『かなり』

干支に入れてよ猫

【スポンサーリンク】

ライオンの檻に「同じ四足歩行でしょ」とチワワを投げ入れる馬鹿は居ない

どうも、坂津です。

杜王町の街並の色がとても好きです。

良い意味で「雑な」感じが素晴らしい。

引っ越したくはないけど。

 

 

 

私はオタクです。

いや、胸を張って言えるほどのオタクではありません。

普通の人から見れば十分にオタク、しかし普通のオタクから見れば不十分なオタク。

要するに中途半端なんです。

会社のデスクに置いてあるカレンダーはお手製で、5月の今はチルノと大ちゃんが涼しげな雰囲気を醸し出してくれています。

ちなみに来月は梅雨なので多々良小傘です。

オフィス内ではそんな私をオタクとして扱い、私もそれを許容しています。

しかし、たまに相手が「ガチ」だったりすると困ったことになります。

 

普通の人はオタクについて詳しくありません。

十把一絡げに「オタク」という分類としてしか認識してくれません。

しかしオタク業界ほど理解が難しい世界も無い、と言っても過言ではないほど、なんともジャンルが煩雑な業界なのです。

その上、自分が身を置くジャンル以外には排他的であり、時には敵対視すら厭わない。

 

そんなオタクに対して一般人は「え、そういうのが好きなんだ。ウチの会社にも居るよ、そーゆー奴」みたいなことを平気で言ってしまう。

オタクとオタクの区別がつかないから。

で、混ぜようとする。

「今度紹介しようか、面白い奴だよ」

こんなことを言われた時点で人生経験、特に対人経験値の乏しいオタクはすぐに「自分と同じ種族の仲間に会える」と勘違いしてしまう。

 

そしてドヤ顔で両者を引き合わせる一般人の横で「デュフフ・・・」と挨拶を交わしたオタクたちは、たった数秒でお互いの住む世界が違うと悟ってしまう。

 

こんな不幸なことが世の中にはあるんです。

 

これが、他ジャンル在住だったとしても同レベルのオタクなら、ある程度の会話は成立するのですが、全ての軸でレベルが違う場合は会話が成り立ちません。

コミュニケーションが取れないんです。

 

私のような広く浅くのオタクモドキが、何の因果かガチもガチどこからどう見でもそのスジのヒトと意思疎通など図れるはずもないんです。

 

「昔、少年野球で一度だけホームランを打ったことがあるよ」

という私を、一度もスポーツなどしたことのない人が過剰に評価し

「坂津さんってスポーツマンなんですね」

と判断し、いきなり知り合いのプロサッカー選手と引き合わせる。

「スポーツマン同士だから話が合うでしょ。ドヤァ」

 

こんな地獄があろうか。

 

だから皆さんも、誰かと誰かを引き合わせるとき、せめて両者のレベルが同じ程度かどうかは見極めてからにしていただきたい。

自分が明るくないジャンルの人だとしても、せめてレベルは。

レベルだけは。

 

お願いします。

『32%』

「ねぇ、誕生日と血液型教えてくれない?」

 

突然、女の子に声をかけられた。

 

いきなりでびっくりしたけど、すごく可愛い子だったからすぐ答えた。

その子は俺の誕生日と血液型をスマホに入力しながら言う。

 

「急に変なこと言ってごめんなさいね。でもあなたを一目見て、この人ならって思ったの。ちょっと待ってね」

 

そして嬉々としてスマホの画面を俺に向けた。

 

「見て!思った通りだわ!あなた最高!ほら!あなたと私の相性占い!」

 

スマホの画面にはキラキラしたデザインのハートマークがあり、中央部分に占いの結果らしきものが表示されていた。

 

『あなたと彼の相性は32%』

 


俺は眉をひそめた。

 

「ねぇ、私と付き合わない?」

 

甘い声と上目使いで言う彼女に即答でOKした。

 

理由はよくわからないけど、こんな可愛い女の子が誘ってくれるなんて、今までの人生では考えられない。

何かの冗談だとしてもここで断るという選択肢は無いように思われた。

 

「あ、私たち自己紹介もまだだったね。とりあえずウチに来ない?何か冷たい物でも飲みながら話そうよ。」

 

俺は完全に舞い上がってしまった。

女性の部屋など、片手で数えるほどしか訪ねたことの無い俺が、出会ったその日に告られ、そしてそのまま彼女の部屋へ行くだなんて。

 

彼女の部屋はキレイに片づいていて、余計なものは何もなかった。

机と椅子、本棚とベッド。

テレビ台の上にテレビ。

 

でかい冷蔵庫。

 

 

「アイスコーヒーで良い?シロップとミルクどうする?」

 

「あ、ミルクだけで」

 

彼女がコーヒーを持って来て、それを飲みながら他愛のない雑談をする。

そして俺は何気なく聞いた。

 

「なぁ、相性32%って普通に考えたら低くない?なのになんであんなに喜んだの?」

 

すると彼女は右手で俺の腕をそっと掴みながらじっと俺の顔を見つめ、左手で俺の胸辺りを撫でつつ、頬を紅潮させながら熱っぽく呟く。

 

「この手、その顔、この胸板。しかも相性32%!これはもう運命だって思ったの」

 

焦点の定まらないような艶っぽい目で俺を見ながら、彼女はそう言った。

 

意味不明だったが、彼女の仕草にドキドキした。

これはもしかすると、色々とOKかもしれない。

明日の仕事も、この際どうでも良い気分だ。

 

そうか、とだけ答えながら俺は、下心の沸騰を止めることはしなかった。

こんなに可愛いく魅力的な彼女ができるなら。

こんなに可愛いく魅力的な彼女とできるなら。

そう、彼女の魅力は俺の思考を停止させるのに充分だった。


頭がぼーっとしてきた。

 

彼女は薄く微笑み、服を脱ぎだした。

 

俺は驚いたが、視線を外せない。

 

ゆっくりと、しかし滑らかで艶やかな動きで彼女は肌を晒していく。

 

この脱衣ショーは、終わることに寂しさすら覚えるほど妖艶な時間だった。

しかし同時に彼女の裸体を期待してもいた。

脱いでいく過程と、その結果。

両立できない矛盾に苦悩する。

 

しかしこのパラドクスは、すぐに終わりを迎えた。

 

手がしびれる。

脳がしびれる。
俺はカーペットに倒れこんだ。

 

 

 

「ごめんなさいね。コーヒーに薬入れたから」

 

 

 

ぼやけた視界に、妖しく美しい後ろ姿を惜しげもなく晒す彼女が映る。

恥じらいや戸惑いなど一切の躊躇も無く、彼女は振り向き、そして冷蔵庫を開けた。

 

 

頭と腕、そして胸部の無い男がきちんと収まっていた。

 

 

薄れていく意識の中、彼女が恍惚の表情で俺に言う。

 

「前の彼氏と私の相性、68%だったのよ。あなたの頭と腕と胸で、100%・・・」