく、ガムが捨てられた道端を映している。


1~2分してからだろうか、小学生くらいの女の子が歩いてくるのが見えた。

 

そして女の子は俺が吐き捨てたガムを踏んだ。

 

それに気付いた女の子は、立ったまま足を持ち上げて靴の裏のガムを取ろうとする。

小枝を拾い、懸命にカリカリとガムを削ぎ落とそうとしている。

俺は胸が痛くなった。

やがて片足で立っているのが疲れたのか、女の子はフラフラとバランスを崩してよろめいた。

踏みとどまるのに2~3歩動いたが、転びはしなかったので俺は安心した。

 

しかし、すぐに俺の顔は引きつった。

 

女の子が進んだ先は車道で、今まさにトラックが走ってきているところだった。

 

 

女の子は身動きひとつ出来ずにいた。

 

 

俺は思わず目を閉じた。

 

 

しかしすぐ、テレビから聞こえる激しいブレーキ音に驚いて目を開けた。

 

 

まさに奇跡だった。

 

 

慌ててブレーキをかけたトラックは横滑りをし、女の子は衝突の寸前に尻もちをつくように転んだ。

トラックはそのまま女の子をまたぐ形で滑り続けた。

 

女の子は、無事だった。

 

俺が深い安堵のため息をつき画面から目を逸らそうとしたとき、そのトラックは歩道を越え、ガソリンスタンドに突っ込んだ。


いつの間にか画面のアングルはトラック中心になっていた。

慌てて運転手がトラックから飛び降りる様子が映っている。

その運転手はタバコを吸いながら運転していたのか、飛び降りる時に灰皿を落とし、地面に吸い殻を撒き散らした。

まだ煙が出ている。

 

俺は息を飲んだ。

 

トラックから流れ出たガソリンが少し、また少しと面積を広げながら吸い殻に迫る。あと5cm・・・4、3、2・・・


ガソリンに引火した炎は瞬く間にトラックを包み込み、やがてガソリンスタンドは火の海になった。そして、大爆発・・・。


画面がいきなり切り替わった。

 

高層ビルの高所作業員が映っている。

彼は黙々とボルトを締める作業をしている。

そこへ爆音が響いた。

作業員はふと、音の発信地を探し、炎上するガソリンスタンドに目を向ける。

 

その時、彼の手からボルトがひとつ、落ちた。

 

またアングルが切り替わり、オフィス街を人々が忙しく歩いている光景が映し出された。

1人の男性に焦点が当てられ、彼が歩くのに合わせて画面もスライドする。

突然その男性は、一瞬体を硬直させた後にバタリと倒れた。

さっきのガソリンの様に、男性の頭を中心に血が広がる。

 

俺にはわかった。

 

彼にボルトが当たったのだ。

高層ビルから落ちたボルトは、拳銃の弾丸に匹敵する威力を持つ。

 

俺は知らず知らず涙を流していた。

 

あっという間に男性の周りに人垣ができあがり、野次馬たちはどんどん増えた。

その野次馬の中の1人に、画面がズームした。

どこかの会社の制服を着た、ごく普通のOLが映る。

彼女は人垣の中心に何があるのか興味深々な様子で、一生懸命背伸びをしている。

 

そのすぐ後ろに男がいた。

 

「うしろっ!」

 

俺は無意識に叫んでいた。

男は口の開いた女性のハンドバッグから器用に財布を抜き取った。

そして何事もなかった様にその場を去った。

 

やがて現場に救急車が到着し、野次馬たちは散り散りに居なくなり、画面は財布を盗られた女性を追った。


画面は銀行の前で止まった。

 

住宅ローンは当銀行で、と大きく書かれた看板が立てかけてある。

 

女性は銀行に入り、すぐに慌てた様子で出てきた。

財布が無いことに気付いたのだろう。

半ベソになりながら女性は携帯を取り出し、誰かに電話をし始めた。

しばらくして彼女の前に車が止まり、男が降りた。

男は彼女を何度か怒鳴りつけ、そして殴った。

 

彼女は泣き崩れながら許しを乞うた。

 

数分続いた男の暴行は、駆けつけた警官によって中断されるかと思われたが、男は意外な行動に出た。

ジャケットの内側から拳銃を抜き出し、警官に向かって発砲したのだ。

警官も応戦し、発砲。

平和なオフィス街は一瞬にして銃撃戦の舞台に変わった。

一発の流れ弾が、銀行のガラスを割り、非常ベルが鳴りだした。

すぐにシャッターが降りてきて、分厚い金属の壁がゆっくりと閉まっていく。

立てかけられた看板がシャッターに押し曲げられ、不愉快な金属音が響く。

 

やがて限界まで湾曲した看板は一瞬で、激しく弾けて、飛んだ。

 

高速で射出された看板は、銀行の向かいにある飲食店のガスボンベに直撃した。

ガスボンベは勢いよくガスを噴出しながら、固定していた鎖を千切り、激しく回転しながら歩道に出てきた。

そして地下鉄の入り口へと落下して行った。

 

画面はそのまま変わらなかったが、テレビからは電車がブレーキをかける金属の摩擦音と、すぐ後に衝突音が聞こえた。

 

すると画面の中央に映っていた、地下鉄の通風口の蓋がすごい勢いで跳ね上がった。

 

画面は飛んだ蓋を追い上昇した。

 

そこまで見て、いきなりチャンネルが変えられた。

 

俺は、続きを見たいような、知りたくないような変な気持ちだった。

変わった先のチャンネルはニュース番組だった。

キャスターが慌てた様子で早口に喋る。

 

「たった今、銃撃戦の現場に中継ヘリが到着した模様です!」

 

すぐに映像がヘリからの中継に切り替わった。

しかしリポーターの声がしない。

激しく揺れる映像だけが見える。

ヘリは、明らかにおかしな飛び方をしている。

ようやく音声が入ったがリポーターは中継どころではないようだ。

 

「どうなってるんだ!」
「わかりません!何かが突然飛んできて・・・操縦が・・・!」
「なんとかしろぉ!」
「駄目です!操舵出来ません!」
「うわぁーっ!!」
「ぎゃーっ!!」

 

墜落するヘリからの映像・・・そんな衝撃的なものを見ているのに俺は意外と冷静だった。
さっきの地下鉄の通風口の蓋が、ヘリコプターに当たったのだろう。

激しく揺れる映像の中に、俺の居るマンションが映った。

ヘリはこっちに向かっているようだ。

やがて、テレビからではなくベランダの方から、プロペラが空気を裂く音が聞こえてきた。

 

 

俺は目を閉じた・・・。

 


どれくらい経っただろうか。

 

ゆっくりと目をあけると、俺は最初の道端に立っていた。

 

口の中にはガムがある。

 

俺はポケットからちり紙を取り出してガムを包み、丸めてポケットにしまった。

 

なんだか清々しい気分だ。

 

向かい側から女の子が歩いてくる。

 

もうあの子がガムを踏むことはない。

 

 


突然、背後からブレーキ音が響いた。

 

 

 

俺の鼻先をかすめてトラックが突っ込んできて、女の子が、轢かれた。

 

ガムは、吐き捨てた方が良かったのだろうか・・・。